十八話. 同僚の出身地って意外と知らないよね。
カブラーン王国ヴァルスタ州マアトの町。ここは中央のテセント州と東のヴァルスタの境に位置する町であり、宿場町として有名である。
ライブル隊の九人は、マアトの町の東に位置するトトの森に行くため、この町に寄っていた。
「ここは意外と栄えてるんですね。宿場町とは聞いてましたけど。」
キビヤは落ち着きの無い様子で周りを見ていた。
「あれ?キビヤちゃんはヴァルスタ出身じゃなかったけ?」
ルークが首を傾げる。
「ここ来たことないです。僕の村は南の方ですし、ライラックに向かう時はヤウグ経由でしたから。」
「南ってどの辺?」
ハイトが二人の話を聞いていたようで、二人の方に顔を向けた。
「ハレ村っていう、シワの森の南側です。」
「へぇ。ハレ村ってほぼ森の中じゃなかったけ?」
「そうですね、周りは木々に囲まれてましたね。というか、よく知ってますね。めちゃくちゃマイナーだと思いますけど。」
「確かに。全く知らんっス。」
ブラスが深く頷いた。ルークがその言葉に笑う。
「ブラス先輩はヤウグにある村も覚えてないでしょ。」
「リレ村なら覚えてるっス!」
「それブラス先輩の出身地じゃないすか。」
「バレたっスか。」
ブラスは「あちゃー」と言いながら頭に手をやり、ルークはそれを見て笑っていた。
「私もヴァルスタ出身だからね。私はリナリアだから北の方だけど、自分の州の地図ぐらいは覚えてるよ。軍校はテセントだったけど。」
「そうだったんですか?!」
「あれ?言ってなかったけ?」
「そもそもこの隊の人の出身地知らないです。ルーク先輩はこの前ザパードの海岸沿いって聞きましたけど。」
「俺はヤウグのリレ村っスよ!」
ブラスは自慢げに親指を自分に向けながら言った。
「軍校もですか?」
「そうっス!マルボルさんも同じっスよね!」
急に呼ばれたマルボルも話は聞いていたようで、黙って頷いた。
「軍校で言うと、この小隊で私と同じ軍校出身はメービスぐらいだよね。」
「そうですねー。」
メービスが頷く。
「あと軍校出身は、ラキぐらいか。ラキはザパードの軍校だよね?」
ラキはラダイとアリアと話しながら歩いており、ハイトの言葉にすぐに反応した。
「そだよー!」
「アリアさんとラダイ先輩とルーク先輩の三人は学園出身なんですね。」
「うん。まあ、軍に入っちゃえば何も関係なくなるけど。」
ブラスが何かを考えようとしたが、すぐにやめて口を開いた。
「そういえば、軍全体の軍校と学園の比率ってどのくらいなんスか?」
「全体だと九対一より低いぐらいだったはずだよ。学園出身の人たちは卒業後の進路が自由だから。」
ブラスはハイトの答えに首を傾げた。
「ルークはなんで軍人選んだんスか?」
「魔術の才能があったのと給料良いからですけど。」
ルークは当然と言いたげな表情で答えた。
「みんなそうじゃないですか?」
ルークがハイトの方を見る。
「俺は妹養わなきゃいけなかったからね。軍校なら給料出たし。」
「へぇ。キビヤちゃんは?」
キビヤは目を逸らしながら口を開いた。
「もちろん…、国の平和のために…。」
「嘘は良くないねぇ。」
ルークはニヤニヤしながらキビヤの顔を覗いた。キビヤは顔を伏せた。
「ルーク先輩と同じです…。」
「正直でよろしい。ブラス先輩はそーゆーの考えそうにないですよね?」
ブラスは腰に手を当てて胸を叩いた。
「実技のみで入れたっスから!」
「わーお…。マルボルさんは?」
「…、金だな。」
「ですよねー。」
話しながら歩いていると、ハイトが突然立ち止まった。
「あれは…。」
ハイトの視線の先には小物屋があり、メガネをかけた男が店先の商品を眺めていた。
ハイトはその男に駆け寄っていった。
「こんにちは、ロンくん。」
男はハイトに気づき振り返った。
「ハイトさん、お久しぶりですね。後ろはハイトさんの小隊ですか?」
「うん、任務に向かう途中。ロンくんは?」
「僕は王都への納品の帰りですよ。」
「一人は珍しいね。」
「ジーナちゃんは買い物してますよ。どこかで。」
「また迷ったのか。」
ハイトと親しげに話す様子を見て、アリアが近寄ってきた。
「ハイトさん、その方は?」
「アリアは面識なかったけ?」
「はじめましてだと思いますけど。」
「ロンくん学園行ってなかったけ?アリアの一つ下の学年だよね?」
「僕はアリア先輩のこと有名でしたので知ってますよ。僕も一組でしたけど、目立つタイプでもなかったですし。」
アリアは男の顔をじっと見てハッとした。
「もしかして、グロウリア家のロンくん?」
男は笑顔で頷いた。
「はい。今はヴィンク村で小さな薬屋をやってます。」
「そうなんだ。学年は違うけど、筆記成績不動の一位だったでしょ。噂はよく聞いてたよ。」
「兄さんたちが有名ですからね。」
「それもあるけど、成績優秀で表彰もされてたから見覚えあったんだよ。改めまして、魔術師団第六大隊ライブル小隊所属、アリア・ピアーモ十位です。」
「もう十位なんですか。流石ですね。」
「ハイトさんには負けるけどね。ロンくんも魔術士団から推薦来たんじゃないの?」
「来てませんよ。魔術を使うことに関しては才能がなかったので、知識だけはありますけど。」
「そうなんだ。」
「おっ、迎えが来たみたいだよ。」
ハイトの視線の先には、メイド服を来た女性がこちらに歩いてきていた。
「では僕はここで失礼しますね。任務頑張ってください。」
ロンは振り返り、女性の方へ駆け寄っていった。
「今の誰?」
突然、アリアの後ろからラキが顔を出した。ラキの後ろには他の六人も立っていた。
「ロン・グロウリア。薬屋の店主だよ。」
マルボルとメービスはその名前を聞き、納得した顔をしていた。
「あの人ですか。」
「有名人ですしね。」
ラダイとルークは思い出したように頷いていた。
「有名人なんですか?」
キビヤは知らないようで首を傾げた。ラキも首を傾げる。
「学園出身なら知らない人の方が珍しいですよ。よく表彰されてましたから、名前だけなら尚更です。」
「なんで薬屋さんと知り合いなの?ハイトさん常備薬必要だったけ?」
ラキがハイトの方を見る。
「どちらかと言うと、ロンくんのお兄さんたちと知り合いって感じかな。ロンくん自体も魔術士団にたまに薬卸してくれてるけど、それは第四大隊との契約だしね。」
ラキは納得したような疑問が残ったような微妙な表情をしていた。
そんなキビヤを無視するかのように、ハイトは歩き出し、他も着いて行った。
考えているキビヤを見て、ルークが口を開く。
「というか、下のお兄さんの方はキビヤちゃんも会ったことあるよ?」
キビヤは考えたがわからなかった。キビヤには、グロウリア姓の人物とあった記憶がない。
キビヤは首を傾げた。
「どこでですか?」
「王立研究所。」
「…もしかして、セード・カミラー副所長ですか?」
「うん。姓は違うけど、セードさんの旧姓はグロウリアだよ。」
「へえ。だから有名なんですね。」
「それだけじゃないけど、セードさんも有名人だしね。」
「若くて副所長ですもんね。ロンさんも戦闘が苦手とういうか、嫌いなんですか?」
「そうだね、それもあるだろうね。」
ルークの含みのある言い方に、キビヤは気づいていたが、他人のことにこれ以上深く突っ込むのは悪いと思い、やめた。
「まあ、好きな人はあんまいないでしょ。」
ルークの言葉にキビヤは笑った。
「ですね。」
いかがだったでしょうか。
コメントや評価、お待ちしております。
批判や誹謗中傷は怖いので、なるべく優しい言葉でお願いします。
誤字脱字がありましたら、優しい言葉で教えていただけると素直に感謝します。
次回の投稿は8月4日(日曜日)の21時30分(午後9時30分)の予定です。
ストックはなくなりましたが、今度こそ頑張りますので、ほんと、はい。
予定が変わった場合はX(旧Twitter)で告知しますので。フォローお願いします。
どうぞお楽しみに。