第15話
太陽が昇る時間が遅くなろうと、逆に沈む時間が早くなろうと、そしてまた、半袖から長袖に服装が変わろうが、特段、自分の生活スタイルに変化がもたらされることはなく、12月を迎えて4日目。あと2日で34歳の誕生日を迎える。けれどまだ、成り変わりの日は聞いていなかった。そんな折、星野君から1件のメッセージが送られてきた。寝ようかと思ってベッドに腰かけたタイミングのこと。充電器を外し、画面に目を近づけ、細める。
「んっ……『隼哉さん、お久しぶりです。星野です。お休み中のところ申し訳ありません。僕からお伝えしたいことがあり、連絡させてもらいました。実は、』……ん、続きは……?」
途中で途絶えているメッセージ。何か送ってきている途中なのかもしれない。そう思って、しばらく返事を待ってみた。が、いつになってもメッセージは送信されてこず。試しに「続きは?」と送信してみるも、既読は付かないままだった。20分が経過したのち、睡魔に負けた自分は、スマホを充電することなく、そのまま眠りについた。
ただ、その途中で、自分は起こされた。親父からの着信があったから。太陽が沈む時間よりもだいぶ前。13時過ぎのことだった。
「隼哉」
「なに? 寝てるんだけど」起き抜け、不機嫌な状態で答える。
「あぁ、起こして悪かった」
「で、何?」
「家に星野君来てないか?」
「知らないよ。おふくろに訊けばいいじゃん」
「料理教室に行ってるだろ」
「あ、そっか」
曜日感覚は毎日のように狂っている。平日も休日も関係ない。毎日が休みだから。
「親父、会社にいるんだろ?」
「ああ」
「じゃあ何で居場所知らないんだよ」
「それが、午前で早退したらしいんだ」
声色からして、親父は星野君の居場所を本当に知らないようだった。そしてまた、心配しているようでもあった。
「何で疑問形なんだよ」
「午前は所用で出ていたからだ。社員に訊いたら、『社長に許可貰いました、って言ってましたよ』って言われたんだよ。許可なんて出してないのに」
「じゃあ、体調が悪いとかじゃないの? それを親父に知られたくなかったとかさ。あとは、何か外せない用事が入ったとか」
自分の発言に対し、親父は黙った。そして、しばらくしてから、怒気を含んだ声でこう言ってきた。「よく他人事みたいに言える」と。
「星野君との約束があるんだろう? 成り変わりだっけか? しなくてもいいのか?」
「……」
自分は成り変わった先で、何を望むというのだ。もし仮に、灯加以外の恋人ができて、その人と結婚するとなった場合、自分は素直にそのことを喜べるのだろうか。生活スタイルを見直して、仕事に復帰できるのだろうか。親から愛情を注いでもらえるのだろうか。成り変わったからといって、これらが現実のものになるとは到底思えない。ならば……
「いい。しなくていい」
「何言ってんだ、隼哉。楽しみにしたじゃないか。何でそんなこと——」
「ごめん、寝るから。じゃあね」
通話を切り、布団を被って眠りについた。溢れそうになる涙を堪えながら。