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第21話 遠征前夜のソワソワ

明日のことを考えると、胸が高鳴る。

けれど同じくらい、不安も静かに押し寄せてくる。

行きたい、でも怖い。

そんなソワソワが眠れぬ夜を作る。


「こんばんは。こちら、終末ラジオ放送局」

レイがマイクに向かって口を開いた。


「……なんか、浮ついてねぇか?」

マリがニヤリと笑う。


「そりゃそうよ。明日、遠征だもん」

「素直だなぁ」

「だって、ちょっとワクワクするんだもの」


放送室の机には、明日のための荷物がずらりと並んでいる。

乾パンや栄養バー、ペットボトルの水。

折りたたみナイフに懐中電灯、地図やノートも忘れずに。

こうして眺めると、準備してきた日々がひとつの形になったようで、少し誇らしい気持ちになる。


「なぁ、思ったより近いんだよな。ホームセンター」

マリがパンフレットの地図を指でなぞる。

「うん。歩いて2時間くらい。往復でも丸一日で済む」

「……ちょっとした小旅行だな」

「そういう言い方すると、余計に楽しみになっちゃう」


二人で笑った。

不安がゼロなわけじゃない。

けれど、「行ける距離だ」という事実が背中を押してくれる。


「ホームセンターと薬局、両方寄れそうだな」

「そう。柵用の資材、防護手袋、水タンク……薬も補充できるかもしれない」

「おぉ、頼もしいじゃん」

「……ただ、カートがちゃんと動けばの話だけどね」


マリが頭をかきむしる。

「サビついてガタガタ言うやつだったらどうすんだ」

「二人で力を合わせて押す!」

「……マジで?」

「マジよ。だって、それも冒険の一部でしょ?」


マリは思わず吹き出す。

「ははっ、お前、肝据わってんな」

「違うわよ。ただ、ちょっと楽しく考えたいだけ」


放送室の窓から見える風車が、ゆっくりと回っていた。

その音は、今夜は不安を煽るものではなく、明日へ続くリズムのように聞こえる。


「……で、だ」マリが言った。

「不安で寝れそうにねぇから、気を紛らわせようぜ」

「何を?」

「恒例の妄想お便りコーナー!」


レイは小さく吹き出した。

「こんな時にまでやるの?」

「こんな時だからこそだろ?」


二人は即席で紙を取り出し、妄想のリスナーから届いた体で読み上げる。


「ラジオネーム・未来の便利屋さんからのお便りです。『ホームセンターに行ったらつい買ってしまうもの、ベスト3を教えてください!』……だそうです」

レイが読み上げると、マリは机を叩いて笑う。


「いや、買うって感覚、懐かしすぎるだろ!」

「いいのよ、妄想なんだから」

「よし、俺は……軍手! あれ万能だからな」

「私は……収納ボックスかしら。絶対使い道あるでしょ」

「地味すぎねぇか?」

「現実的でいいの!」


ふたりはしばらく妄想に盛り上がり、不安を笑いに変えていった。

それでも、時折静けさが戻ると、心臓の鼓動がはっきりと聞こえる。


「なぁ、レイ」

「ん?」

「正直に言うと、やっぱ怖い。でも……楽しみでもある」

「……同じ気持ちだよ」レイは微笑む。「ここまで準備してきたからね」


二人は顔を見合わせ、小さく笑った。

怖さは消えない。

でも、近場で済む安心感と、小さな旅のワクワクが、それを和らげていた。



マリ「……なぁ、眠れねぇ」

レイ「ソワソワしてるからでしょ」

マリ「子どもかよ俺は」

レイ「ふふ、でもその顔は遠足前の小学生と一緒」

マリ「……おい、それ言うな」


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