第8話
一足早く夕食を食べ終えた高坂は、目の前で、自分が手作りしたハンバーグを、大きな口を開けて頬張る星野のことを見ながら、ニコニコとしていた。
そのことに関して、食器洗いを終えた高坂に星野が尋ねる。「食事中、僕のことめっちゃ見てきましたね」
「ごめんなさいね。ついつい嬉しくてね」
「僕も、高坂さんと一緒の時間を過ごすことができて嬉しいです」
「なら良かったわ」
「あ、そう言えば、高坂さんにお伝えしたいことが」
「何かしら?」
「富子さんにお会いするとき、サポート係として、僕の同僚を同行させてもらってもいいですか?」
「もちろんよ。助かるわ」
星野が腕時計を見つめる。針は約束時間の19時を指している。
「もうすぐ来ると思うんですが――」
「――ピンポーン、ピンポーン」
インターホンの画面を見る。そこには、帽子を被った田辺の姿が映る。
「来たみたいですね」
「それじゃあ、ここにご案内してあげて。私が行くと遅くなっちゃうから」
「分かりました。連れて来ますね」
高坂が待つ間、玄関へ向かい、そのまま扉を開けて田辺を出迎えた星野。田辺に「ここ星野の家じゃないだろ」と突っ込むほどに雰囲気に馴染んでいた。
「僕は将来、この家に住むから」
「ハハハ。じゃあ俺も住ませろよ」
「いいよ。一緒のほうが楽しいし」
「冗談だよ、冗談。ハハハ」
「アハハ。まあ入れよ。中で待ってくれてる」
「おう」
「高坂さん、連れて来ました」
「はじめまして。代行サービス運否天賦の副代表をしている、田辺快征です」
「もしかして、あなたが」
「そうですよ。あの、田辺です。富子さんを探し当てた超すごい人物ですよ」
「ちょっと星野、言い過ぎ」
「そうかな?」
「言い過ぎじゃないわ。あなたのお陰で今の富子に会いに行けるんだもの。ありがとう。この場でお礼を言わせてもらうわ」
「いえ。あの、転生して3日間の、高坂さんの生活を星野に代わってサポートさせていただきます。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いしますね」
「高坂さん、田辺、めっちゃいい奴なんで、何でもリクエストしてください。もう、こき使っていいですからね、イヒヒ」
「おい、お前普段そんな言い方しないだろ。なんか気持ちわりぃな」
「そんなこと言うなよ~」
「ふふっ、星野君にもそんなにいいお友達がいたのね。良かった」
「はい。田辺は間違いなく、僕の一番の理解者で、友達で、仕事仲間で、気心許せる人物です」
そう星野が言った途端、田辺の頬は赤らみ、口元が緩み、そして小さく「ありがとな」と呟く。
「それじゃあ高坂さん、富子さんに会いに行く準備を進めましょう」
「そうね。星野君、手伝ってくれる?」
「もちろんです」
「星野、俺は何すればいい?」
「あー、荷物の確認手伝って」
「了解」
3日間の荷物を大きなカバンに詰めていく高坂。服、日用品、そして薬。高坂が事前に準備していた持ち物リストと何度も照らし合わせながら、忘れ物がないようにと確認していく。その間も星野は田辺に対してちょっかいをかけ続け、それに対して田辺が突っ込んだり、大袈裟なほどに笑ったりと、星野は高坂に田辺のことを知って欲しくて、そして何より、2人ともを和ませるように色々と試していた。
「ちゃんと入ってます」
「よし、こっちも確認終了」
「これで完璧ですね」
「ああ。星野君も田辺君もありがとうね、助かったよ」
「いえいえ」
「高坂さん、田辺にだいぶ慣れました?」
「ええ。田辺君も星野君みたいにとても親しみやすくて、人柄もいいから和みやすい。3日間安心して過ごせそうだわ」
「よかったです」
「高坂さん、転生中にもし何かあったら田辺に言ってくださいね。田辺から僕に連絡が来るようにもなっているので」
「分かったわ」
「田辺、高坂さんのこと、よろしく頼んだよ」
「任せとけ。星野も、頑張れよ」
「うん。また会おうな」
「待ってるから」
高坂の前で、星野と田辺はグータッチを交わす。
「高坂さん、準備はよろしいですか?」
「えぇ、少しドキドキしているけれど、大丈夫」
「分かりました。それじゃあ、僕の言う通りに動いてくださいね」
「はい」
「まずは、目を閉じてください」
「はい、閉じたよ」
「その次は僕と手を繋いでください」
「繋いだ。これぐらいの強さでいいのかね?」
「バッチリです。じゃあ、次は、僕がせーのって掛け声を掛けますから、そしたら、力強く手を握ってください」
「せーのって言い終わったら手握るのね」
「そうです。高坂さん、準備はいいですか?」
「はい、大丈夫」
「それじゃあ、いきます。せーのっ」