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第二話「旅路」

 空を飛ぶといっても所詮滑空しているだけ、簡単に言えばとても緩やかに落下しているのと変わりはない。

 故に暫くすれば着陸することとなり、その都度少し開けた場所に出ては飛び上がり空を滑る、これを繰り返す。


 何度か着陸と滑空を繰り返していると空が朱色を纏い始めた。


「そろそろ夕刻か…暗くなれば魔物共が活動を始める……」


 何処か腰を落ち着かせられる場所はないだろうか……

 そうして辺りを空から見回していると川沿いに少し開けた場所が見えた。


(水場も近い、今日の宿はここら辺にするか)


 そう考えた俺は身体を起こし空気抵抗を強く受けて減速する。

 そのまま緩やかに慎重に降りてゆく。


「ふう…やはり急な着陸は難しいな……」


 そうして無事地上に降り立った俺は寝床の支度を始める。

 川辺に生えた木から幹が太く丈夫なものを選ぶ。

 羽織っていた衣を脱ぎ、両端を別々の幹に縛り付ける。

 この衣は灼鼺鼠(しゃくるいそ)という巨大なムササビのような魔物の毛皮から作ったもので、魔力を流すと伸縮性が増し大きく伸び広がり少し熱を帯びるという特徴がある。

 こんな風に立ち木に縛り付ければ簡易的な吊床になるのだ。


「寝床はこんなものか…」


 次は獣除けのための焚き火を準備する。

 手頃な乾燥した枝を拾ってきて、井桁(いげた)型に並べていく。

 これは昔親父から教わった積み方で、火を恐れる魔物共を(はら)うのには火が高く燃え上がるこのやり方がいいのだ。

 しかしこの積み方は欠点もある、燃料が燃え尽きるまでが早いのだ。

 まぁそこは我慢するしかないのだが…


(さてと、まだ空は朱いな…少し早い気もするが夕飯にするか)


 といっても干し肉や味噌玉、鼈甲飴(べっこうあめ)等の簡易食しか持ってないが。



 §



 干し肉を咥えながら衣吊床に揺られて天を見上げる。

 日が暮れに夜が混ざる青鈍色に星が見え始めている。

 

「そろそろ火を焚いたほうが良さそうだな。――火片」


 俺がそう唱えると薪に向けた手の平から火の粉が散る。

 そして井桁の中央に置いた植物の繊維に引火する。

 少し待っていると炎が少しずつ大きくなっていく。


(…明日は早くから立たないとけない、早めに寝るか…)


 咀嚼していた干し肉を飲み込み、目を閉じる。

 パチパチと小さく爆ぜる焚き火の音を子守唄に、意識を落としていく。



 §



(ん…朝か?)


 目が醒めると辺りが少し仄暗い空が広がっていた。

 小鳥の囀りに耳を傾け眠気の余韻に再び目を閉じる。

 髪を撫ぜる風が木葉を揺り鳴らす。


 (…こういう目覚めも悪くない)


 身を起こし吊床から降りて、目覚ましついでに川の水で顔を洗う。

 寝癖を懐中鏡で確認しながら水で直し紐で縛る。


 木に結び付けてあった衣を解いて軽く叩き羽織る。


「さて、行くか」


 そして再び飛ぶ。



 §



 何度か野宿を繰り返し数日、港の宿場"水波門(みなと)(ちょう)"の関所に到着した。

 ここはヤマト国と外国を繋ぐ門口となっていて、船旅に疲れた旅人の休憩所となっている。


「おいそこの、止まれ!」


 その関所を潜ろうとすると、男が俺の前に立ちはだかった。

 

「ん? なんだ」

「この関所を通るなら関銭を払ってもらおう」

「…そうか、すまないが今持ち合わせがない。コイツを換金できる場所はないかい」


 そう言って俺は蔓を編んで作った袋を見せる。


「中身を確認させてもらおう」

「おう、構わない」


 そう言って渡した袋を確認した兵は驚いた様子でこちらに顔を向けた。


「この赤剛毛…まさか鬼熊の毛皮か…!?」

「おう。道中かち合ってな、ついでに狩ってきた」

「お前が鬼熊を狩っただと? 本当か?」

「嘘付く必要もないだろ」

「……わかった、こいつ一片を関銭として貰おう」

「ありがとさん」

「それじゃ、水波門内ではこの札を見える場所に提げておけ。この関所を通った客人の証だからな」

「承知した」


 門兵に小さく礼をして今度こそ門を潜る。

 貰った木札は帯に提げている。

 少し進むと奥に海の見える通りに出た。

 その通りには宿屋がズラりと並んでいる。


 (もう夕刻が近い、流石に船は出ないだろうが…一応確認しておくか)


 そう考えた俺は奥先に見える港へ足を進める。

 


 §



 しばらく歩くと船の並ぶ波止場が見えてきた。

 その近くにいた水夫らしき男に声をかける。


「すまない、聞きたいことがあるのだが」

「うん?見ない顔だな、旅人さんか」

「セルビュリア王国に行きたいんだ」

「それならあそこの船が王国向けの貨物船だ。船主に頼めば乗せてくれると思うぜ」


 そう言って男は少し離れた場所に碇泊している大きめの船を指さした。


「出航するのは明日になるはずだ、今日は宿を取るといい」

「そうか、ありがとう。助かった」


 男に礼を言い、教えてもらった船に向かう。

 近くまで行くと船のそばに若い男が立っていた。

 歩いてくる俺に気付いたのかこちらを向いた。


「おや、見ない顔だね。旅人さんかい?」

「ああ、緋暘(ヒイズル)(セツナ)と申します。セルビュリアまで行きたいんだ。貴方の船に乗せてはくれないか」

「僕は汐原(シオハラ)といいます。王国までの運送ですね、構いませんよ。ですが寝床は用意できませんよ?」

「吊床を作れればそこで寝させてもらう」

「それでは、明日の夜明けと共に出港するからその時間までにはこの港に来てくれるかい」

「承知した、恩に着る」


 そうして汐原殿と別れた俺は適当に宿を取り、翌日を迎えた。

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