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第17話 静かな夜に語る、過去のこと

普段は未来を見ているようで、実はいつも過去にしがみついているのかもしれない。

笑い飛ばす日々の裏に、消えない記憶がある。

それでも語るのは、ただ一緒にいるから。


「こんばんは。こちら、終末ラジオ放送局」

レイが少し落ち着いた声で始める。


「……今夜は、ちょっと真面目に語ろうか」

マリがぽつりと付け足す。


放送室の空気は、いつもより静かだった。


「パンデミックが始まった時のこと、覚えてる?」

レイが問いかける。


「覚えてるさ。最初はニュースでしか聞かなかったんだ。なんか遠い国で大変なことが起きてるって」

マリの声は淡々としていた。


「でも、あっという間に広がって……。気づいたら、この街も機能しなくなってた」

「人が減って、物音が減って、最後には……“静けさ”だけが残った」


レイは少し目を伏せる。

「それで、私たちはこの拠点にたどり着いたのよね」


「準都会の外れにある古い放送局。壁のペンキは剥がれ、看板も傾いてた」

「でも中には思ったより機材が残っててさ。電源さえ確保できれば放送できるんじゃねーかって」


「ええ。あの時、半信半疑でスイッチを入れてみたら……」

「ちゃんと声が流れてきて、びっくりしたよな」

「私も驚いたわ。けど、あの瞬間に思ったの。『まだ届くかもしれない』って」


マリが少し笑う。

「だから続けてるんだろ、今も」


レイは窓の外に目を向けた。

「裏の駐車場に並べた小型ソーラーパネル、あとはあの錆びついた風車……」

「ギィギィ鳴りながら、どうにか回ってるやつな」

「ええ。太陽が出てる日はいいけど、曇りが続くと一気に電力が足りなくなる」

「風が吹けばマシだけど、あれも気まぐれだしな。回らない日なんてザラだ」


レイが少し笑う。

「だからこうして、数日置きにしか放送できない」

「でもまぁ、そのくらいのペースがちょうどいいのかもな」

「ええ。生きてる証を残すみたいなものだから」


「……なぁレイ」

「なに?」

「なんで俺を誘ったんだ?ラジオ、一人でもできたろ」

「一人で喋っても、きっとすぐ黙っちゃうと思ったの。あなたが隣にいれば、どうでもいい話でも続けられる」

「……なんだよそれ」

「本当のことよ」


マリは小さく息を吐いた。

「まぁいいや。こうして続いてるなら、それで十分だ」


「それにしても……裏の駐車場、畑っぽくなってきたわよね」

「だな。土むき出しを耕しただけなのに、芽が出てる」

「トマトにジャガイモに豆。順調に育てば缶詰生活ともお別れできるかも」

「ラジオと畑とソーラーパネルと風車。……終末にしては派手な取り合わせじゃね?」

「いいじゃない。喋るだけじゃお腹は満たせないんだから」

「でも、放送の合間に水やりしてるレイは……ちょっと可愛いぞ」

「……からかわないの」


しばしの沈黙の後、レイが小さく呟いた。

「他の生存者、いると思う?」

「いるんじゃないか?どっかで俺たちみたいに必死に暮らしてる奴が」

「……そうね。もし聞いてるなら、合図くらいは欲しいものだわ」

「ラジオのノイズ、あれももしかしたら……」

「可能性はある」


二人の声がわずかに沈む。

けれどマリがすぐに笑って言った。

「でもまぁ、今は二人でやってくしかないな」

「ええ。だから続けるのよ、この放送を」


「さて……次は何しようか?」

「そしたらいつもの妄想お便りコーナーでもやりますか!」

マリが声を明るくする。


「今回のお便りは〜! ラジオネーム・過去を懐かしむ人さんから!」

“パンデミック前の日常で、一番恋しいものはなんですか?”


「私は……コンビニのコーヒーね。安いのに、ちゃんとした味だった」

「俺はゲーセン!友達と馬鹿みたいにゲームして笑ってたのが懐かしい」

「普通の毎日って、当たり前だったのよね」

「当たり前が一番特別なんだな」


「というわけで、今日は少し過去を振り返ってみました」

レイがまとめる。

「語ったところで何も変わらないけど……たまにはいいだろ?」

マリが笑う。

「思い出すことも、生きてる証だから」

レイの声が少し優しくなる。

「これからも、二人で続けていきましょう」


静かな夜に、ラジオの灯りと、外で軋む風車の音と、小さく芽吹いた畑の苗が確かに息づいていた。



マリ「なぁ、風車止まってると不安になんだよな」

レイ「でも回りすぎても発電機が壊れるから困るのよ」

マリ「……気まぐれすぎるだろ、風」

レイ「まるであなたみたいね」

マリ「えっ!?いや、俺はもっと安定してるって!」


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