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代行サービス、運否天賦です  作者: 成城諄亮
第1生 星野昇多
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第10話

 会社を立ち上げてからすぐ、星野と田辺は1日でも早くサービスの運用が開始できるようにと、隙間時間を見つけては動いていた。といっても、会社に出向くことはまだなく、ほとんどの作業を家で行っていた。パソコン操作が得意な田辺が、設立前、仮に作っていたサイトをブラッシュアップしていく中、星野は社長としての仕事を、ただ淡々とこなしていく毎日。もちろん、給料などの金銭管理も、そういう人材がいないために、星野がやることになっていた。


「大学生つて暇なはずなのに、こんなに忙しいもんなの?」

「さぁな。でも起業せずに就職してたら、大学卒業とともに就職して忙しくなるんだからさ、これぐらいがいいんじゃねぇの?」

「そうだけどさぁ」


薄汚れたソファに寝転び、欠伸をする星野。その前にあるローテーブルにノートパソコンを広げ、資料と画面とを、いったりきたりして見る田辺。


「こっちは忙しいんだから、今は話しかけんな」

「ちぇっ。つまんないの」

「つまらなくて結構。星野もやらなきゃいけないことあるんだろ?」

「あるけど、難しくてさ」

「社長がしっかりしてないと、後々従業員とか雇ったときに、色々困ると思うんですが」

「だよね・・・」


 星野は、社長という立場に慣れなくて、そう呼ばれるのも何だかこそばゆくて嫌だった。ただ、今さらこの立ち位置から去ることは許されない。そもそも、星野が自分の能力を活かした仕事がしたくて、でも、そういう能力をフルに活用できるような仕事はなくて、だからこそ1から、しかも友人である田辺まで誘って創ってしまった会社。金銭面のこともあるし、田辺の人生のこともある。逃げるなんて男として格好悪い。そう思った星野は、闘志を再び燃やして、仕事に真面目に向き合うのだった。


 間で大学の卒業式と言う一大イベントを挟んで、仮のサイト制作から含めると、トータルで8か月の期間をかけて出来上がったサイト。3月下旬、自信満々に運用を開始。しかしながら、どれだけ日にちが経っても、依頼や問い合わせの件数はゼロ。完全な人手不足な現状からすればありがたかったが、やはり、歩合制を採っているために、仕事がなければ給料も出ない。そして赤字だけが並んでいくことになり、最悪の場合、倒産の危機に陥ることになる。どうしてもそれは避けたかった星野。4月下旬、田辺の提案のあり、2人は家でノンアルコールビール片手に、冷凍の枝豆やらをつまみに、打開策を考え始めるのだった。


「ねぇ」

「何?」

「従業員、そろそろ雇わない?」

「は? 雇ったとしても、今仕事ゼロなのに、どうやって金払うんだよ」

「自販機の下に、こう手を伸ばしてさ」


動作をしながら言う星野。それを見て鼻で笑う田辺。「地味だな」


「じゃあさ、全身黒の服着て、顔も隠して、夜中に金属バットをブンブン振り回して――」

「ちょ、ちょっと待て。星野、お前さ、まさか本気じゃねぇよな・・・・・・?」


おちゃらけて言う星野のことを、突然本気で心配し始める田辺。星野は手を左右にひらひらとさせて、笑って、言う。「僕は正しいことしかしないから」と。


「あぁ、だよな」

「何急に心配しちゃってんの?」

「星野の演技がうますぎだからだよ」

「それは、ごめん」


両手を合わせ、小さく頭を下げる動作をする星野。田辺は溜息をひとつ吐いて、枝豆を箸でつまみ、そして口に運ぶ。


「で、結局どうすんの?」

「大学行って、手当たり次第声かけてさ、あとは、ビラ配るとかして――」

「卒業したのにか?」

「まぁそうだけど、でも、同意してもらった人に転生させてもらうとかすれば、それか、SNSで拡散してもらうとかすれば、それなりにお金入るかなって」

「カツアゲも同然だな」

「でもさ、こうするしかないよ。そうじゃないと、田辺が汗水垂らして作ってくれたサイトも水の泡になっちゃうし、僕の能力だって、分かんないけど、使うところがなくて廃れるかもしれない」

「そうかもしれねぇけど、俺はそこまで汚い手は使いたくない」

「じゃあ、田辺は何か考えある?」


 ノンアルコールビールをグイっと飲み干す田辺。まるで酔っ払ったかのように空き缶を力強く置く。


「ずっと考えてたんだけど、正直言うと、何の方法も思いつかないし、星野が言った案が一番マシかもって思えてる」

「ほら、やっぱりその方法しかないでしょ?」


端の先で枝豆を挟み、それを田辺のほうに向けて言う星野。どや顔を浮かべている。


「ここまで追いつめられるとはな」

「もうやるしかないよ、田辺」


その枝豆を口に運ぶ星野。そして頬を緩める。


「仕方ねぇなぁ、明日とりあえず大学行って声かけてみるか」

「じゃあ、決まり。とりあえず、簡単なビラ作ろ」

「あいよ」


 4月26日の午前9時過ぎ。怪しまれないようにという意図から、少し綺麗めな服を身に纏った星野と田辺。髪もある程度整え、田辺が夜な夜な作った(星野は途中で寝落ちして手伝わなかった)ビラ50枚が入ったトートバックを手にした星野。田辺は仕事でも使うノートパソコンを入れたリュックを背負う。


「頑張ろうね、田辺」

「おう」


靴を履き、星野がノブに手をかけた瞬間に、田辺のパソコンが、メッセージを受信したことを知らせるメロディを鳴らした。玄関で、慌てた様子でリュックからパソコンを取り出し、立ち上げ、画面を操作し始める田辺。星野は、首を左右に振って、画面を覗こうと試みる。


「あ」


田辺が声を漏らす。サイトに1件だけ入ったメール。まるで、2人の行動を止めるかのような、そんなタイミングだった。


「ん、どうしたの?」

「問い合わせ、来た」

「え、どんな?」

「えっと・・・」


送り主は小学3年生の男の子で、メールの内容は、ざっと要約してしまえば「今は病気を患っているが、生まれ変わったら元気になれるか」というものだった。


「悪戯だろうな。小3がこんなちゃんとした文章の内容送ってくるわけない」

「いや、待って。これ、ちゃんと話訊いたほうがいい内容だよ」

「え、何でだよ」

「ほら、3年のときだっけ? 僕、田辺に言ったでしょ? なんで自分がこんな病気になって、こんな辛い思いをしなきゃいけないの? って思ってる子の元に僕が行って、その子に転生すれば、子供は自分が願う幸せな生活を送れるって」

「あ~、何か言ってたな、そういえば」


頭を掻く田辺。星野は目を輝かせる。


「だから、これは早急に話を訊きに行ったほうがいいやつだよ!」

「じゃあ、作ったビラどうするんだよ」

「それは・・・、田辺に任せたっ! 僕、その子に会いに行ってくる!」


玄関の扉を開けて外に駆け出していく星野。「ちょっと、おい! 場所とか何も訊いてないぞ!」ドアから顔を覗かせて、大声で星野のことを呼び止める田辺。星野は少し恥ずかしそうにしながら、踵を返す。


「あっ、そうだった、アハハハ」

「ったく・・・・・・。待ってろ、今送り主にコンタクト取ってみっから」

「よろしく頼んだよ、副社長!」

「っちょ、まだ恥ずかしいんだから、その呼び方やめろよ」


照れ笑いを浮かべながら、慣れた手つきでパソコンを操作していく田辺。星野は穏やかな瞳で、田辺のことを捉え続けていた。

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