二十一話. 探しても見つからないことはよくある
「助けてぇ〜!!」
キビヤの情けない声が森の中を駆け回っていた。
全力で走るキビヤの後ろには、長い牙を生やした猪が迫っていた。
キビヤは走りながら周りの木々を見ていた。
「あれだ!」
キビヤは比較的凹凸の目立つ高い木を見つけ、その木に向かって飛んだ。
「ふっ、ほっ、よっ!」
キビヤは木の凹凸に手と足をかけて飛び上がった。
「ふぅ。危なかったあ?!」
キビヤが猪を見ようとした瞬間、キビヤの足元が傾いた。
「おっと。え?」
猪はキビヤの登った木に体当たりをして、木をへし折った。キビヤはバランスを崩し、木から落ちた。
「ぐべっ?!」
不格好な体勢で地面に落ちたキビヤはすぐに起き上がった。
「あっ。」
キビヤの目の前には突進してくる猪がいた。
「よぎばっ??!」
キビヤは咄嗟に剣を抜き、突進してくる猪の牙を防ぐように剣を当てた。が、出した剣とともにキビヤは後ろに吹っ飛ばされた。
キビヤは後ろにあった木に当たり、背中の左半分に木が当たったため、木の斜め横に転がった。その瞬間、パキッという鉄が砕ける音が鳴った。
「いったー…、折れたぁぁぁぁぁ?!?」
キビヤが再び剣を構えようと剣先を上げると、剣身は砕けており、持ち手部分だけになっていた。
「ちょっ、ふんば!」
キビヤは剣だったものを投げ捨て、両手を前に出し、そこから水球連弾を放った。
「おりゃっ!」
キビヤの放った水球連弾が猪に当たった。が、猪は少し身震いしながら水を払うだけであった。
「うっそー。」
猪は挑発されたと感じ、更に激昂し、キビヤへ向かって走り出した。
「ふんっ!」
キビヤは両手から水の刃を飛ばした。猪の牙にキビヤの放った水刃が当たり、水刃は水飛沫を上げながら消えた。
「なんでー??」
キビヤは首を傾げつつも、地面に両手を置いた。
「ふんならばっ!」
キビヤの目の前に土の壁ができ、キビヤのいる位置は少し下がった。が、その土壁も一瞬で砕け散った。
「うわっ!?」
キビヤが頭を抱えながら伏せると、猪がキビヤの真上を走り抜けた。
「あぶっ?!」
キビヤの背中を踏みつけながら。
突然、猪の鳴き声が響く。キビヤが恐る恐る後ろを見ると、剣で首を上から一突きにされた猪と、首を傾げてキビヤを見ているルークが立っていた。
「なにやってんの?キビヤちゃん。」
「いや、頑張ってたんですけど。」
「まあ、たぶん魔力持ちだけどさ。」
ルークが掌を猪に向けると、突然大量の黒い糸のようなものが猪の首を串刺しにした。
「はい、終わり。キビヤちゃん、もう少し頑張ろうよー、僕が来るの遅れたら怪我してたよ?」
「いや、死んでた気がするんですけど。でも、ありがとうございます。」
「いやキビヤちゃんはなんだかんだ死なないタイプだから平気だよ。」
「そんなタイプあるんですか?」
「ないけど。」
「ないじゃないですかー。」
サラッと言うルークに、キビヤは不満げに言い返した。
何事も無かったかのように起き上がるキビヤを見て、ルークは手で口を押さえ震えていた。
「どうしたんですか?」
キビヤは土埃を払いながらルークの方を見た。
「いや、ほんと…。キビヤちゃんの魔術って耐久性ゴミだなって…。」
「それは本当にすみません!」
笑いを堪えながら言うルークにキビヤ謝るしか無かった。
キビヤはルークの言葉を思い返した。
「耐久性って、どこから見てたんですか?」
「木から落ちたところ。」
「だったらすぐに助けてくださいよ。」
「面白そうだったもんで。」
「いや、後輩見殺しにするつもりですか。」
「助けたじゃん。」
「死を覚悟した直後にね!」
怒るキビヤを見て、ルークは普通に笑っていた。
二人のいるところに、アリアが歩いてきた。
「なんか木がまるごと一本折れてたんだけど…って、キビヤくん見つかったんだ。良かったー。」
アリアはキビヤを見て安堵の表情を見せた。
「アリアさん、そっちは終わったんですか?」
「うん。あっさり片付いたから先にルーク向かわせたんだけど。間に合ったみたいね。無傷?」
「まあ要所要所で身体硬化と身体軟化使い分けてたんで。痛いことは痛いですけど。」
身体硬化とは、身体は硬くすることで、物理的な防御力を一時的に上げる魔術である。
身体軟化とは、身体硬化とは逆に、身体を軟らかくすることで、物理的な衝撃から来る身体への負担を軽くすることができる魔術である。
「あんた器用ね。」
「その器用さを他の魔術にも発揮すりゃいいのに…。」
ルークはそう言いながらまだ笑っていた。
「耐久性はどうしようもなくないですか!?」
「確かに。」
キビヤの言葉にルークは納得したように頷いた。
「いや納得されると虚しいんですけど。」
「さて、再開するわよ。」
アリアたちは昨日見た龍の発生場所を探していた。
昨晩、情報共有のため、ライブル隊は一度集まった。そのとき、三班全員が龍を見たことが分かった。しかし、龍のいた正確な位置は三班とも把握出来ていなかった。そのため、龍の発生場所を三班別々に探していた。
「なんで見つからないんですかね?」
キビヤが首を傾げる。
三人とも森の地図は頭に入れており、地図もある。しかし、それで目星をつけた方向に行っても、龍のいたであろう場所には辿り着けていない。
「なんでだろねー。」
ルークも首を傾げていた。
少なくともルークの探知魔術の範囲外だったこともわかっている。しかし、それでもわからなかった。
「私たちの班はともかく、他の班は把握出来てると思ったんだけどね。」
アリアの言葉にルークが頷く。
「ブラス先輩とラキちゃんがいて無理なら僕らは無理でしょ。メービスちゃんもわかんないって言ってたし。」
「メービス先輩って探知魔術っぽいの得意ですよ。」
「ぽいのね。別物だけど。」
「探知魔術と何が違うんですか?」
「メービスちゃんのは見える、探知魔術は感じる。そんな違いだと思うよ。」
「なるほど…?」
キビヤは全く理解出来ず首を傾げた。アリアが口を開く。
「ま、細かく考えるのは後にして。さっさと探すわよ。」
「はい。」
キビヤは考えるのをやめて、敬礼をした。
「見つかる気しねぇ…。」
ルークは不満げにそう零した。
ルークの言う通り、龍の発生場所の特定は出来なかった。ライブル隊はその後三日間探索を続け、別の小隊へ探索を引き継ぎ、森から引き上げた。
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