八話. 朝は眠い
早朝の魔術士団第六大隊隊舎。まだ宿直当番の隊員がいる時間であった。
キビヤはあくびをしながらライブル小隊室に入っていった。
「おはようございまーす。」
「おはよう、キビヤ。眠そうだね。」
「いえっ、いや…、少し寝坊しかけたのでちょっと眠いです。すみません。」
「いや、いいよ。まだ集合時間じゃないし。」
キビヤは他の机を見渡しながら自分の机に荷物を置いた。
「ハイトさんだけですか?」
「いや、メービスならそこに。」
ハイトはキビヤのすぐ後ろの机を指さした。
「え?」
キビヤが後ろを向くと、黒髪の青年が机に突っ伏していた。
「いたんすか?!」
キビヤは驚き、思わず大声を出した。その声に驚き、青年がビクッと反応した。
「…んっ。んー?キビヤじゃん、おはー。」
青年は眠そうな声とともに顔を上げた。彼の名はメービス・マイルン、ライブル小隊所属の中位魔術士である。
「おはようございます。」
「ハイトさん、もう時間?…の割に人少ない気がしますけど。」
「おはよーございまーす!」
メービスが周りを見渡そうとした瞬間、勢いよく部屋の扉が開いた。
「おはよう、ラキ。もう少し静かに扉開けられない?」
「朝だから!」
「そっかー、朝だからかー。」
ハイトの言葉に意味不明な返しをしたラキの言葉に、ハイトは何故か納得したように頷いた。
「ハイトさん、今日は何人だっけ?」
メービスが首を傾げた。
「六人。あとは…、来たみたいだね。」
ハイトがそう言った直後、ルークと銀髪の青年が入ってきた。
「おはよーでーす。」
「おはようございます。」
「おはよう、ルーク、ラダイ。」
ルークの隣にいる青年はラダイ・アルローク、ライブル小隊所属の中位魔術士である。
「メービスくんは眠そうですねぇ。」
ラダイはほのぼのとした雰囲気で言った。
「キビヤくんは目覚めてる感じですか?」
「まだ少し眠いです。」
「正直ですね。」
「はい!」
ラキが突然手を挙げた。ラダイは少し驚きながらも、笑顔を崩さずにラキを見た。
「ラキくんは、元気そうですね。」
「元気です!」
「私は?」
ハイトが首を傾げながらラダイを見ていた。
「ハイトさんもいつも通りですね。」
「うん、正解。じゃあ、そろそろ最終確認始めようか。机に集まって。」
六人は各隊員用の机とは別の大きめの机に集まった。
ハイトが机の中央に地図を置いた。
「これから行くのはシワの森の西。内容としては盗賊の制圧。」
ラキが手を挙げた。
「どうした?」
「制圧ってことは捕縛メインってこと?」
「そういうこと。盗賊は洞窟を根城にしてるらしいけど、手前に村がある。まずはそこを目指すけど、村には入らない。村の外、つまりは洞窟の外で中央軍の第七師団と合流、そのあとは私たちが洞窟に入り制圧、制圧完了後に第七師団が入り拘束、そこまでが私たちの仕事。」
「なんで第七師団が制圧しないの?」
ラキが首を傾げた。
「普通の盗賊なら良かったんだけど、調べた感じ魔術使いがいるっぽいんだよね。第七師団ももちろん魔術使いはいるけど、個人の魔術使いとしての能力は我々魔術士団が上だし。少人数でも魔術使いと戦えることと、大事に備えた結果、私たちが制圧することになった…って昨日説明した気がするけど?」
「そうだっけ?」
「そうですよ。」
首を傾げているラキにラダイが優しく言った。
「情報では洞窟の入口は主に三つ、相手は十〜二十。全員捕まえられれば一番良いけど、それはたぶん無理。地の利は相手にあるし、地形を完全に調べてたらその間に逃げられる人数が増えるだけだし、最悪全員に逃げられる。だから主な3つのルートから同時に攻めるよ。そのための班分けは、私とラキ、ルークとメービス、ラダイとキビヤ。私とラキが一番主要に使われていると見られる西の入口から抑えに行く、ルークとメービスは北の入口、ラダイとキビヤは南の入口。合図は私が出す。中は単純構造になってるっぽいから、とりあえず奥へ進むように。分かれ道があったら必ず二人で同じ方向に進むこと。で、一番捕まえて欲しいこの男。」
ハイトは右眼に傷を負った中年の男の絵を出した。
「実際の名前はまだわかんないけど、仲間からの呼び名はヴィスコ。数年前まではさっき言った近くの村で雑貨屋をやってたらしいけど、その前はわからない。ヴィスコが主に使うのは火の魔術、身長は180前後、私やラダイとほぼ同じ身長で、体格は腹出てる。あと、右眼に傷があって、たぶん潰れてる。確認はこれくらいかな。何か質問は?」
ハイトが五人を見る。五人は首を振った。
「よし。じゃあ五分後に出発するよ。準備できた人から隊舎の入口に行って。」
「よっしゃー!行くよキビくん!」
「準備早いですね。荷物の確認しました?」
「家でしてきた!」
「あ、そうすか。」
ハイトは真っ先に部屋を出ていった。それを見てキビヤが不思議そうに口を開く。
「ハイトさん、早いですね。」
ラダイが口を開く。
「ハイトさんは行く前の確認をしに副隊長室行ったと思いますよ。私達は荷物の確認終わらせて先に行きましょうか。」
五人は軽く荷物の確認をして、隊舎の入口に向かった。
「そういえばラダイ先輩と任務って久しぶりですよね。」
「そうですね。前に行ったのはキビヤくんが入隊した直後でしたし。」
「メービス先輩もですよね。」
「んー、そうだっけ?覚えてないけど、最近ラダイさんと組む仕事多かった気がする。」
「そうですね。この仕事もそれ絡みの可能性高いですし。」
「それ絡みって、何か追ってるんですか?」
キビヤはラダイの言葉に首を傾げた。
魔術士団の仕事には戦闘が多い。が、魔術士団の仕事は戦闘の他に密偵や捜査などもある。仕事内容が続くとなると、密偵や捜査の任務が続いている可能性が高かった。
「まあ、そうですね。ルークもこっちに回されること多いですよね?」
ラダイはルークを見た。
「そうっすね。」
「私もラダイさんと仕事してないです!」
ラキが手を挙げ、不満げに言った。
「適材適所ですからね。それに、ラキくんはキビヤくんが初めての後輩ですから、それに慣れといた方が良いというハイトさんの判断でしょう。」
「そっかー。」
五人は隊舎の入口に着き、バッグを下ろし、ハイトを待っていた。
五人が待っていると、銀の羽織を着た金髪の男とキビヤたちと同じ軍服を着た赤紫髪の男が隊舎に向かって歩いてきた。
「あれ?君は確か…ルーク殿?」
金髪の男がルークを見て、確かめるように言った。
ルークは二人の姿を確認してすぐに敬礼をし、他の四人もそれに倣った。
「スタンワール隊長、ライドニス副隊長、おはようございます。」
「クルトの後輩と仲良いわりには礼儀正しいな、おはよう。」
赤紫髪の男は少し驚きながらも敬礼を返した。金髪の男も軽く敬礼をしていた。
「第三大隊のお二人が何故第六大隊隊舎に?」
ルークの質問に赤紫髪の男が口を開いた。
「お前のところの隊長と副隊長と話があってな。お前らはこれから任務か?」
「はい。盗賊の制圧です。」
「それはご苦労様であります。ギロン、行くでありますよ。マルアレス隊長を待たせるわけにはいかないでありますし。」
「そもそもお前が起きるの遅かったんだろ!」
「おやおや?吾輩もでありますが、ギロンも忘れていたのでは?」
「元はと言えばお前がっ…、まあいい。頑張れよ。」
「はい!」
二人の男は少々口論しつつも、仲良さげに話しながら隊舎へと入っていった。
二人が隊舎に入ったのを確認してラキが口を開く。
「今のって第三大隊の隊長副隊長だよね?」
「うん。」
頷くルークに、ラダイは感心していた。
「ルークは凄いですね、お二人に顔と名前を覚えていただいていて。」
「いえ、クルトさん、ピンカーク七位と仲良くさせていただいているので。」
「なるほど、確かにピンカーク七位と話し合いそうですね。キビヤくんはお二人を見るのは初めてでしたか?」
ラダイがキビヤの方を見た。
「いえっ、入隊式の時に見たのと、一度だけ軍校の白兵戦の訓練の講師でライドニス副隊長が来たことがあります。」
「ライドニス副隊長は白兵戦のプロですし、魔術士団内で白兵戦最強クラスですからね。」
「マルボルさんよりも強いんですか?マルボルさんも白兵戦強いですよね。普段の立ち回りもそうですけど、特機隊出身ですし。」
「そうですね…。たぶんマルボルさんよりも強いと思いますよ。ライドニス副隊長も特機隊出身ですし、マルボルさんの元上司に当たりますから。」
「はぁ…。」
「というか、マルボルさん上位で、ライドニス副隊長は副隊長だから二位だし。そもそも上位より高位の方が強くない?」
驚くキビヤにメービスが不思議そうに言った。キビヤは「確かに」と頷いた。
「そうでもないよ。」
ルークの言葉にラダイは頷き、他の三人はルークの方を見た。
「マルボルさんは特機隊じゃ部隊長してたし、そもそも特機隊は単体の戦闘力も高いし。魔術使いとしての実力を考えても、高位魔術士と遜色ないレベルなんじゃないかな。」
「じゃあなんでマルボルさんは上位なの?」
ラキが首を傾げた。
「それは…。」
ルークは言葉に詰まった。ルークの様子を見て、少し笑みを浮かべながらラダイが口を開いた。
「そもそも高位魔術士は各大隊十人ですから。私も選ぶ基準を細かくは知りませんが、上位の中には高位に選ばれてもおかしくない人は何人かいますし、まだ、というだけじゃないでしょうかね。実際、ブラスくんにしたって戦闘力だけならもう少し早く中位に上がっても良かったですし。何かしらの基準がまだ足りてないか、上が詰まってるか、本当の理由はわかりませんが。」
「なるほど。」
三人は納得したように頷いた。
「やー、お待たせ。」
ハイトがゆっくり歩きながら隊舎から出てきた。ハイトが来たのを見て、五人はバッグを背負った。
「準備は出来てるね。行こうか。」
ハイトを先頭に六人は歩き出した。
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