二十五話. 上中下関係
カブラーン王国ヤウグ州の町、ロベリア。この街はカブラーン王国の南端の町であり、アフリア王国との国境沿いに存在している。街の四方は砂と岩山に囲まれており、砂漠のオアシスだった場所にロベリアの町は作られた。
ロベリアの東端にはカブラーン王国軍の駐屯地がある。そこに、カブラーン王国魔術士団第六大隊のライブル小隊とホラート小隊の十八人は来ていた。
「お待ちしておりました。」
二小隊を迎えたのは中年の男の軍人であった。
ハイトとアリア、そしてスロイが一歩前に出て敬礼をした。
「魔術士団第六大隊所属、ライブル小隊隊長、ハイト・ライブル三位であります。」
「同じくライブル小隊所属、アリア・ピアーモ十位であります。」
「同じく第六大隊所属、ホラート小隊隊長、スロイ・ホラート七位であります。」
「南方軍第十三師団第三大隊副隊長、フクル・ヴァイス四等兵であります。大隊長がお待ちになっておりますので、どうぞ。」
フクルは建物の中を手で指した。
「はい。じゃあ、スロイとアリアとマルボルさんは一緒に中へ。他は待機。アンドレイさん、お願いしますね。」
ハイトの言葉にアンドレイは敬礼をした。
五人を見送ったあと、自然とライブル小隊とホラート小隊は分かれていた。
キビヤはルークと話していた。
「この町ってこんなに栄えてたんですね。任務内容とは裏腹に賑わって楽しそうですよ。」
「いや、こんなには栄えてなかったような気がするけど。てか、栄えてるとか以前に、もう少し殺伐とした雰囲気だったはず。少なくとも街の外が平和過ぎる。」
「殺伐って、アフリアの影響ですか?」
「うん。内戦が続いてるから亡命してくる人が多いんだけど、どういうことだろ?」
「良い労働力になってるとかですかね。」
「それなら良いんだけど、働き口そんなに用意されてないはずなんだよね。」
キビヤは首を傾げた。
「なんでですか?」
「亡命してきた人は安くても働いてくれるし使い勝手が良い。確かにそれは魅力的だけど、そのせいでカブラーンの人の働き口が減るのはダメでしょ。」
「確かに。」
「だから規制をかけてるはずなんだけど、思ったよりも栄えちゃってるんだよなぁ。街の外側に人が少ないし。内戦落ち着いたって話は聞いてないんだけど。」
「それってどういうことですか?」
「ま、任務が終わればわかると思うよ。」
ルークはなにか検討がついているかのように落ち着いていた。
「何が?」
「!?」
突然真後ろから別の声が聞こえ、キビヤは回転しながら前方に飛んだ。
キビヤは咄嗟に声の方に構えたが、その姿を見てやめた。
「ケイマンさん、驚かすのやめてくださいよ。」
「キビヤくん反応良いね。ルークくんはもう少し驚いてくれると面白かったのに。」
「さっきニヤニヤしながら動くの見えたんで。あんま驚かす気なかったでしょ。」
「前はこんなに冷たくなかったのになぁ。」
「で、どうしたんですか?」
ルークはケイマンの方に顔を向けて首を傾げた。
「いや任務前にメービスくんと親睦を深めようと思ったんだけど。寝てるねぇ。」
ケイマンの視線の先にはブラスの背中に寄りかかり寝ているメービスがいた。そんなメービスを気にせずに、ブラスはラダイとラキと楽しそうに話していた。
「メービスちゃん驚かすならもう少しちゃんと気配消さないと無理ですよ。」
「そうなの?」
そう言いながらケイマンはルークの隣に腰を下ろした。
「で、任務が終わったら何がわかるの?」
「この町が栄えてる理由ですよ。ケイマンさんはわかってそうですけどね。」
「確かに栄えてるねぇ。不自然な程に。」
ケイマンは理解したように頷いた。
「栄えてると言えば、この駐屯地、人多くないですか?町の周りも野営地ありましたし。町の大きさ考えたら中隊でも多いぐらいのはずですよね?大隊長さんの護衛ですか?」
キビヤは周りを見渡しながら言った。
隣国アフリアは砂漠の国とも呼ばれている。生産性は少なく、一つ一つの町は小さい。国境沿いに位置するロベリアも、カブラーン王国領でありながらも、生産性は低く、町の面積も小さい。
国境沿いではあるものの、町の大きさも含めると、カブラーン王国軍の中隊レベル、つまりは百人ほどの軍人が駐屯地にいても過剰と言えるほどであった。
「大隊長が来てるのもあるけど、それだけじゃないよ。」
ルークの言葉にケイマンは頷いた。
「四等兵の副隊長も来てるってなると確定かな。」
「ですね。」
ルークはめんどくさそうに答えた。
「そういえば四等兵って魔術士団だとどのくらいの階級になるんですか?兵長や一等兵が偉くて、九等兵が僕と同じぐらいってのは知ってるんですけど。」
「魔術士団は階級が雑だからねぇ。四等兵は上位、つまりはルークくんと同じくぐらいの権限かな。」
「僕は中位寄りですけどね。」
ルークは頷きながら答えた。
「でもまあ、扱う人数とか仕事内容とか色々なところが違うから微妙なところかな。魔術士はあまり大人数で行動しないし、個人能力主義なところがあるからねぇ。」
「仕方ないと思いますよ。寄りすぎても味方巻き込むだけですし、攻撃範囲が違いますから。」
「まぁ、そりゃそうだねぇ。」
ケイマンはルークの言葉にしみじみと頷いた。
三人が話していると、駐屯地内から軍兵が出始めた。
「そろそろだね。」
ケイマンがそう言うと、ハイトたちが建物から出てきた。
「おつかれー。」
キビヤたちはすぐに立ち上がり、敬礼をした。ハイトたちの後ろからフクルともう一人の男が歩いてきていた。
「私はヤキーフ・ダイタン二等兵、第十三師団第三大隊の隊長をしています。よろしく。」
「「「よろしくお願いします。」」」
ヤキーフはハイトの方を見た。ハイトはすぐにその視線に気づき頷く。
「ではこれから任務に移る。ホラート班、ピアーモ班、ルーマ班はすぐに移動、任務実行に移れ。ライブル班はこれからダイタン二等兵とともに伯爵のところへ行く。じゃあ三人とも頼んだよ。」
ハイトはスロイ、アリア、マルボルを見た。三人は頷いた。
「じゃあホラート班行くよー。」
スロイがのんびりとした声で呼びかけながら歩いていった。四人も急いでそれについて行った。
「私たちも行くわよ。」
アリアの呼びかけにキビヤたち四人もついて行った。
「行くぞ。」
マルボルの声に反応し、三人はマルボルについて行った。
三班を見送り、ハイトはヤキーフの方を見た。
「じゃあ私たちも行きましょうか。」
「ですね。」
そう答えたヤキーフをハイトは少し嫌そうな顔で見た。
「どうしました?」
ヤキーフはそれに気づいたようで首を傾げた。
「敬語やめてくれません?」
「私はただの二等兵ですから。」
「いや大隊長じゃないですか。権限が同じでも扱う人数違いますし、ダイタン隊長の方が年上ですし。」
「軍は年功序列の前に階級がありますし、魔術士団は我々と別枠ですからね。」
「さっき「よろしく」って言ってたじゃないですか。」
「それは権限が下だとわかっているからですよ。それに、立場上の問題もありますし。」
「だったら私にも気楽に接してくださいよ。」
「だとしたら、ライブル三位も私に対して敬語はやめてくださいね?」
「それは厳しいですね。私は基本年上には敬語にしてるので。」
ハイトの言葉にヤキーフは少し考え、ケイマンの方を見た。
「そうなの?」
「そうですねぇ。敬ってくれるのは有難いですけど、階級を重視してる人もいるので微妙なところですかねぇ。」
「ほう。ライブル三位は歴を重視してるということですか。では、善処しますね。」
ヤキーフはハイトに笑顔を向けながらそう言った。
「する気ないじゃないですかー。まあとりあえず、行きましょうか。」
ハイトの言葉にヤキーフは頷き、ハイトたちは歩き出した。
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