九話. 待ち時間は暇
カブラーン王国テセント州南東、シワの森の西。
第六大隊ライブル小隊の六人は、中央軍との集合場所に来ていた。
ハイト、ルーク、メービス、キビヤは腰を下ろし、ラキは落ち着かない様子で歩き回りながら周りを見渡し、ラダイはラキについて歩いていた。
「ねぇねぇ、まだなんですか?」
ラキは待ちくたびれたと言わんばかりの不満気な様子で言った。
「そろそろですね。」
ラダイの言葉にラキは嬉しそうに耳を澄ませた。
「ほんとだ!音消すの上手いんだね!」
「そうですね。」
ハイトは立ち上がり、三人にも立つように促した。
森の奥から五人の軍人が歩いてきた。その中央の男がハイトを見て頭を下げた。
「ライブル三位、並びにライブル小隊の皆様、この度はご足労いただきありがとうございます。」
キビヤはその男の顔に見覚えがあり、自然と姿勢が良くなった。
「頭を上げてください、王子に頭を下げられるのは気分が良くないですよ。」
「いえ、今の私はただの一軍人ですので。」
「だとしても師団長は三位よりも階級上じゃないですか。」
「いえ、魔術士団と普通の部隊は別枠だと私は思っておりますし、それにライブル三位は私よりも年齢が上と聞いております故…。」
「年齢は二つしか変わりませんし、階級と年齢は関係ありませんよ。」
ハイトと男の会話に他の九人はポカーンとしていた。ハイトはそれに気づき、姿勢を正した。
「では、私の小隊を紹介しますね。私はハイト・ライブル、階級は三位魔術士、小隊長をしています。気軽にハイトとお呼びください。」
「では、ハイト三位と。」
「硬いですね…。」
ハイトはそう言いながらルークに視線をやった。ルークはそれに気づき、一歩前に出た。
「ルーク・ミンティ、上位魔術士であります。」
ルークに続き、四人も前に出て、それぞれ自己紹介をした。
「よろしくお願いします。私は中央軍第七師団師団長、キーノ・カブラーン。」
キビヤはそこで気づいた。カブラーンの性を持つのは王族のみ。そして、現第七師団は第一王子が率いる部隊だということに。
「カブラーンって、王様の息子さん?王子?」
ラキも気づき、首を傾げた。ラダイがラキの肩に手を置く。
「そうですよ。だから一応タメ口はやめましょうね。」
「はーい、すみませーん。」
「いえ、先程も言った通り、今の私は一軍人です。それに魔術士団と普通の師団は別物です。気軽に接してください。」
「だってよ。」
ラキは得意気にラダイを見た。
「王子として会った時にこのクセが出たら困るでしょう?」
「確かに。」
「でも、わかりました。今日はよろしくお願いします。」
ラダイは綺麗に頭を下げた。
「いえ、こちらこそ。」
ラダイを見て、キーノも頭を下げた。
「では、これからの話に移りましょうか。」
ハイトは話を戻すように話し始めた。
「任務の確認ですが。私たち小隊は制圧、捕縛は第七師団に任せる、ということでよろしいですか?」
「はい。既に洞窟の周りに部隊を配置しています。」
「ありがとうございます。」
「では、我々も配置につき制圧に入ります。ルーク、ラダイ、頼んだよ。」
「「はい。」」
「じゃあ行こうかメービス。」
「はい。」
ルークとメービスは北方へと歩いていった。
「じゃあ私たちも行きましょうか。」
「はい。」
ラダイとキビヤも南方へと歩いていった。
「キーノ師団長。」
配置に行こうとしたキーノをハイトが呼び止めた。
「どうしました?」
「少し話が…。」
「はい…?」
ハイトはキーノに耳打ちをした。
「わかりました。では、早急に配置編成し直します。」
「お願いします。」
キーノは森の中に走っていった。
「じゃあ私たちも行こうか、ラキ。」
「はーい。」
ハイトとラキも洞窟へと向かった。
ラダイとキビヤは洞窟南側の入口に来ていた。
洞窟の中は薄暗かったが、奥に小さい光が見えていた。
「そもそもなんですけど、二人でどうにかなるんですか?」
キビヤは洞窟を見ながら言った。
「私たちは六人ですし、第七師団もいますよ?」
「いや、そういうことじゃなくて…。中で合流するとしてもほぼ最深部じゃないですか。それまで二人で平気なんですか?」
「私とだと不安ですか?」
「いえっ、ラダイ先輩が強いのは知ってますけど…。」
「すみません、少し意地悪しましたね。相手の数は十〜二十ですが、その中で魔術使いとして我々と戦えるのはいても二、三人だと思われますし。」
「そうなんですか?」
「はい。魔術使いがいる盗賊は通常よりも強力ですが、所詮は盗賊です。この国で魔術使いとしての能力が高い人の大体は魔術士団にいます。それに三方から攻めますから、単純計算で、一方向に六、七人。加えて、ハイトさんとラキくんが攻める方向に人数が集中すると思われますし。私たちは気楽に攻めて平気ですよ。緊張感は持って欲しいですがね。」
「はい!それはもう…、もちろんです。」
「ただ、火の魔術使いには気をつけてください。なるべく私が当たりますが、危険だと思ったらすぐに逃げてください。命が第一優先ですから。」
「そんなに強いんですか?」
「調べた限りでは中位〜上位ぐらいの実力だと思われます。けど、それ以外は良くて下位以下、軍校生レベルですから。」
「わかりました。」
「では、最後の確認をしておきましょうか。私が前衛、キビヤくんが後衛で行きます。なるべく一対多ではなく、二対多で当たりましょう。」
「はい。それって、僕が前衛よりですか?」
「いえ、私が後衛よりで行きます。陽動と多数の相手はハイトさんたちになりますので、私たちが相手するのは逃げてくる者たちが大半になりますし。」
「わかりました。」
「そういえば、キビヤくん剣術は?」
「最低限ですが、軍校で学びました…。」
「それより前は?」
「魔術の勉強に専念してたので、試験のために最低限ぐらいしか…、すみません。」
「いいえ、平気です。前に出すぎないように注意してくださいね。」
「はい。」
「では、合図まで待ちましょうか。」
キビヤは頷きながら洞窟に視線を戻した。
「そういえば…合図ってどんな合図なんですか?」
「そろそろですよ。」
ラダイの言葉にキビヤは首を傾げた。
パァーンッ!
突然、爆発のような大きな音が上空から聞こえた。その音はおそらく、森中に響くほどの大きさであった。
キビヤは反射的に音の方向を見た。
「はい?!」
「行きますよ!」
「えっ、今の合図ですか?!」
ラダイは既に左手で剣を抜き、歩いて洞窟に向かっていた。キビヤも急いで剣を抜き、ラダイを追いかける。二人は洞窟へとゆっくり入っていった。
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