第8話
遅刻も早退もせず、厳しい校則も一度も指導を受けることなく、往復4時間強の道のりを通い続けた高校3年間。母の教えに従ってしまったせいで、友人関係こそは浅いままだったが、かけがえのない友人、田辺と出会い、そして、この男子校でしか味わえない青春を数々経験した星野。芸能人としての縛りが無い学校行事への参加は、今迄で一番輝き、夢だった修学旅行にも参加。女子に邪魔されない空間は、まるで天国にいるかのような、そんな居心地の良さを感じていた。
高校を卒業した星野は、実家から離れた大学へ進学。その大学には、田辺も進学。学部は違うものの、同じバイト先を選び、狭くて古いアパートの一室をシェアして暮らすなど、もはや友達の域を超えた関係になりかけていた星野と田辺。そして、2人は在学中に、とある夢への一歩を踏み出す。
その一歩を踏み出すキッカケを持ち掛けたのが、田辺だった。星野が高校生の頃から抱き続けている夢、起業に対して、星野が知らない間に、田辺自身も少しずつ興味を持ち始めていたのだ。そして大学3年の8月の晩、夜空に打ちあがる花火を、バイト先の屋上から見上げながら、田辺が星野に問いかけた。
「なぁ、星野」
「なに?」
「起業、本当にするつもりなのか?」
「うん。するつもりだよ」
「それってさ、どんな会社?」
笛を鳴らしながら空へと昇っていく花火。
「代行サービス」
「代行って、何の?」
「転生」
「転生って・・・・・・、もしかして生まれ変わりの?」
「うん。あの転生だよ」
破裂音とともに、大きな花火がいくつも夜空に花を咲かせる。
「へぇ、って、いや待て。どうやって転生を代行するんだ?」
「僕が代行するんだよ」
「え、星野が?」
「うん」
「でもどうやって・・・・・・」
「簡単だよ。僕が持つ能力を活かすのさ」
「星野が持つ能力・・・・・・?」
「実はね、転生できる能力を持ってるんだ」
バラバラと音を鳴らしながら、美しく散っていく花火。
「は? え、星野、お前、勉強しすぎて頭おかしくなったのか?」
「えへへ、なかなか理解できないよね」
「分からないな」
「じゃあさ、明日のバイト終わり、ちょっと夜道歩かない?」
「え、何でまた」
「死にかけた野良猫を探しに」
この会話をした翌日、星野は田辺を連れて夜道を歩き続けた。そして、深夜1時過ぎ、道端で弱っている猫を見つけた2人。星野は目を輝かせながら、こう呟く。「今からこの猫に転生するから。見てて」と。星野の言っている意味が分からない田辺。頭を抱えてあたふたしている間に、自分の姿を消し、元気になった野良猫が1匹佇んでいるだけ、という現象を、田辺がいる前で起こした星野。そして、中身が星野の猫は、田辺の周りを何度も何度も、ぐるぐると歩き続ける。
「おい、星野」田辺が不安げな様子を顔に滲ませながら言う。猫はニャアと甘い声を発する。田辺が当たりを見渡すも、星野の姿はどこにもない。目の前で起きている現象が全くもって理解できない田辺は、ムキになり、「遊ぶのも大概にして、いい加減出て来いよ」と、怒りを露に。すると数秒後、田辺の背後、星野がいきなり姿を覗かせる。腕には転生していた猫を抱いて。
「ちょっと、そんなにムキにならないでよ」
いつものテンションで田辺に話しかける星野。田辺は目を丸々と見開き、「・・・・・・星野、なのか?」と疑心暗鬼な様子で尋ねる。
「そうだよ」
「えっ、あ、え、ね、猫は?」
「死んだ」
そう言って、死んだ猫を田辺に差し出す星野。田辺はハッと息を呑み、身震いし始め、目を伏せた。そして、声を震わせながらこう言ってきた。
「死んだって、俺の目の前でか?」
「大丈夫だよ。ちゃんと成仏してもらったから」
怯えているように見える田辺に、屈託のない笑顔を見せ続ける星野。田辺の目を見ながら、こう伝えた。
「ね、これで分かったでしょ? 僕が転生できる能力を持ってるって言う意味が」
と。