二十話. 時間て長い程短く感じるのなんでだろう。
トトの森中心部。
そこは神聖な森の中でも聖域とされている。しかし、たどり着けた者はほとんどいない。
上空からはただの木々の集まりにしか見えず、明確な道などはない。
伝承によれば勇者トトの生まれた村のあった場所である。村の名前は伝承にはなく、トト自身も村の名前を知らないとされている。
そのため、トト亡き後。トトの弟子たちが森全体をトトの森と名付け、村のあった地を聖域と呼んだ。
フリールとアイスはその村のあった場所に来ていた。
「ここ?」
アイスがフリールの顔を見上げると、フリールは穏やかな表情をしていた。
「うん。」
「誰かいるよ。」
「そうだね。」
フリールとアイスの視線の先には廃墟があり、その屋根の上に銀髪の男が座っていた。
「お久しぶりです。」
フリールが頭を下げると、アイスも急いで頭を下げた。
男はフリールたちの方に視線をやった。その目は薄緑の澄んだ色をしており、鋭い目つきでフリールたちを見ていた。
その目にアイスは驚き、急いでフリールの後ろに隠れた。
男が口を開く。
「お前は…。」
「今はフリールと名乗っています。」
「…そうか。」
男は納得したように頷いた。
「噂になっていましたよ。何故ここであの姿に?」
「人のままだと疲れるからな。天気も良かった。」
「そうですか。では、何故ここに?」
「気まぐれだ。」
そう言いつつ、フリールの後ろに隠れるアイスの方を見た。
「そいつは?」
「僕の娘?…みたいなものですかね。拾い子ですが。ほら、挨拶しなさい。」
フリールはアイスの背中を軽く押し、前にやった。
「アイスです。」
「アイスか、よろしく。」
「よろしくです。」
恐る恐る頭を下げるアイスを見て、男も軽く頭を下げた。そして、フリールの方に視線を戻した。
「で、噂になってたってのは?この森をウロウロしてるやつらか?」
「はい。カブラーン王国の魔術士団だそうですよ。」
「カブラーン?…この国はハクゴウではなかったのか?」
「ハクゴウはとっくの昔になくなりましたよ。僕たちにとっては最近かもしれませんが。今はカブラーン王国という名前ですよ。」
「そうだったか。魔術士団…。人間が魔術専門の部隊を作るようになったのか。時代だな。」
「そうですね。中々面白い魔術を使ってましたよ。」
「お前が今してる隠蔽魔法と関係してるのか?」
「やはり気づかれましたか。」
「そこまで高度化しないと気づかれる、ということか。」
「たぶん魔力を周りに流すタイプの探知魔術なので。魔術士団相手だと周りと一緒の魔力の形にしないと気づかれますね。僕もさっき知りましたけど。」
「そうか。俺も気をつけるとしよう。」
男は納得したように立ち上がった。
「何か予定でも?」
「…いや、特にはないが。ここにいれば見つからないと思うが、本気で捜索されたら可能性はあるだろう。」
「その姿なら問題ないのでは?」
「一応だ。」
男の言葉にフリールは笑った。
「一応ですか。相変わらずの警戒心の高さ…、いや、見た目に似合わない優しさですかね。」
「見た目に似合わないは余計だろ。」
そう言うと、男は突然飛び上がった。
男が飛び上がると同時に、男の体が光る。
数十メートルはある身体に巨大な翼、銀色の鱗、鋭い牙、薄緑の目。
光の中から現れたのは龍。龍の目はフリールとアイスを捉えていた。
アイスはその姿を見て驚き、口をポカーンと開けていた。
「またな。」
先程の男の声を龍が出した。
「はい、また会いましょう。」
フリールが手を振ると、龍は空高く飛び上がって、雲の中へと消えていった。
「あのおじさん、龍だったの?」
「アイスはまだ見たこと無かったね。龍と呼んでも良いと思うよ。」
「フリールは龍と友達なの?」
アイスの言葉にフリールは虚をつかれたような表情を見せた。
「違うの?」
驚いたフリールの表情を見て、アイスが首を傾げる。そんなアイスを見て、フリールは笑を零しながらアイスの頭を撫でた。
「友達か…。友達と言うよりは恩人に近いかな。」
「恩人?」
「そう。お世話になった人だよ。」
「ふーん?大きかったね。」
「そうだね。」
龍が飛び立ったあと、フリールとアイスはしばらく空を眺めていた。
トトの森の西側。
アリア、ルーク、キビヤの三人は龍の捜索を続けていた。
「疲れた。」
ルークは連日、休憩を挟みつつも探知魔術をし続け、集中力が大分切れていた。
「それは私とキビヤもよ。」
アリアの言葉にキビヤは頷いた。
「もう探索終わりで良くね?」
「そうね。でも合図が出ていない以上、終わることはないわよ。今日の夜一旦集まることにはなってるけど。」
「絶対ハイトさんたちは遊んでるって。マルボルさんのとこは真面目にやってるだろうけど。」
「ハイトさんもちゃんとやってるわよ。…たぶん。」
「うそだー。」
「すみません、僕がもう少し探知魔術の持続時間が長ければ良かったんですけど…。」
キビヤが申し訳なさそうに言うと、アリアは首を振った。
「出来るだけ優秀よ。私もルークほど長くはできないし、ブラスくんはそもそもできないし。その代わり感知能力高いけど。」
三人は交代で探知魔術を発動していた。しかし、ルークの持続時間が一番長く、その分、ルークに負担がかかっていた。
「んにゃ?!」
ルークの足が突然止まる。
「どうしたの?」
アリアとキビヤがルークの方を見ると、ルークは空を指さしていた。
「あれ…。」
ルークの指さす方向には龍が飛んでいた。龍は上空へ一直線に飛んで、雲の中へ消えていった。
「本当にいたのね…。」
「ですね…。」
アリアの言葉にキビヤが頷く。
三人とも実物の龍を見るのは初めてで、しばらく呆然とするしかなかった。
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【8/17-21:41追記】
二十一話、先程投稿しました。遅れて申し訳ないです。




