第6話
子会社の社長に就任してから1か月。社長業に就任して初めてのゴールデンウィークは、他の社員たちに休みを有効活用するよう伝え、それを実践してくれたお陰で、かえって自分は上手く休みを取れず、4月末に2連休を取ったのみで、それ以外は働くことになっていた。そんな休みの1日目、たまたま同じ日に休みを取っていた親父と共に家で昼から呑むことになった。親父は高級シャンパンを、自分は1杯目だけ付き合い、それ以降は梅酒をちびちび呑んでいる。
「どうだ、隼哉。社長業、ちゃんとやれてんのか?」まだ酔っていない親父は、シャンパンをグラスに注ぎながら問う。
「どうだろ。1人、思ってた会社と違うって理由で辞めたけど、自分に非があるわけじゃないし。まあそこそこ上手くやれてると思う」
「なんだ、もう辞めた奴がいるのか」
親父は、言わずもがな頑固な性格をしていて、今もなお、昔ならではの考え方に則った生き方をしている。そのため、最近の若者の行動がよく理解できないらしく、よく家で愚痴をこぼしている。それなのに表向きは社交性をアピールしていて、社員からはイケオジと慕われている。親父の二面性を知る自分からすれば、信じがたいことでもある。
「前にも言ったけど、多分親父泥酔してたから覚えてないんだろ」
「そうかもしれないな。何せ息子と飲む酒が一番うまいからな」
「それは嬉しいけど」
幼少期から両親には褒められて育てられてきたが、30代半ばだというのに、未だむず痒いものを感じる。
「最近そういう新卒者が多いとは聞いていたが……。痛手だな」
「だから、あと2人ぐらい欲しいって思う。しかも、親父の会社から」
「構わんよ」
「え、いいの?」
親父はシャンパンを飲んで、グラスを静かに置く。自分は梅酒が残るグラス片手に、親父の目を見た。
「子会社までは一駅しか変わらないんだ。それに、ずっとクレーム対応するというのも、メンタルがやられるって声、度々耳にするからな」
「だね」
「そうとすると、問題は、誰を行かせるか、だな」
「それならさ、3カ月ごとの交代制にするのは、どう? 固定の社員だと、他の社員から敵視されかねないし、気分転換にもなるだろうし」
自分の提案に親父は腕を組む途中で、数度頷く。「そうだな」と。
「3人ぐらいなら出せると思うから、試しに再来月ぐらいからやってみるか」
「だね。親父、いつも色々ありがと」
「何ら問題ないさ。可愛い息子のためだ。ガハハハハ」親父は豪快に笑う。自分は残りの梅酒を飲み干した。