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代行サービス、運否天賦です  作者: 成城諄亮
第2生 小笠原悠月
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第3話

 いつ病気が悪化するか分からないという恐怖心と、病気が治るのか分からないという不安な気持ちと、あと少しの寂しい気持ち(家族からも友達からも心配されないから)を抱いて過ごしている小笠原だったが、未だに野球選手になれると信じていた。もちろん、そう信じている理由もある。それは、大好きな野球の仕事に携わりたい、ということと、よくテレビとかでも話題になる、病気の子供たちのために、スポーツ選手が会いに来たり、支援してくれたりする、そういう活動もやってみたいこと。だから、どうしても諦めきれない。


そんな小笠原が代行サービス運否天賦のサイトを知り、そしてメールを送ろうと決めたのは、すぐ隣の病室に入院する楓真から、運否天賦のサイトを見せられたことが発端だった


「ねぇ、ゆず」

「なに? 楓真」

「これ、知ってる?」

「ううん。知らない」

「だよね」

「それが、どうしたの?」

「このサイトにね、て・ん・せ・い って書いてあるんだ。でも、分からないんだ。ねぇ、ゆず、てんせいってなーに?」


目をキラッキラと輝かせて訊いてくる楓真に、小笠原は少しの笑みを浮かべる。


「簡単に言うと、生まれ変わり、だよ」

「生まれ変わり?」

「もし楓真が死んでも、また何か別のものになって、うーん例えば、楓真が好きなキリンとかに生まれ変わって、新しい生活を送る・・・みたいな感じかな」

「まだ死んでないよっ!」

「あ、ごめん。ごめん、ごめんよ、楓真」


 如実に泣き顔になっていく楓真を見て、小笠原はその頭を優しく撫でる。


「なぁ、楓真。もう一回スマホ見せて」

「いいよ」


小笠原は塩崎のスマホ画面をスクロールしていく。そこには、確かに ”転生” の2文字が並んである。


「あー、なるほど」

「何がなるほどなの?」

「なんかね、この社長さんが、依頼したその人の人生を、代わりに送ってくれるみたい。それで、その依頼した人は、自分が願った幸せな未来を送ることができる・・・って、言っても分からないよね」

「分かんない」

「だよね・・・」


 頭を掻いて、苦笑いを浮かべる小笠原。ただ、塩崎は小笠原の顔を覗いて、無邪気に、でもちょっと不安そうな表情で尋ねる。「ねぇ、ゆず。僕みたいな病気の子でも、幸せになれる?」と。


「うーん、それは訊いてみないと分からないかな」

「誰に?」

「社長さんだよ。このサイトにメールを送る機能があるから、楓真の代わりに訊いてあげる」

「ほんと?」

「うん。本当だよ」

「病気治して学校行きたいんだっ! お友達つくって、いーっぱい遊びたいんだ!」

「うん。そうだね」


楓真の頭を幾度となく撫でて、まるで実の兄のように接する小笠原。そして数分後、楓真は小笠原の膝に頭を置いて、小さな寝息を立てていた。小笠原は楓真の睡眠を邪魔しないように、呟く。「オレだって、こんなところにずっといたくないよ」



 その日の夜、消灯時間を過ぎている中、小笠原はベッドサイドの明かりを頼りに、小さなメモ帳へメールする内容を書き起こす作業をした。案外、すんなりと書けた問い合わせの内容。あとはそのまま打ち込んで送るだけだ、そう思っていた矢先、突然胸に走った激痛。そこからの記憶を無くす小笠原。そしてまる3日間眠り続け、起きてからも1週間はスマホも触れず、楓真たちとも会えない状況に。


小笠原が眠っている間も、治療を受けている間も、楓真は小笠原の言葉を信じて、ずっと待ち続けていた。自分が転生できることを夢見て。


 突然の痛みに襲われてから2週間が経ち、元居た病室に戻ってきた小笠原。そんな小笠原にいの一番に駆け寄ってきたのは、やはり楓真だった。


「ゆづ! おかえり!」

「ただいま」

「大丈夫?」

「もう大丈夫」

「社長さん、連絡できた?」

「あぁ、ごめん。メール今送るから」

「いいよ。でもね、僕、ずーっと待ってたんだ、ゆづのこと」

「ありがとな、楓真」


髪の毛をわしゃわしゃと、飼い犬と戯れるみたいに楓真のことを弄ぶ小笠原。「ちょっと~、強いよ~」

そう言われても、無邪気に触り続ける小笠原。段々と笑い始める塩崎。やがて2人の笑い声が病室に響き始める。


このとき、小笠原は気付いていることがあった。それは、楓真の命が残りどれぐらいなのかということ。


「ねぇ、楓真」

「なに?」

「楓真はさ、死ぬかもしれないって考えたりする?」

「うん。でも、先生が僕の病気を治そうと頑張ってくれてるから、まだ死なないって思ってるよ」

「そっか。そう、だよな。先生、頑張ってくれてるんだもんな」

「だから、ゆづも負けちゃだめだよ」

「だな。オレら、一緒に頑張ろうな」


 1か月ぐらい前、電話ができるスペースから病室に帰ろうとしていた小笠原がそのとき、たまたま聞いてしまった、担当医と楓真のお母さんとのやり取り。楓真のお母さんが、泣いているのだけは、姿を見なくとも分かった小笠原。そして小笠原は考える。もし自分が余命宣告をされたら、両親や兄姉は泣いてくれるのだろうか、と。少しぐらい、悲しんでくれるのだろうか、と。


「楓真、今から社長さんにメール送るからね」

「うん!」


送信ボタンを押す小笠原。それを嬉しそうに見て、笑みを浮かべ続ける楓真。小笠原も自然と頬を緩ませて、にこりと笑う。このとき、楓真は自分が小笠原に裏切られていることなんて、知りもしない。そして、小笠原も楓真にその真実を話すつもりはない。



「社長さんへ。転生の依頼をする前に、一度お話を聞いてみたくて、それで今回メールを送りました。オレは小学3年の小笠原悠月といいます。オレは今、ある心臓病の治療のために、大きな総合病院の小児科に入院しています。サイトの内容を見て疑問を感じたので、質問します。①小学生の、しかも病気の体でも、転生して、人生を変わってくれるんですか。②転生してもらったら、オレは幸せになれるんですか。③転生ということは、オレも死ぬ必要があるんですか。④オレが住んでいるのは、会社がある東京じゃないし、病気だから直接行くことはできないけれど、会いに来てくれるんですか。お返事、よろしくお願いします。悠月より」

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