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代行サービス、運否天賦です  作者: 成城諄亮
第4生 松島志織
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第1話

 蒸しかえる体育館に集う、たくさんの児童たち。全員が、見知らぬ人なのに、全員が、私に興味を持っているように思えた。これは、新しい私に生まれ変わろうとしている自分にとっては大・大・大チャンス到来なのかも!?


「はい。それでは、今から、転校生の紹介をします。じゃあ、3人さん、前に並んでください」


ふくよかな体形の女性先生が、私を含む転校生3人を、じろじろと見つめる児童たちの前に並ばせる。私は、もうすでにスイッチを入れている。


「それでは、1人ずつ、軽く自己紹介をしてもらいます。まずは、松島さん」


女性先生は、短い腕で私の口元にマイクを近づけた。皆、私に釘付け。それはそうだ。だって私は、この中で一番カワイイ自信があるから。女の子たち、私に見惚れなさい! 


「『はい! アタシ、松島志織! 小学2年生で、誕生日は4月19日で、将来の夢はギャルの聖地で1番の女の子になることでーす! お願いしま~す!』


疎らな拍手。引かれている。惹かれている……。失敗、した。もう、黒歴史決定じゃん。こんなの恥ずかし過ぎ。皆に合わせる顔がないよ~!


こんなギャル要素強めに自己紹介をしていたあの頃から早30数年。私は45歳になった。未来に希望と絶望を抱いていた頃から一変。今は希望や絶望なんて感情は忘れて、幼き頃に抱いていた1番のギャルになるという、今では考えられない馬鹿らしい夢を叶えることもなく、ただただ貧しい生活を、体たらくな父と一緒に送っている。いつから私の人生に歪みが生じ始めたのだろうか。もうこれ以上貧しい生活は送りたくない。死んだも同然の生活なんて、なーんにも面白くない! 誰か、私に成り代わって、この貧乏すぎる生活に終止符を打ってくれませんか?



 松島志織、45歳。昼間は近所のスーパーでレジ打ち、夜はカラオケでバイトをしている。最近の悩みは、自分が何とも醜い体形になってきたこと。もう、異性との恋愛のことは諦めていた。歴代、付き合ってきた彼氏はいるものの、一度も結婚した経験はなく、現在73歳の父親と一緒に、家賃3万円のアパートに暮らしている。


志織は中学を卒業するちょっと前にギャルメイクに目覚め、受験していた高校への入学を蹴り、その県で一番低い偏差値の高校を滑り込みで受験し、合格。4月に入学してからは、ギャルになるための勉強に明け暮れ、学校に行くために毎日1時間かけてメイクをし、ギャル友達と遊びに行くとなれば、気合を入れてメイクはいつもの倍の時間をかけてして、最上級に盛る努力をしていた。今思えば、本当に馬鹿なことをしていたと思うが、やっぱり自分自身もだらしない人間だったのだと、30歳を過ぎたあたりから気付いた。どうしようもないほどに体たらくな父とずっと一緒に暮らしていたせいもあるのか知らないが、常にだらしなく、パッとしない毎日を送っていた。悔しいけれど、やっぱりDNAには逆らえないと思った。


 常に綱渡りの状態のままで高校を卒業した松島は、大学や専門学校等に進学することはなく、そうかと言って就職したわけでもなかった。本来なら就職するなりしなければならなかったのだろうが、当時若くて、世間知らずだったために、高校の卒業式終わり、制服を着たまま、メイクもしたままで、ギャルの聖地へと足を踏み入れたのだった。そこでの生活が当時の自分にとっては高級時計波に輝いて見えて、そこに拠点を移して生活することにしたのだった。父親からは叩かれ、殴られ、胸ぐらを掴まれて、罵声を散々浴びせられたが、それでも屈せず、家を出たのだった。


こうなってしまったのは、全て父親のせいで、絶対に自分のせいじゃない。父親がもっといい人ならば、母と離婚することもなく、貧困とは程遠い生活を送れていたはず。全部全部、お父さんが悪い。あんな人の娘として生まれて来るんじゃなかった。失敗でしかない。ろくでもない人生の幕開けは、とうの昔から始まっていたのだ。変えられるもんなら変えてみたい。こんな生活にはもう懲り懲りだから。


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