三十一話. 鉄の塊は本ではない
ロベリアの西端の林の中。
ピアーモ班の五人は盗賊たちと戦っていた。
「助けてぇー!」
情けない声が林の中に響いていた。その声の主はキビヤであり、盗賊たちの攻撃を避けながら逃げていた。
「ルーク!」
「無理!」
アリアは目の前の敵を切りながらルークを呼んだが、ルークは即答した。
「なんで!?」
「状況見てから言って!」
ルークは五人の敵に囲まれながら攻めあぐねていた。
「じゃあラダイくん!」
「わかりました。」
アリアがラダイを呼ぶと余裕そうな返事が聞こえた。
盗賊たちはラダイの行く先を塞ぐように立っていた。
「行かせるかよ。」
「すみません、通りますね。」
ラダイは素早く敵の首を跳ね飛ばしながらキビヤの方へ向かった。
「あべっ!」
キビヤは木の根に足を引っ掛けて転んだ。
「わぁぁぁ?!」
「もらったがっ?!」
キビヤを切ろうとした敵の首が突然飛んだ。
「大丈夫ですか?」
「ありがとうございます、助かりましたって、後ろ!」
キビヤがラダイの後ろを指さす。ラダイの後ろから数人の敵が各々の武器を振りかざしていた。
「わかってますよ。」
ラダイが振り返ると同時に、敵の首は跳ね飛んだ。
「手応えがありませんね。」
「流石ですね。」
「学園に入るまでは母親に鍛えられてましたからね。こちらは終わりましたし、ラキくんの加勢に行きましょうか。」
「ぐぎゅぷっ!」
突然ラキが転がってきた。
「くっそー!」
「止まってくださいラキくん。」
起き上がってすぐに行こうとしたラキをラダイが止める。その様子を見てキビヤはこっそりと動き出した。
「キビヤくんも逃げないでください。キビヤくんも入れて三人ですよ。」
「えぇー。ラキ先輩があしらわれている相手に僕が加勢したところで焼け石に水ですよ。」
「焼け石に火をやるよりはマシです。」
「それ相手に加勢来てないですか?」
キビヤはラダイの言葉に首を傾げながらも、諦めて、男の方を見た。
男の視線は相変わらず本に向いており、攻撃を仕掛けてくる様子はなかった。
「ラキくん。あの人の能力は?」
「わかんない。わかるの体術上手いってぐらい。」
「そうですか。ラキくん、魔力はあとどれ位ですか?」
「大きいのはやってないからまだ全然余裕です!」
「わかりました。ラキくんと私で攻めます。」
「じゃあ僕は帰りま」
「キビヤくんは隙を見て撃ち込んでください。アリアさんとルークくんの方はもう少しで終わると思いますから、ここからは魔術解禁です。ラキくんも自由にやっていいですよ。」
「えぇ…、わかりました。」
「了解っ!」
ラキは真っ先に突っ込んで行った。
「ラキラキラキパーンチッ!」
ラキの拳は男の手に捕まれ防がれた。
「からのキーック!」
ラキは身体を回転させ、回し蹴りをしたが男は後ろに下がり躱した。
「もらいましたよっ!」
男の背後にはラダイがおり、ラダイは剣を振った。が、男はラダイの剣を持つ手を掴み、そのまま投げ飛ばした。
「ふりゃっ!…あらま。」
その瞬間にキビヤが男に水の球を撃ったが、男は手でそれを払った。
「ラキラキスラーッシュ!」
ラキが風刃を放つ。男は飛んで避けようとしたが、男の足は動かなかった。男の足は地面とともに凍りついていた。
男が足を上げると氷は簡単に砕け、男はその振り上げた足でラキの風刃を相殺した。
「そろそろかな。」
男はそう言うと本を閉じ、別の銀色の本を取り出した。
「先に自己紹介しておこうか。私はノートス。あなたたちが調べている通り、四人の幹部?のうちの一人。あの二人がこちらに来る前に三人とも倒しておこうか。」
「ラキラキラキパァーンチッ!」
突然ラキがノートスの背後に周り、風を帯びた拳を振りかざした。
「遅いよ。」
「えっ?!」
ラキは拳を振り抜いたが、そこにノートスの姿はなかった。
「こちらです。」
「!?」
ノートスはラキの後ろにおり、本でラキを叩こうとしていた。
「やらせませんよっ!」
ラキとノートスの間に氷の壁が生えた。
「なっ!?」
「ふきゃっ?!」
ノートスは本で氷を砕き、そのままラキを本でぶん殴った。ラキは避けられずにそれをくらい、吹き飛んだ。
「ラキせんぱ?!」
「君は反応遅いねっ。」
「ばぉっ?!」
ラキのフォローに向かおうとしたキビヤの目の前にノートスが現れ、ノートスはキビヤの腹を蹴り飛ばした。
「くっ、それ以上は…っ?!」
ラダイが飛ばされたキビヤに目を移した瞬間、ノートスはラダイの目の前に来ており、本を振りかざしていた。
ラダイは咄嗟にその本を剣で受け止めた。
「残念。君は強そうだな。」
「その本、普通の本ではありませんね。」
「ただの本だよ。ただ鉄で作ってあるのと、開くことが出来ないってだけだねっ!」
「おっと。」
ラダイは押し飛ばされながらも、ラキとキビヤの方を確認していた。
ラキは先程まで一人で相手をしていた影響からか、息はしているが倒れて動けないでいる。
キビヤは少しふらつきながらも立ち上がろうとしている。
「余裕だねっ!」
「くっ?!」
ラダイが着地した瞬間、ノートスはラダイの真後ろに立っており、本を振りかざした。ラダイはすぐに剣でその本を受け止めた。
「ん?」
ラダイを蹴り飛ばそうとしたノートスの足が止まった。ノートスの足には水のひもかのようなものが巻きついていた。
「ナイスです!」
「おっ?」
止まった一瞬をつき、ラダイはノートスの横腹を蹴り飛ばした。ノートスは本を持っていない方の腕で防ぎながらも蹴り飛ばされた。
「多連氷槍!」
ラダイの周りに氷の槍が何本も現れ、その槍は飛ばされたノートスの方に向かった。
「氷は…またか。」
ノートスは着地しながら体勢を整え、向かってくる氷槍に向かって本を振ろうとした。が、本を持つ腕には水の紐が巻きついており、その動きを止めていた。
「君か。」
ノートスは横を睨んだ。その目の先にはキビヤがおり、キビヤの手から水の紐がノートスの腕に繋がっていた。
「力が入りにくい。伸縮自在で魔力吸収付きか。いや」
ノートスは本を振って氷槍を弾いた。その瞬間、水の紐はちぎれていた。
「えっ?わっ!?」
「まずは君だ。」
動揺するキビヤの目の前にノートスが迫っていた。
「氷壁!」
ラダイが両手を地面につけると同時に、キビヤとノートスの間に氷の壁が生えた。ノートスは本を振って割ろうとしたが、その本は氷の壁に弾かれた。
「あらま。じゃあもう少しっ!」
ノートスは弾かれた腕をもう一度振り下ろし、氷の壁を砕いた。しかしそこにキビヤの姿はなかった。
「…早いね。」
ノートスは突然後ろに飛び上がった。
ノートスが飛んだ直後、ノートスのいた位置に黒い影のような棒が雨のように降り注いだ。
「避けられたかぁ。」
ノートスの正面、影の棒が消えた先にはルークが立っており、その隣にはアリアも立っていた。
「助かりましたぁ。」
二人の後ろにはキビヤが転がっていた。
「ラダイくんで倒しきれないとはね。キビヤくんは下がってて。三人でやるわよ。」
「お願いしまーす。」
キビヤは安堵したように下がっていった。
「すみません。二人が来る前に終わらせたかったのですが…。」
「いやキビヤちゃんたち庇いながらって考えたら上出来だと思いますよ。僕なら無理。たぶんどっちかは死んでる。」
「それはなさそうですよ。あの方、ノートスさんは殺すつもりなさそうですし。」
「どういうこと?」
ラダイの言葉にアリアは首を傾げた。
「驚いたな。強いとは思ったけどそこまで見抜いていたのか。」
ノートスは感心していた。
「それでも二人とも傷を負わせてしまいましたが。」
「つまり…。」
アリアはため息をつき、ノートスを見た。
「とんでもなく強いってことね。」
「謙遜ですよ。流石に君たち三人同時に相手するとなると私も殺さずにやるのは不可能だと思うよ。」
ノートスの言葉に三人は息を飲んだ。
「でもまあ、時間切れのようですね。君たちの目的は南の屋敷にありますよ。では。」
そう言い残した直後、ノートスの姿は忽然と消えた。
「は?」
ルークは目の前で突然姿が消えたノートスに驚いた。
「ルーク、感知は?」
「いや、全然。どゆこと?」
「…一先ずラキちゃんと一緒に警戒しておいて。ラダイくんとキビヤくんは私と一緒に転がってる死体の処理よ。」
「わかりました。」
「了解です。」
いかがだったでしょうか。
コメントや評価、お待ちしております。
批判や誹謗中傷は怖いので、なるべく優しい言葉でお願いします。
誤字脱字がありましたら、優しい言葉で教えていただけると素直に感謝します。
次回の投稿は11月17日(日曜日)の21時20分(午後9時20分)の予定です。
予定が変わった場合はX(旧Twitter)で告知しますので。
良かったらフォローお願いします↓
【 https://x.com/tsuchi3_memo 】
どうぞお楽しみに。




