24話 小さな芽を守る柵
守るものができると、人は強くなる。
小さな畑に立てた柵は、不格好でも確かな安心の象徴。
それだけで夜の風も、少し優しく感じられる。
「こんばんは。こちら、終末ラジオ放送局」
レイの声がいつもより少し弾んでいる。
「今日はね、先日の大仕事の話をしようと思う。柵!」
マリがどこか誇らしげに言葉を継ぐ。
「そう、あれね。作るのに四日もかかっちゃったけど……」
「でも完成したのは二日前。前回の放送から数えたら、もう六日ぶりになるんだな」
二人は思い出す。杭を打つたびに腕が震え、ロープを張るたびに声を掛け合い、板を並べる時には笑ったことを。
汗と土にまみれた時間は、決して無駄ではなかった。
「で、安心してたらさ……昨日のことだ」
マリの声が少し低くなる。
「柵の外に、イノシシを見かけたんだ」
「そう。まだ近づいては来てなかったけど、やっぱり獣はいるんだなって実感したわ」
「でも柵のおかげで、芽は守られてる。……今のところはね」
放送室に沈黙が落ちる。
けれど、やがてレイが笑みを浮かべた。
「それでも、武器を振り回す必要がなかっただけでも救いよ」
マリもうなずく。
「うん。あの時、手に汗握ってたけど……結局は柵が守ってくれたんだな」
「不格好でもいいさ。オレたちの畑は、オレたちが守る」
「さて、今日のニュース!」
レイが急にラジオっぽく声を張る。
「我らが畑の芽、順調に育っております!」
「おぉ〜!」とマリが大げさに拍手する。
「しかもね、芽の背がほんの少しだけ高くなってたの。昨日と比べると、ほら……指一本分くらい?」
「ほぉ〜!それはすごいニュースだな。背くらべできる日も近いかもな」
「ふふっ。あとね、柵に小鳥がちょこんと止まってたのよ」
「おぉ……もう“立派な農園”って感じじゃないか」
「でもその鳥が芽をつつかないか心配で、思わず手を振って追い払っちゃった」
「はははっ、ニュースの裏側は必死の攻防だったわけだ」
「それでも、芽は今日も元気。……小さいけど、確かに育ってるの」
「うん。私たちの小さな未来、だな」
二人の声に、穏やかな笑いが混ざる。
「……で、次は何しようか?」
「そしたら、いつもの妄想お便りコーナーでもやりますか!」
レイの声に、マリが小さくため息をつく。
「恒例だから仕方ないな……」
≪妄想お便りコーナー≫
「ラジオネーム・“柵職人見習い”さんからのお便りです」
レイがわざと真面目な声で読み上げる。
『柵を作ったら、逆に中に閉じ込められた気分になってしまいました。どうすればいいですか?』
「……なるほどね」
マリが腕を組む。
「答えは簡単。門を付けろ」
「おぉー!即解決!」
レイが笑いながら机を叩く。
「いや、真面目に門つけないと出入り不便だよな」
「そうなのよね……次の課題かもしれない」
放送室の空気は、作業の疲れと小さな達成感で満たされていた。
マリ「なぁレイ、杭打ってるときさ、腕がぷるぷるして震えてたろ」
レイ「ちょっと!それ言わなくていいでしょ!」
マリ「いや、なんか釘が笑ってるみたいに曲がっててさ」
レイ「……次はあなたがやりなさいよ」
マリ「えっ、それはちょっと……」
――その時、スピーカーから「……ザザ……ッ……」と、短いノイズが走った。
二人が思わず顔を見合わせる。
レイ「……今の、聞こえた?」
マリ「ああ。……気のせいじゃないよな」
沈黙が数秒流れ、やがてレイが小さく笑う。
「ま、ラジオってそういうものよ」
マリ「……だといいんだけどな」




