五話. 馬鹿は好き
喫茶ケムリで休憩をとったキビヤ、ブラス、ルークは街の城門の外に来ていた。
「帰りも風球のやつですか?」
キビヤがルークを見る。
「うん。動かないでね。」
「はい。」
「はいっス。」
三人の体が浮き、ライラックへ向けて動き出した。
途中で三人の体は、急に下に降り始めた。
ブラスが首を傾げた。
「なんで降りるんスか?」
キビヤもわからず、ブラスの言葉に首を振った。
「すんません、魔力が…。」
「あらま。」
ブラスは納得したように驚きながら言った。
地面に生える木々が近くなってきたころ、ブラスは先程までいたベゴニアの方向を見ていた。
「身体硬化!からの、ふるぁっ!」
「えっ?!」
「あー。」
ブラスが風球を破壊しながら森の奥へと飛んで行った。
「ふぎゃっ!」
「よっと。」
風球が破壊されたことにより、キビヤとルークは下に落ちた。キビヤは不格好に地面に叩きつけられるように着地し、ルークは空中に階段があるかのように、空中を歩きながら地面に降りた。
「大丈夫?」
「痛いですけど、大丈夫です。」
キビヤは少しふらつきながら立ち上がった。
「ブラス先輩どうしたんですか?」
「たぶん気づいたんじゃないかな。」
「気づいたって何をですか?」
「仕方ないから行くよ。あー、めんどい。」
ルークが走り始め、キビヤもそれに倣った。
「何に気づいたんですか?」
「行ってみればわかるよ。だから結構高く飛んでたのに…だから魔力持たなかったのか。納得。」
「…?」
キビヤは首を傾げたが、行けばわかるというルークの言葉を信じることにした。
「そういえばルーク先輩はブラス先輩苦手なんですか?」
キビヤは走りながら気になっていたことを聞いた。
ルークはそもそもこの任務も嫌そうであり、ブラスに行動制限をかけるように仕向け、ベゴニアに着き、城壁の中に入った瞬間に自由行動に切り替えた。
キビヤの目から見ると、ルークがブラスを遠ざけているようだった。
しかし、キビヤの言葉にルークは驚いていた。
「なんで?むしろ人としては大好きだよ。特に馬鹿なところとか。」
「え?!行きだって勝手な行動しないこととか、言うこと聞けとか…。ベゴニアに着いたあとも自由行動にしてブラス先輩放置してたじゃないですか。」
キビヤの言葉にルークは更に驚いていた。
「いや、あれは…って話してる場合じゃなさそうだね。」
ルークが前を指さす。そこには馬車があり、馬車の前方を囲むように盗賊のような男たちが十人ほど居た。ブラスは馬車を背に、剣を抜き、盗賊たちを睨んでいた。
キビヤはブラスの横に着いた。
「盗賊ですか。」
「そうみたいっスね。剣抜いた方が良いっスよ。相手も長物持ってるっス。」
盗賊たちは剣や斧を持っていた。キビヤも剣を抜く。
「どうしますルーク先輩…、あれ?ルーク先輩は?!」
キビヤがルークの方に視線をやろうとすると、ルークの姿はなかった。
「たった二人で何ができるっつーんだよ。国の犬どもが!?」
盗賊のリーダーらしき人物が高笑いしながら言った。
「どうしますブラス先輩。」
「ちょっと待っててっス。とりあえず剣見せとけば牽制にはなるっスから。」
確かに盗賊たちは構えているだけであった。
「やっちまえ!てめぇらぁ!」
リーダーらしき男の合図で盗賊たちが動き出した。
「やるしかないですよ!」
「もう少し…。」
ブラスは何かを待っていた。
「おっけーです。やっちゃってください、ブラス先輩!」
突然ルークの声が響いた。キビヤが声の方を向くと、ルークは馬車の上に座っていた。
「ルーク先輩!?」
「よっしゃあ!」
ブラスは勢いよく地面に両手をつけた。
「キビヤちゃんは防御術式を自分に張って!」
「…はい!」
キビヤは戸惑いながらも自分の周りに魔力の薄い壁を張った。
「うりゃあぁぁぁ!」
突然馬車の周囲が燃え上がり、盗賊たちは吹き飛ばされながら燃えた。
「うぎゃぁぁぁぁ!?」
「あちぃぃぃ!??!」
火が収まると、盗賊たちは熱がりながら転がっていた。
「キビヤちゃん、消火!」
「はい!」
キビヤが両手を上に出すと、そこから水が放出された。水は噴水のように円状に広がり、盗賊たちについていた火や、燃え残った火が消えていった。
ルークは馬車の上から飛び降りた。
「じゃあ二人とも、そいつら拘束して。」
「はいっス!」
「はい。」
キビヤは盗賊たちを拘束しながら周りを見渡していた。
「なんで森に燃え広がってないんですか?」
ブラスが使ったのは火属性の魔術。火属性の魔術は威力が高い代わりに使えるところが限られる。その理由は、燃え広がり、関係の無い周りが燃えてしまうから。そのため、火の魔術を使えても、それを主に使う者は少ない。特に、燃え広がる可能性の高い森の近くや草原では使うことには相当な注意が必要である。
「それはルークが水の術式を予めやっといてくれるからっスよ。俺も抑えるためのものは術式に組み込んでるっスけど、それだけじゃこういうところでは使えないっスからね。」
「はあ…。」
ブラスの説明により、キビヤはブラスが待つように指示した理由を理解した。
相手が複数の場合、魔術使いは範囲の広い攻撃を使うのが最適である。しかし、今回の守る対象は馬車であり、容易に動かすことができない。そうなると、範囲の広い攻撃を放つのは難しくなる。それを可能にするために、ルークが馬車の周囲に防御術式を張った。そして、ブラスの火の魔術の広がりを抑えるために、予め水の術式をこの一体に描いた。そのためにルークは一瞬姿を消し、ブラスはその時間稼ぎをするために剣を抜き、盗賊たちを威圧していた。
二人の息のあった行動にキビヤは感心していた。
ルークは馬車の御者と話していた。
「さて、これで終わりっスね。近くの街に運ぶっス。」
「そうですね。でもこの人数どうやって運びます?」
「どうするっスかね?」
キビヤとブラスは首を傾げた。
盗賊は十二人。大してキビヤたちは三人。
「どうしようかねぇ。」
ルークも困ったような声を出した。
「馬車に乗せてもらえるかもしれなかったけど、ちょっと多いしね。僕が移動させるにも、もう魔力ほぼすっからかんだし。せめてひと塊にしたいけど、ブラス先輩そういうの苦手ですよね。」
「そうっスね。申し訳ないっス。俺遠隔系の魔術苦手なんで。」
「そうですねぇ。」
「あ、また!タメ口っス!」
「あー、はいはい。わかり…わかったから。」
二人が話す中、キビヤが手を挙げた。
「一辺に拘束するだけだったら僕出来ますけど。」
「ほんと?」
「マジっスか?!」
「はい。でも、近く軍の駐屯地ありましたっけ?そんなに長い距離運べないですよ?」
「近くでは無いけどあるから平気。ブラス先輩!」
「はいっス!」
ルークはある方向を指さした。
「この方向に真っ直ぐ行けば駐屯地あるから、盗賊の人数伝えて、そこの人たち連れてきてもらえる?」
「はいっス!」
ブラスは物凄い勢いで走り出した。
「じゃあ僕たちはこいつら連れて追いかけようか。途中でブラス先輩たちと合流できると思うから。」
「走るのは無理ですよ。僕そこまで制御得意じゃないですし。」
「歩ければ十分だよ。じゃ、お願い。」
「はい。」
キビヤは集めた盗賊たちの周りに術式を描き、そこに手をやると、水の紐が盗賊たちを拘束した。
馬車と別れ、キビヤとルークは盗賊を連れ、ブラスの向かった方へと歩き出した。
「そういえばさっき聞いたことなんですけど…。」
キビヤが聞き途中だったことを思い出し、ルークの方を見た。
「さっき?…あー、決め事と着いてからのブラス先輩の放牧ね。」
「放牧って…。」
「決め事はブラス先輩にさっきみたいなことをさせないため。」
「さっき?盗賊ですか?」
「そう。あの人感知能力高くてさ、それでいて正義感も強いから。別に人助けを否定するわけじゃないけど、今回は行きに封印の書持ってたし。決め事言っとけば無駄に感知するのはやめてくれるし。でも水平方向の感知能力は元々異常に高いから、走っちゃったんだよねぇ。」
「じゃあ、その…放牧は?」
「あれはご褒美。着いちゃえば安全だし、別に一人でも問題は無い。我慢してもらった分楽しんできてって意味で。とゆーかそれに関してはキビヤちゃんも放牧したはずなんだけど。」
「確かに。じゃあ、任務言われた時に嫌な顔したのは?」
「階級的に僕が上だし、班長は僕だって言われたでしょ?単純にそれが嫌だった。」
「あ、なるほどです。」
「僕は単純な馬鹿は大好きだからね。特にブラス先輩みたいなノリの良い馬鹿は。だから僕があの人嫌がることはないよ。」
「そうなんですねぇ。」
キビヤとルークは話しながらゆっくり歩いていった。
途中で国軍兵を連れたブラスと合流し、国軍兵が盗賊たちに連れていかれた。
日はもう落ち始めていた。
「どうするんですか?」
キビヤが首を傾げる。
歩いて帰れば着くのは早くても明朝ごろ。そのためには徹夜で歩かなければいけなくなり、まだ途中に森があったりと、夜通し歩くには危険であった。
「キビヤちゃんはまだ魔力十分残ってる?」
「まあある程度は。」
ルークの問にキビヤは正直に答えた。ルークがブラスを見る。
「ブラス先輩は…まだ余裕だよね。」
「うん、まだ全然平気っスよ。」
ブラスは元気が有り余っているようだった。
「じゃあブラス先輩は僕をおんぶして。」
「はいっス!」
ブラスは疑問を持つ様子など微塵もなく、ルークを背負った。
「じゃあ道は教えるから、ブラス先輩走れー!」
「おっしゃー!」
ブラスは物凄い勢いで走り出した。
「キビヤちゃんは頑張って追いかけてねぇー…。」
一瞬で遠くなっていくブラスとルークに、キビヤは呆気にとられた。が、すぐに自身に身体強化をかけ、走り出した。
「キビヤ遅いっスよー!!」
「なんでルーク先輩背負っといてそんな速いんすかぁぁぁ!?」
「ははっ、キビヤちゃん頑張れ〜。」
楽しそうな声が森を駆け抜けていった。
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