第10話
総合病院のとある一室に入院している星野。薄明りの室内で、生命機器に繋がれた星野はベッドの上に座り、心臓の周辺を手で押さえながら、小笠原宛の手紙を書いていく。ベッドサイドのランプが灯す明かりはオレンジが強く、白い便箋を淡く染める。一文字ずつ大切に記していく星野。書き終わり、ペンを置くとともに軽く息を吐く。心臓はまだ生きたいと足掻いているようだが、先はもう本当に長くない。今朝、死期が見えたのだから。
手紙を折り畳み、封筒に入れていく星野。最後にセロハンテープで封を閉じる。祈りを込めながら。
「よし、これでいける」
胸が騒ぎ始める。深呼吸を繰り返しながら徐に左手でスマホを取り、メッセージアプリを開く。その相手は田辺。最後に頼れるのは田辺しかいない。星野は悶えながら、文字をゆっくりと打ち込んでいく。呼吸が浅くなる。もう死ぬんだ。その覚悟とともに、呟く。「あとは頼んだぞ、田辺」と。
星野はそのまま仰向けに、ゆっくりと後ろに倒れていく。機器のアラート音が鳴り響く。お別れを告げるみたいに。
*
小学校のグラウンドにて、同級生たちと騒ぎながら走っている小笠原。明るい笑顔を浮かべて。
拝啓 小笠原悠月様。病気が完治してから、いかがお過ごしでしょうか。お手紙を差し上げるのが遅くなってしまい、大変申し訳ございません。この手紙をもって、転生が成功したということを証明させていただきます。どうかご安心ください。私は死んでおりません。ピンピンしております。あのとき心配してくれてありがとうございました。君のその優しさは、きっと多くの人たちを救うことができると思います。結びに。どうか、お身体をご自愛くださいませ。そして、プロ野球選手になるという将来の夢を、どうか小笠原様の手でお掴みください。応援しております。 敬具 星野昇多 追伸 同封してあります書類の金額をお確かめのうえ、お支払いのほど、よろしくお願いします