第7話
俳優という肩書を背負ったままで受けた高校受験。選んだのは、家から車と電車を乗り継いで2時間近くかかる男子校。偏差値はそれほど高くないが、校則が厳しいいことで有名で、わざわざ入学しようなんていう生徒は少ない。そんな学校だった。もちろん、星野の暮らす家の近くにも、学校色が豊かな、様々な高校はあるのだが、どこも共学だった。小学校、中学校で、それぞれ女子からの熱烈なアピールを浴び続けたことにより、高校では、とにかく女子という存在から遠い距離を置きたくて仕方なかった星野。そういう理由で選んだ男子校だったのだが、両親は反対することなく、むしろ男子校で正解だと言ってきた。
そして満を持して受験した星野。やはり面接試験では、芸能人として活動していた経歴についての話になり、どうして芸能界に入ったのか、また、何がキッカケで芸能界を辞めたのか、その本当の理由を赤裸々に明かした星野は、無事に第一志望である男子校に合格。4月には一般人として高校に入学し、第2の星野昇多として、新たな門出を迎えた。
一般人となった星野は、これからも俳優として活動をしていた強みを生かして、でも、これからは芸能人だから、という縛りのない自由な学校生活や私生活が送れる、そう信じていた。
ただ、星野が思っているほど現実は甘くなく、簡単には一般人として馴染むことはできなかった。
受験のときは、星野に声を掛ける男子は現れなかったのに、入学してみると世界は変わった。やはり、生徒だろうが先生だろうが、誰の中でも星野昇多は子役のころからの天才児・俳優というイメージが強く、一般人としては扱われなかった。入学式以降、毎日のように声を掛けられ、ダル絡みされて、質問され、ファンだと言われ、時には同性として好きだと告白され・・・、そういう環境下に置かれてしまった星野は、自分が芸能人であったという過去が忘れられず、母親の教えの通り、高校でも広くて浅い交友関係しか築くことができなかったのだ。
しかし、そうした中でも、星野には初めてと言ってもいいぐらいの、気心許せる友人ができた。その人物の名前は、田辺快征。星野のクラスメイトであり、同じ図書委員だ。
星野が田辺と仲良くなるまでには時間を要していた。なぜそんなに時間がかかったのかというと、周りの同級生たちや先生が星野のことを芸能人として扱ってくるために、田辺からの声掛けも、そういう類でしかないと、勝手に思い込んでいたことが原因だった。そういう思い込みのままに田辺と会話していると、自分のことを、クラスメイト、一般人、として扱ってくれていることに気付いた星野。性格こそ違うのに、なぜか波長が合った2人は次第に仲良くなっていき、いつからか、常に行動を共にしている関係に。友達になろうなどと言うことはなく、自然と田辺に対して心を許していった星野。知り合って2か月弱が経とうとする頃には、田辺の存在自体が、星野の心の拠り所となっていた。
そんな田辺は、学年の中で一番パソコンに関する豊富な知識をもち併せていた。その知識量は随一で、情報系の授業を担当している教員よりも頼りにされてしまうほど。そんな田辺に対し、星野はとある話を持ち掛けた。それは、「もし将来、僕が会社を起業したら、田辺がシステムエンジニアとして、会社のシステムを支えてくれないか」というもの。その話に田辺はあまり乗り気ではなかった。そんな田辺お気持ちを知らない星野は、夢を実現するために、起業に向けての策略を既に練り始めていた。もちろん、システムエンジニアの1人に田辺を採用することを見越して。そして、この話は、のちに正夢となるのだった。