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代行サービス、運否天賦です  作者: 成城諄亮
第6生 高瀬隼哉
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第17話

 試しに送ったメッセージに既読が付いたのは、送ってから1時間後のことだった。しかも、既読が付いただけではなく、おおかた5か月ぶりに送信がされたのだ。


ついさっきまで眠っていた自分は、ベッドから飛び起き、そのまま階段を駆け下りた。ちょうど、親父が会社から帰宅してきたタイミングだった。


「隼哉じゃないか。どうしたんだ」

「親父、星野君から、メッセージ届いたよ」

「何だって」

「ん、これ」


スマホの画面を親父に見せる。親父は老眼鏡をかけて、黒目を左から右に動かし続ける。星野君から送られてきたメッセージは、3つに分けられた形で送られてきていた。


「隼哉さん、お久しぶりです。星野です。この度は、成り変わりの件を反故にしてしまい、申し訳ありませんでした。今まで送っていただいたメッセージは、全て読ませていただきました。ご迷惑、ご心配をおかけしてしまったこと、心よりお詫び申し上げます。言い訳に思われても構いませんが、僕の事情を聞いてください」


「実は、11月下旬から突然、成り変わりができない体質になってしまい、それが数日経過しても治らず、数日前まで原因を探っておりました。ですが、僕のような体質の方は他におらず、医学的にも原因が解明できないと断言されてしまいましたので、そのことを報告したく、今日ご連絡を差し上げた次第です」


「本来ならば、成り変わりができなくなった件、そして医療機関で色々と検査をしてもらっていることを、その度にご連絡差し上げなければならなかったのですが、焦燥感に駆られ、また、感情が定まらない日々が多くあったため、これでは隼哉さんにご迷惑をおかけすると思い、ご連絡ができずにいました。このことで、社長にもご迷惑をおかけしてしまいました。後日、謝罪に伺いたいと思っておりますので、お時間いただけると幸いです」


 全文を読み終えた親父は、小さく、掠れた声で呟いた。「そうか」と。


「明日あたりにでも、星野君に会いに行ってくる。自分が出向いたほうがいいだろ?」

「いや、来てもらいなさい。明日は土曜で会社も休みだ。ゆっくり晩酌でもしようじゃないか。こうして、隼哉も部屋から出て来られるようになったんだからな」


親父の皺だらけの手が肩に乗る。ほどよい温かさを服の上から感じた。


「晩酌に見合うお料理、作らないといけないわね」

「悪いな。迷惑かけるよ」

「いいのよ。ほら、あなたも、早くお風呂行ってらっしゃい。いつもの、冷えてますから」

「あぁ、そうだな」


 ボタンを外しながらリビングを出て行った親父。おふくろは振り返り、冷蔵庫に手を伸ばす。そして、「隼哉、食べるなら持って行きなさい」と言いながら、野菜炒めが入る食器を両手で持った。自分はおふくろの元へ近づく。ラップの下には、大小さまざまなサイズの水滴が付着していた。


「おふくろ、今日はここで食べるよ」食器に片手を添える。おふくろは驚きながら、「いいの?」と問う。


「うん。それと、ちゃんとした生活リズムに戻すよ。まだ会社には行けないかもだけど、今から訓練しておこうと思うから」


自分の発言に、おふくろは「そう」とだけ言って、頷いた。思っていたよりも控えめな反応であり、宣言したみたいな感じがして、急に恥ずかしいという感情が全身を熱くさせた。ただ、後ろを向いたおふくろは、袖で涙を拭っていた。すすり泣きをしているようだった。

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