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ジジのクリシェな冒険_あとがき

【謝辞】

 ゲイリー・ガイギャックス、グレック・スタフォード、黒田幸弘、真木修平に多大なる感謝を捧げます。


 この物語は、ゲイリーが創造した「ロールプレイングゲーム」の概念、そしてグレッグが拓いた「世界を創造する」という喜びがなければ生まれませんでした。また、日本にこの文化を紹介された黒田幸弘、そして別の文脈で「世界を創造する」悦楽を示してくださった真木修平にも、心よりの感謝を捧げます。これらの方々がいなければ、この物語が形になることはありませんでした。




【物語の原点:アーサー王とグィネヴィア王妃の物語】

 「ジジ(Gigi)」はフランス語圏の人名である「ジュヌヴィエーブ」の愛称です。『機動戦士ガンダム閃光のハサウェイ』に登場するファム・ファタル、ギギ・アンダルシアの名は、この「ジジ」のローマ字読みに由来するものでしょう。


 この物語の主人公「アルチュール」と「ジュヌヴィエーブ」は、それぞれ英語の「アーサー」と「グィネヴィア」に相当するフランス語名です。

 つまり、この物語の主人公は、「アーサー」と「グィネヴィア」なのです。


 この物語の出発点は、トマス・マロリー『アーサー王の死』(井村君江訳、筑摩文庫2004-2007年)です。作中ではあまり良く描かれていないグィネヴィア王妃ですが、東野圭吾氏の『名探偵の掟』(講談社1996年)における「名探偵がたまたま殺人事件に遭遇し、明晰な推理で事件を解決するのは、その背後で舞台上では無能役を演じている警部が、殺人事件を用意し、名探偵の推理のための証拠を見つけやすく配置する役割を担っていたからだ」という筋書きに触発され、筆者はある妄想を抱きました。それは、グィネヴィア王妃が、人知れずアーサー王と円卓の騎士たちの活躍を舞台裏で支えていた、というものです。これが、この物語の出発点となりました。


 その後、ループ要素が加わるなどの紆余曲折を経て、、アーサー王伝説の色彩は薄れてゆきますが、「アルチュール」「ジュヌヴィエーブ」といった名前、円卓の騎士を模したシンジケート、円卓での食事、そして章のタイトルなどに、その幾分かの痕跡が残されています。




【冒険のデザイン:RPG作品へのオマージュ】

 作中のいくつかの冒険は、先人たちの輝かしい作品へのオマージュです。


 主人公たちが最初に挑むドワーフとのダンジョン探索は、黒田幸弘の『D&Dがよくわかる本』(富士見文庫1987年)から着想を得ました。また、少年の冤罪を晴らすための燭台を巡る冒険は、清松みゆきの「不幸の燭台」(『石巨人の迷宮』富士見文庫1989年)に、そしてネクロマンサーの木材加工業にまつわる冒険は、新和版『D&Dエキスパートルールセット』のシナリオフック「帰郷」に、それぞれアイデアの源を求めました。これらは、私たちにロールプレイングゲームの魅力を教えてくれた、かけがえのない作品群です。もしこれらの場面が皆様の興味を惹いたのなら、それは原典のアイデアが持つ力の賜物です。




【キャラクター造形について】

 拙作のキャラクターは、数多の先行するコンテンツから、多大な影響を受けました。


 主人公がジョギング愛好家であり、物語がジョギングシーンから幕を開けるのは、映画『幻の湖』へのオマージュです。琵琶湖畔を爽快に駆け抜ける主人公の姿は、今も筆者の脳裏に鮮やかに焼き付いています。


 長命に飽きた主人公が娼館で働くというアイディアは、キム・ニューマンの小説『吸血鬼ジュヌヴィエーブ』(ホビージャパン2007年)から得ました。しかし、主人公の名が「ジュヌヴィエーブ」であることは、前述の理由からです。


 主人公が女性戦士であるという設定は、C・L・ムーアの小説『暗黒神のくちづけ』(ハヤカワ文庫1974年)と、矢野健太郎のマンガ『ArbeZ』(ラポート1988年)からの影響です。前者の松本零士による美しい表紙は、今も鮮明に思い出すことができます。また、拙作のエンディングが、どこか不思議な日常の風景で締めくくられるのは、後者の作品から受けた影響に他なりません。


 拙作のヒロイン、ヴィルジニーの造形は、イラストレーター速水螺旋人の「ケンタウロスピストル騎兵」(『螺旋人リアリズム』イカロス出版2010年)と、九井諒子のマンガ「現代神話」(『竜の学校は山の上』イースト・プレス2011年)に多くを負っています。ケンタウロスのヒロインは、あまり類例がないものだと考えています。




【物語構造への影響】

 主人公が同じ時を繰り返す物語構造は、ゲーム『ガンパレード・マーチ』、その派生作品である映画『オール・ユー・ニード・イズ・キル』、そして映画『東京リベンジャーズ』から、大きな影響を受けました。


 魔王討伐後、偉業を成し遂げた主人公たちがどのような扱いを受けるべきかについては、社会的に高く評価されるアニメ『グレンラガン』のルートと、表舞台から排除される映画『さらば宇宙戦艦ヤマト』、そしてアニメ『機動戦士Zガンダム』のルートで大いに迷いました。しかし、拙作では前者を選択しました。これはひとえに、筆者の人生経験の不足によるものです。いつか、ヤマトプロデューサー西崎義展のような人生経験を積んだ上で、後者の道にも挑戦してみたいと考えています。


 最終章で謎の女性がキャラクターたちのその後を紹介する描写は、アニメ『ふしぎの海のナディア』からの影響です。最終話のエンディングに突如として現れた、あの美しい女性は一体誰なのか、という衝撃は今も忘れられません。また、最終章における、情報量の多い拙速ともいえる展開も、このアニメから受けた影響です。それが効果的であったかどうかは、読者の皆様にご判断いただければ幸いです。




【潜在的な影響】

 ヒューマン・ファイター・オトコとエルフの女性がカップルとして描かれているのは、水野良のリプレイ「ロードス島戦記」(雑誌『コンプティーク』連載1986年)の影響、特に、出渕裕のイラストから受けた影響が大きいのだろうと感じています。それは、筆者に限らず多くの日本人にとっての原風景の一つではないでしょうか。


 執筆後に気付いたのですが、主人公が投げ槍によるカラコール戦術を用いるのは、田中芳樹の『西風の戦記』(朝日ソノラマ1988年)の影響だと思います。




【世界のリアリティを支える参考文献】

 クリティザンヌ、すなわち高級娼婦の描写については、アレクサンドル・デュマ・フェスの『椿姫』(岩波書店1934年)、ゾラの『ナナ』(新潮文庫2006年)、バルザックの『娼婦の栄光と悲惨』(上・下、藤原書店2000年)、山田勝の『ドゥミモンデーヌ』(ハヤカワ文庫NF1994年)、そして鹿島茂の著作に深く負っています。「カフェ「ウの国」」のモデルとなったレストラン「カフェ・アングレ」の特別室は、特別な楽しみを求める人々で常に賑わっていたそうです。『椿姫』にも登場するこのレストランは、当時の文化を象徴する空間でした。ちなみに、「ポムアンナ」の実際の名付け親は、高級娼婦のアンナ・デリヨンです。


 フランス料理に関しては、ジャン=ピエール・ブーラン&エドモン・ネランクの『フランス料理の歴史』(学習研究社2005年)、アレクサンドル・デュマ・ペールの『デュマの大料理辞典』(岩波書店1993年)を参考にさせていただきました。作中の料理人ギョームは、タイユヴァンからデュグレレまで、様々な歴史上の料理人をモデルにしています。オスマゾームという概念がデュマの時代まで存在していたことは、興味深い発見でした。


 使用人の描写については、ロジーナ・ハリソンの『おだまり、ローズ』(白水社2014年)、同『私はこうして執事になった』(白水社2016年)、そしてP・G・ウッドハウスの『ジーヴス』シリーズ(国書刊行会)を参考にしました。もし拙作から、英国臭を感じられたとすれば、その影響に他なりません。


 物語の舞台となる地名には、星座や星々の名を用いました。一部でアイヌの星名を取り入れています。末岡外美夫の『アイヌの星』(旭川叢書1979年)と『人間達の見た星座と伝承』(私家版2009年)を参考にさせていただきましたが、これらは現在入手困難であり、北海道の図書館で閲覧するしかありませんでした。強く復刊を望みます。


 拙作には、落語の演目から直接引用した台詞がいくつか存在します。お分かりになったでしょうか。また、もし拙作の文章にユーモアを感じていただけたのなら、それは多くの落語演目から受けた影響の賜物だろうと思います。




【シンクロニシティ】

 拙作の執筆中に、『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』が放映されました。この作品は、愛する人を救うためにいくつもの世界線を彷徨うという点で、私の物語と共通するテーマを持っており、奇妙なシンクロニシティを感じました。

 拙作は、ララァに焦点を当て、ズダに乗るシャア、そして山下いくとがデザインした人型決戦兵器のプロトタイプに乗るシャアを描いたものと言えるかもしれません。アゥ・バゥ・アクーは消滅してしまいましたが、デラーズフリートのコロニー落としや30バンチ事件が起きなかった世界線は、それなりに平穏な場所にたどり着いたように思います。個人的には、シャアをモビルスーツに乗せず、ヒモとして養うララァを見てみたかった気もします。

 富野由悠季の作品で産湯を使い、『サイバーコミックス』で育った者として、同時代性を強く感じます。異なる作品でありながら、同じ時代に同じようなテーマに向き合っていることに、不思議な縁を感じずにはいられません。




【最後に】

 最後に、ケン・セントアンドレへも心よりの感謝を捧げます。どうか、いつまでもお元気で。

To Thank You Forever.


 そして何よりも、この長い旅路の終着点である、あなたの心にこの物語が届いたことに、最大の感謝を捧げます。本当にありがとうございました。

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