第5話
子会社に入社した人は、自分含め全員で7名。男女の内訳で言えば、男性が2名、女性が5名で、うち、新卒者はたったの1名だ。
子会社設立にあたり、5人分の新卒採用枠も設け、定員数の応募があったにもかかわらず、面接を受けたのは4名で、その中から2人(男1名、女1名)の採用を決めていた。ただ、2月末、男性からは「別の所への入社が決まったので、辞退させてください」との連絡を受けた。正直、もう1人の受験者よりも、同性としてもそうだが、専門学校卒の割には輝かしい経歴を持ってたから、他社員も含め期待している部分があっただけに、出鼻をくじかれた気分だった。
だから、気持ちを新たに、このメンバーで頑張っていくぞ、と意気込みたいところだったけれど、その意気込みは逃げていった。
理由は、新卒者の社員が、面接時とは大きく違い、髪を明るい茶色に染め、黄金色に輝くイヤリングを付け、ネイルをしていたから。別に、会社自体でそういった服装等を禁止しているわけではないから、常識の範囲でお洒落する分には問題ないのだが、他の社員と何かが違っていた。当人の話によると、洒落た女性をイメージしているみたいだったが、どこか社風と似合わない雰囲気を纏っていたのだ。顔付きで決めつけるのは失礼だと分かっているのだが、星野君よりも、何ならここにいる誰よりも、物覚えは悪そうだった。
「えっと、改めて、自分がこの会社の社長勤めます、高瀬隼哉です。今日からよろしくお願いします」
「お願いします」
「えー、以前コールセンターにお勤めになられた方もおられますが、新たなことを経験する方も多くいらっしゃいますので、今日は実際の仕事はせず、研修のみにさせていただきます。いいですか?」
「はい」
全体に向ける形で、正しい敬語の使い方や、悪戯電話の対応、よく起こりがちなハラスメント等について、教育的な側面も含めて、一通り説明をした。社員たちは熱心にメモを取ったり、分からないところがあれば随時質問したりしてきたが、新卒者のみ、何も反応を示さなかった。
研修の翌日以降は実践の毎日だった。商品について事細かに説明を求められたり、逆に商品医師か目がいかず、こちらの話を全然聞こうとしなかったり、中には説明をしている途中で電話を切られ、その後繋がらないといった事案も起きたが、大人な社員たちは、自分の予想以上の働きぶりを見せてくれた。が、やはり、新卒者は自分や他社員の期待に添えないまま1週間を過ごし、翌週には自分に退職届を手渡し、そのまま会社から去った。
辞められた当初は、自分にも至らない点があったのかもしれないと考えることもあったが、数日後にはそんなことを考えず、逆に新卒者にだけ原因があったのだろうと考えるようになっていた。星野君に教えていたときには感じなかった問題が、ここにきて顕在化してきてから、自分の行為を正当化して問題から逃れることを選んだ。ただ、この選択は後に自分の首を苦しめることになる。