三十二話. パァンチ
ロベリア伯爵邸にて盗賊の幹部の一人を拘束したライブル班の四人は、ハイトとメービスは幹部の男を監視し、ケイマンとエレシアは建物の崩壊に巻き込まれた人の救助を行っていた。
「暇っすねぇ。」
「そだねぇ。」
メービスとハイトは拘束された男を挟むように座っていた。
「尋問しなくて良いんすか?」
「私の拘束じゃ尋問できないよ。ルークだったらできるかもしれないけど。」
「拘束系苦手でしたっけ?」
「苦手というより得意じゃないって感じかな。苦手でもあるけど、私が苦手って言ったら大体の人苦手になっちゃうし。」
「ですね。要するにこの人めちゃくちゃ強いってことですよね?」
「そうだね。本気出されたら私も負けてたかもしれないし。」
「そうっすね。本気出されたら僕とエレシアさん死んでたっすね。」
「何を考えてたかはわかんないけど助かったよ。このレベルが四人って考えると、今回の任務もう少し人数増やした方が良かったかもね。」
「スロイさんは問題ないと思いますけど、アリアさん平気っすかね?この人みたいなのいたらやばくないすか?」
「だからルークとラダイをつけたんだよ。アリア個人の戦闘力はそんなに高くないからね。」
「アリアちゃんてそんなに弱いの?」
突然二人とは別の声が聞こえ、二人は声の方を見る。
ケイマンがメービスの後方からのんびりと歩いてきていた。
「救助は?」
「大方終わったよ。あとは南方軍の人たちに任せて平気。怪我人もいるけど元々そんなに多くないっぽいからエレシアに任せてきた。」
「お疲れ様です。」
ケイマンはメービスの横に腰を下ろした。
「で、アリアちゃんてそんなに弱いの?任務一緒にやったことないから知らないんだけど。」
ハイトは首を振った。
「強いですよ。十位ですしね。」
「だよね?」
「でも攻撃に関しては中位より上って感じです。防御能力に関しては私と同じかそれ以上ですね。」
「なるほどね。だからラダイくんもつけたのか。ルークくんも火力あるタイプじゃないしねぇ。」
「ラダイさんやルークとは任務したことあるんすか?」
メービスが首を傾げる。
「数回かな。メービスくんはハイトくんと仕事するときは割といたようなイメージ。でも上位になってからは着いてくることなくなったかな。ラダイくんも任務回数的には同じぐらいかな。」
「ですね。」
ハイトはケイマンの言葉に頷いた。
「ん…。」
ケイマンが突然立ち上がった。メービスはそれを見て首を傾げる。
「どうしたんすか…ってそーゆーことですか。」
「だね。君は誰だ?」
ハイトはメービスの言葉に頷きながら横に目をやった。その先にはゆったりと歩きながら本を読む男がいた。
「よく気づいたな。ん?」
男の足が止まる。メービスが男の横に移動しており、男の首に剣を置いていた。
「あらま。」
「動かないでくださいね。」
ハイトは立ち上がって男の方に歩き始めた。
「偶然来たわけじゃなさそうだね。君は拘束された男の仲間かな?」
「そうだね。違うとしたらこれは失礼過ぎだと思うけど。」
男はメービスの持つ剣を指さした。
「当たってたから平気だよ。」
「そりゃ結果論だけど、まあその通りだな。ヴォレス、起きな。」
男は拘束された男の方に向かって言った。
「ん…、おー、ノートスさん。」
呼ばれた男は突然目を開いた。
「ぶふっ?!」
「メービス!?」
ハイトの意識がヴォレスに行った直後、ノートスがメービスを蹴り飛ばした。
「よく寝た気がするわ。」
「なら動いて。」
「おっけー。」
「やらせ…あらばっ!!?」
ケイマンがヴォレスの拘束を強めようとしたが、ヴォレスはすぐに拘束を解き、ケイマンを殴り飛ばした。
「ケイマンさ…ちっ!?」
ノートスは別の本を取り出し、ハイトに殴りかかった。ハイトはすぐに反応し、剣でそれを防ぐ。
「良い反応だね。」
「そりゃどーもっ!」
ハイトは剣で本を押し返し、すぐに手を返して剣を振った。
「おっと。」
ノートスは軽い動きでそれを後ろに飛びながら避けた。ハイトはそれを見て笑った。
「ん、お?」
ノートスの飛んだ先に影のような黒い棒が雨のように降り注ぎ、土煙が上がった。
「ノートスさん!…あ?!」
ヴォレスはハイトの方に足を向けたが、その足は止まった。ヴォレスの足には地面から生えた水の紐が巻きついていた。
「はい、捕まえたぁー。」
「このやろっ。」
ヴォレスが横に視線を向けると、そこにはケイマンが膝をつき地面に両手をつけていた。
「ラキラキラキラキパァンチっ!」
「な、ぐっ!?」
突然ヴォレスの真上にラキが飛び上がっており、ラキは風を帯びた拳でヴォレスを地面に殴りつけた。
ヴォレスはまともにくらい、土煙がヴォレスを覆った。
「ナイスタイミング、ラキちゃん。」
「いぇい。」
褒めながらケイマンが立ち上がると、ラキはその横に着地した。
ハイトの横にはルークが現れた。
「ルークもナイスだよ。」
「すみません、僕らが逃がしたやつです。」
「いや、それはしょうがない。他の三人は?」
「南に向かいました。」
「南?…わかった。」
ハイトはノートスの方を見た。
土煙の中から無傷のノートスが、土埃を払いながら出てきた。
「不意打ちとは酷いなぁ。まあでも、一手早かったな。」
「きゃぶっ!?」
「ぐっ!?」
突然ハイトとルーク、二人の後ろにラキとケイマンが転がってきた。
「まじかい…。」
「…。」
ルークは面倒くさそうに、ハイトは表情を変えずに視線を後ろにやった。
二人の後ろにはヴォレスが立っておりその横には二人の若い男女がいた。
「さて、二人も来たし。」
ノートスは体の前で手を叩いた。
「帰ろうか。」
「え?」
「…。」
ノートスの一言にルークは驚き、ハイトは表情を変えずにいた。
「じゃあお疲れ様。」
ノートスはハイトとルークの上を飛び越え、三人の元に着地した。
ノートスは二人の方に向き直り口を開く。
「あっ、一つ言い忘れてた。君たちの探してるものは南にあるよ。」
「南…。」
ハイトはアリアたちが南に向かっていたことを思い出した。
ハイトの言葉にノートスは頷いた。
「ディカテ。」
「はいはい。」
若い男が地面に手をつくと同時に、四人の姿は消えた。
「え…、逃げた?」
「みたいだね。とりあえずは南にある屋敷に行こうか。ケイマンさん。」
「はいはい。」
倒れていたケイマンは何事も無かったように起き上がった。
「ラキとメービスの治癒をお願いします。私とルークは南に向かいます。ルーマ班が来たら待機と警戒を。」
「了解。」
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