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代行サービス、運否天賦です  作者: 成城諄亮
第6生 高瀬隼哉
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第14話

 34歳になるまで、時間的にも経済的にも余裕はあった。親父の会社でもいいから復帰したいとは思っていたが、内容が内容なだけに、違う職業に就くということも考えた。が、結局、一度も新たな仕事に就くことはなかった。色々、事情があったから。


会社にも行かなると、ストレスも減るし、社長として振る舞わなくても済むようになるから、働いていたときよりは、少なからず健康体になれると思っていた。けれど、想像していたのとは異なり、昼夜逆転生活、そしてゲームの世界にのめり込んだ。おふくろが作った料理をちゃんと食べているだけマシだろうが、ある意味、理想の健康体にはなれていないのかもしれない。最近特にそう思うようになった。


親父もおふくろも多趣味で、親父は土日になるとドライブに出かけたり、ゴルフしに行ったりするし、おふくろも毎週水曜日の午後は近所の料理教室に通っているし、それ以外にも友達と手芸で小物を作ったりもしている。それなのに、自分には趣味と呼べるものがなかった。漸くゲームという趣味ができたけれど、それは自分の身体を確実に蝕んでいくものだった。


結婚してもいいと思えていた彼女と突然別れさせられ、これ以上、結婚する、という将来に気力も欲も見出せなくなったことが、まず問題だった。自分にとって灯加という存在は大きかった。彼女が作る料理は美味しかったし、喧嘩になることもなかったし、家族以外の人と過ごす幸せを教えてもらっていたから。手が届く範囲にあった幸せが、今は手を伸ばしたところで掴めない。闇雲に探すしかなくなっていた。


そんなこともあって、食欲がなくなり、一日三食から二食に変更。ただ、間食は増えていった。ゲームで負ける=悔しいという感情のままに、スナック菓子を簡単に二袋食べ切るし、エナジードリンクばかり飲んでいた。起きたらすぐ椅子に座り、ずっとゲーム。眠たくなると、ベッドに直行。合間でトイレに行ったり、シャワーを浴びたりするぐらいで、殆ど動かない。ここ数か月の間で体重は増加し、顔周りや腹回りに肉が付き始めた。昔は勉強もできたし、運動もできていた。けれど、それは全て過去の栄光であって、今はもう見る影もない。


 ほんの数年前まで、こんなに幸せな状態のまま人生が終わってもいいのかな、なんて思っていたのに。逆に現在は幸せな状態には程遠い。けれど、なぜか、このまま死んでもいいと思えていた。いや、このまま死ぬほうがよっぽど幸せなんじゃないか、って思っていたのだ。あのときの自分はまだ若かった。だから、ただ単に“幸せな自分像”に固執していただけなのだろう。馬鹿め。

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