第1話
自分の名前は高瀬隼哉。12月6日の誕生日がきて、34になる。ひとりっ子なうえに、親父が43歳、おふくろが40歳のときに漸く生まれた念願の子供ということもあってか、両親の愛情をたっぷりと注いでもらいながら、ここまで育ってきた。
生まれてきてから、これといって大きな病気に罹ったこともなかったし、幼稚園生の頃から、性別や年齢関係なく、割と誰とでも仲良くできていたために、学生時代を通して友達づくりに困ることもなかった。それ以外にも、会社を長年運営する親父の遺伝なのか、勉強熱心であり賢かったし、学生時代陸上部に所属していたおふくろの遺伝なのか、運動も全般できる、文武両道タイプでもあった。
自分の希望で、中高一貫校に進学することを選択し、難なく合格。私立だったからお金はかかっていただろう。けれど6年間、何不自由ない生活を送れていた。そして大学は県内随一の学力を誇るところへ進学し、4年で卒業している。顔の出来がイマイチだから、付き合う経験はしなかったが、頭の良さと回転の速さ、そして運動ができるという面においては、少なからず持て囃されていた。
大学生3年目、自分の周りは就職活動のスタートを切った。一方の自分はと言うと、親父の会社にコネ入社できると思っていたから、ゆっくりとスタートを切った。けれど、自分は特段の優遇をされることはなく、他の大学生らと共に入社試験を受けさせられた。が、まあ想像通り、試験から数日後、自宅ポストから採用通知を受け取った。
平社員として入社してから、早12年近く。自分は他の会社に浮気をすることなく、ずっと親父の経営するこの会社に務めている。自分と同期の奴らは、それぞれの理由で辞めていったために、先輩が4人しかおらず(全員役職持ち)、残り全員が後輩だということに恐怖を覚えている。そしてまた、自分が入社した当時から、女性に浸食されたままで変わらない、会社の中身にも、だ。
真面目人間に思われるが、自分には結婚を約束している2歳年下の女性がいる。見合いのような状態から入って、今年で付き合って3年目になるのだが、自分はこの人以外と結婚する将来は見えていない。それは相手も一緒だろうと、容易に想像できるぐらい、互いのことを愛し合っている。
順風満帆
親の力も借りながらなのだが、この言葉がぴったりな自分の人生。正直、何の苦労もしてこなくて、時折、こんな幸せな人生で良いのだろうか、と不安に思うときもあった。そのとき、親父の会社に突如、社員としてやってきた男性が、自分の将来を変えてくれると約束してくれたのだ。
その人が現れたのは、2年前の冬。この時期に社員が入るなんて珍しいな、とも、珍しく男性なんだ、とも思ったから、当時の光景をよく覚えている。その人は自分よりも小柄で、可愛らしいな、というのが第一印象だった。