第11話
目の前に座る星野君は、目の光を消して、ずっと自分のことだけを見つめる。背筋が次第に凍り始める。その視線にゾクッとする。
「どういう……、って!」星野君に言いかけた言葉を飲み込んで、「もしかして、星野君、転生できたりするのか!?」と、在りもしないことを口にする。そんな突拍子もない発言に、星野君は瞬きを2回して、ふふふと笑う。
「僕、隼哉さんが思われてるような転生はできないんですけど、成り変わりはできるんです」
「へっ、な、成り変わり?」
「はい。例えば、道端に死にかけの猫がいたとします。普通の人ならスルーするでしょう。でも、僕の場合は違うんです。その猫に僕が成り変わって、代わりに死んであげるんです。一方で、死にかけだった猫は、元気な姿でのこのこと歩いて帰る」
淡々と仮の設定状況をしゃべった星野君に対し、自分は脳内にクエスチョンマークが数個浮かんで、それと並行する形で首を傾げた。
「えっとぉ……、ん? いま、星野君って、ファンタジーの話でもしてる?」
「違いますよ。現実の話ですよ」
「げ、現実に、そんなことできる人が、いるのか!?」
「居ますよ。隼哉さんの目の前に」
口角をグイッと上げて、目を細めて笑った星野君。至純の心は、むさくるしい部屋で光彩を放つ。
「ゲームの世界だけじゃなかったとは……」
「そこですか、驚くとこ。他にもありますよね? ほら、例えば、猫に成り変われるんかい! みたいな」
「あ。悪かった」星野君の中途半端な突っ込み、そして自分の脳がゲームに支配されていることへの恥ずかしさから、俯きながら頭を掻く。
「それで、僕、今言ったみたいな感じで、人生の代行を仕事としてやってるんです。しかも、社長兼唯一の代行者って形で」
「なんか、ファンジー要素強いな……」
「そうですか? 僕はそう思いませんけど。ふふっ」
何なのだろう。自分と星野君の違いは。性別は同じ、男のはずなのに。過去の経歴? それとも、純粋さ? 経歴は敵わないとしても、純粋さは、昔の自分なら勝っていたはずなのに。一体自分はいつから正常という道を外れたのだろうか。
「今日ここに来たのは、隼哉さんの人生を代行したい、っていうことを伝えたくて」
「はあ……」
「あれ、驚かれないですね」
「ゲーム、やり過ぎてるからかな……、ハハハ」
絶対に違う。驚いているはずなのに、うまくそのことを体現できない。驚きすぎているのか、出てくる言葉が拙くて、あっけなく消えていく。
「どうです? 隼哉さん。よろしければ、成り変わり、して、新しい人生を手に入れてみませんか?」
自分は二つ返事で承諾した。