第1話
はじめまして。星野昇多、26歳。誕生日は11月16日です。彼女がいたことは、今まで一度もないです。中学・高校が男子校だったために、年齢イコール童貞、ということなんですが、アハハ。まぁ、そのせいですかね、男子校なのに彼女ができた奴のことを、どこか蔑んだ目で見ていました。あ、でも大丈夫ですよ、今はもうそんなことはありませんし、社内恋愛を禁止しているわけでもありませんので、ご自由に人生を謳歌していただけたらと思っております。えー、少し話が逸れてしまいましたね。まあ、そういう男が代表ですが、ユーザーの満足度が高いサービスを目指して、一緒に頑張っていきましょう。今日から、どうぞよろしくお願いします。
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重厚な扉で閉ざされた社長室ではなく、社員たちと同じ空間で、同じ黒色のノートパソコンを使い、依頼主から投稿されたメッセージが表示されている画面と向き合う星野昇多。26歳にして、代行サービス運否天賦の代表を務めている。
ここで働く社員は男女合わせて33人。そのうち20人は出社せず、自宅からオンラインを通して働いている。子育てをする者、会社のある場所から遠く離れた地方で働く者、海外でのんびりと生活しながら働いている者、訳あって自宅から出られない者・・・、と、多様性の時代に合わせて、年齢も性別も、髪色も髪型も、服装も、とにかく様々な社員がいる。
星野は、能力のあるなし、技能のあるなしに拘わらず、この仕事に興味を持っている人を中心に、入社希望の中から人選している。だからか、サービスの立ち上げから今まで、辞めた社員は誰一人としていない。このことは、星野のちょっとした自慢だ。
代表である星野には、秘書という立場の人はいない。その理由は、社員全員に対し、代表という立場ではなく、皆と一緒に働くイチ社員として扱って欲しいと頼んでいるから。それを忠実に守ってくれる社員たち。皆、星野のことを「代表」と言った堅苦しい呼び方はせず、「星野」とか「星野さん」と苗字で呼んでもらうようにしている。これもまた、星野からの提案だった。
社員みんなから愛されている星野。働く社員は、星野よりも年下というよりは、年上、しかも1回り以上の率が高い。それだけではなく、LGBTの当事者という社員も働いていたりと、社員全員を通して個性豊かで、雰囲気も和気藹々としている。誰かのミスにより、何かしらのトラブルが発生したとしても、その人自身を責めることは一切ない。「明日は我が身」という星野が大事にしている言葉を、社員全員が意識しているからこそ、この、ほんわかとした空気感が自然と作られていったのだった。
簡単にまとめると争いごとが嫌いな星野。そんな彼は、少しだけ変わった経歴を持っている。今となっては懐かしくて、酒が入れば腹を抱えて笑える話なのだが―――