十四話. 素材と製造方法
ライブル小隊のハイト、ラキ、キビヤの三人は第三大隊の隊舎に来ていた。
三人は入口入ってすぐの受付に行った。受付には生成色の短髪の若い女性がいた。女性は笑顔で口を開いた。
「こんにちは、こちらは第三大隊隊舎受付です。本日はどのようなご要件でしょうか。」
ハイトは一歩前に出た。
「第六大隊のハイト・ライブルです。クルト・ピンカーク七位に用があって来ました。」
「ライブル三位ですね、クルトさんから聞いております。ピンカーク七位は地下のラボにいます。ただいま迎えの者が来ますので、少しお待ちください。」
「はい。」
女性は落書きのようなものが描かれた平たい石を取り出し、石に指を置いた。
「こちら受付。クルトさん、応答願います。」
女性が石に向かって呼びかけると、石が光った。
「こちらクルト。どうした?」
「お客様が来ております。第六大隊、ハイト・ライブル様です。」
「わかった。場所と人数は?」
「受付前、三名です。」
「ちょっと待ってな。」
「はい。」
女性が指を離すと、石の光は消えた。
「その場で少々お待ちください。」
女性は笑いかけるように三人に言った。
「二人とも、動かないでね。」
「はーい。」
「はい…?」
ハイトの言葉に、ラキは元気に返事をし、キビヤは返事をしつつも、その真意が分からない様子であった。
「では、いってらっしゃいませ。」
女性が突然三人に手を振った。その瞬間、三人の身体が浮いた。
「え?!」
キビヤは何が起きたか分からず混乱したが、ラキは何故か楽しそうにしており、ハイトは表情を変えなかった。
次の瞬間、突然、無機質な壁が目の前に現れ、キビヤの身体は落ちた。
「あたっ!?」
キビヤは受身を取りつつ、転がった。ハイトとラキは上手くバランスを取って着地した。
ハイトが後ろへ振り返る。
「向き間違ってない?」
「わりー、わざとだ。」
「だろうね。」
キビヤが起き上がりながら後ろを見ると、そこにはガラス張りの部屋があり、その手前の机の椅子には桃色短髪で眼鏡をかけた男が座ってこちらに身体を向けていた。
「久しぶりだな、ハイトさん。」
「久しぶりだね、クルト。」
男はラキとキビヤに目を向けた。
「二人ははじめましてだな。」
ラキとキビヤは揃って敬礼をした。
「ラキ・スラート、下位魔術士です。」
「キビヤ・ウィンスル、同じく下位魔術士であります。」
「俺はクルト・ピンカークだ。」
クルトの横にはルークが立っていた。
「あれ?二人も連れてきたんすか?」
ハイトが頷く。
「隊室で暇そうにしてたからね。それよりも解析は進んだ?」
「進んだぜ。」
ハイトの言葉にクルトが頷いた。ラキが首を傾げる。
「解析って?何の?」
ラキはキビヤの方を見たが、キビヤもわからず、ハイトの方を見た。
二人の様子を見てクルトはため息をついた。
「何の説明もしてないのかよ、ハイトさんよ。」
「着いてから説明するつもりだったからね。」
ハイトは二人の方に顔を向けた。
「この前盗賊捕まえたよね?その時に盗賊たちが面白い紙を持ってたんだよ。」
ラキは思い出したようで、頷きながら口を開いた。
「あれかー!」
「どれ?」
キビヤは何もわからず首を傾げた。
「これだよ。」
ルークは一枚の紙を机の上から取り、二人に見せた。そこには術式が描かれていた。
「それは、魔力弾の術式ですよね…?紙だと発動しても使い物にならないレベルですよね?」
キビヤの言葉にクルトが頷く。
「そう。ただの紙だったら発動したとしても、息を吹きかけられたレベルのダメージしか与えられない。そして、そもそも発動せずに、紙が発動の負荷に耐えきれずに消えることの方が多い。が、この紙は普通に使えるレベルで発動ができる。術式によっては別の攻撃系の魔術もな。」
「そんな紙があるんですね。」
キビヤは驚きつつも感心していた。
「俺も驚いた。」
キビヤの言葉にクルトは頷いた。
「別の攻撃系の魔術も発動できるの?」
ハイトはクルトの最後の言葉が引っかかったようで、クルトの方を見た。
「回収した中に無地の紙もあったから、そのうちの何枚か使って実験したからな。」
「確かに何枚かは無地だったけ。それで、素材は?」
「紙のように見えるが、大部分は魔力でできてるっぽいな。簡単に言うと魔編機を実体化させたようなものだ。だからやろうと思えばほとんどの魔術を使える。ただ、その発動範囲は紙の大きさによる。例えば、封印系の魔術を使おうとするなら、封印する相手と同等以上の大きさの紙が必要になる。魔力密度は発動者によるから、俺やハイトさんが使えば強力な魔術も使える。」
「随分便利だな。製造方法は?」
ハイトは頷きながら気になっていたことを聞いた。
「製造方法はまだ解析中だ。」
ラキが首を傾げた。
「素材わかってるなら作れないの?」
「そんな簡単な話じゃねーよ。ただ分解しても魔素として分散するだけだ。魔力を紙としても魔編機としても使えるようにしてある。どういう構成で魔力が構成してあるかが分からねーと、製造なんて不可能だ。」
「ふーん、そうなんだ。」
キレ気味に返したクルトに、ラキは納得したように頷いた。
「軍で使える可能性は?」
「実践じゃまず無理だろうな。一枚一枚に直接魔力を流し込むのと、魔術使いが魔編機を使って魔術を発動するのを比べると、紙の方が遅い。普通の部隊の武器の一つとしては有効かもしんねーが、主力として使うには効率が悪い。一枚に一つの術式が限界だから、単純な術式なら発動はできるが、凝った術式は無理だ。脅しとしては有効的だが、戦闘では使う前に殺られるのがオチだろうな。」
「便利だが、使い勝手は良くないのか。なるほど。使い方次第では軍でも運用は可能か。」
「ま、そーゆーことだな。だが、製造方法が分からないうちはどちらにせよ不可能だな。」
「はい!」
ラキが突然手を挙げた。ハイトはラキの方に目をやった。
「どうした?」
「魔編機って外に出せるものなの?」
クルトは一瞬驚いた顔をしたあと、吹き出すように笑った。
「それは無理だろうよ。」
「なんで?」
クルトの言葉にラキは首を傾げていた。
「じゃあ、やったことあるのかよ。」
「ないけど…。頑張ったら出来そうじゃない?」
「無理だ。理論上は不可能ではないが、魔編機を出すってことは死ぬことと同意だ。」
キビヤはクルトの言葉に驚いた。
「死ぬんですか?!」
「やったことはねーが、考えたことはある。が、魔編機は生命エネルギー、つまりは命と繋がっているものだ。だから体外発動よりも早く、イメージでの発動に近い。魔編機を出すってことはそいつの命の一部を切り取る作業になる。命は繊細で、一部が欠けた場合、良くて障害が残り、大体は死ぬ。実験したことは無いから実際のところはわからねーが、理論上はそうなるはずだぜ。」
ハイトはクルトの言葉に少し考え、苦笑いを浮かべた。
「それって…、もしかして今のところ一番可能性高いのって…。」
ハイトの言葉にクルトは頷いた。
「そーゆーこった。流石の俺様もこの実験はしたくねーな。」
「だよね。」
ラキとキビヤは何のことかわからずに混乱していた。
「流石にそれはちょっと、なぁ。本当にそれ以外に可能性高いのないの?」
ハイトは頭を抱えながら、ルークの方を見た。
「他の可能性はどれも低いですね。それ以外を探してはいますけど、それの可能性が高いことを示す証拠にしかなっていない状況です。」
「オケルさんはこのこと知ってる?」
「あぁ。隊長にもさっき話した。団長に相談しに行くって言ってたぜ。」
「そうなるよね。とりあえずは団長たちの判断に任せるしかないけど…。」
「ねぇねぇ!さっきから何のこと話してるの?!」
ラキの不満げな声が部屋に響いた。
キビヤもハイトたちが何を話しているかわかっていなかったが、それを堂々と聞くラキに、驚きを隠せなかった。
「この紙の製造には命が必要な可能性が高いって話だ。」
クルトはあっさりと答えた。
クルトの答えにラキとキビヤは驚いた。
「まだ可能性の話だが、箝口令は敷かれるだろうよ。」
「だね。」
クルトの言葉にハイトは頷いた。
「ヴィスコからの情報が頼りになるなぁ。あとは逃げたやつだけど、見つからないしねぇ。」
「何故逃がしたんだ?」
キビヤは目を伏せながら口を開いた。
「すみません、僕が弱いせいで…。」
「どーゆーことだ?」
申し訳なさそうにするキビヤに、クルトは不思議そうにハイトの方を見た。
「キビヤのせいじゃないよ。ヴィスコが逃がしたんだよ。なるべく二人で行動するように言ったのは私だし。」
「そりゃそうだな。ヴィスコが花狂薬使ったって考えれば、その逃げたやつも持ってる可能性はあるだろ。ヴィスコと行動してるやつが弱いことはねーだろうしな。」
「そういえば、花狂薬はどうなったの?」
ラキが首を傾げた。
「花狂薬は第七師団が研究所に回したよ。一部はこっちが貰ったけど、今まで見つかってるやつとほぼ同じ。」
ルークが答えた。
「今は確か、第四大隊が保管してるはずだよ。」
「なんで第四大隊なの?」
「良くも悪くも薬だからね。」
「ふーん?」
ラキは納得がいってないように頷いた。
「解析続けるからそろそろ相手してらんねーぞ?」
クルトの言葉にハイトが頷いた。
「わかった。頼むよ、クルト、ルーク。」
「はいよ。」
「はい。」
いかがだったでしょうか。
コメントや評価、お待ちしております。
批判や誹謗中傷は怖いので、なるべく優しい言葉でお願いします。
誤字脱字がありましたら、優しい言葉で教えていただけると素直に感謝します。
次回の投稿は7月13日(土曜日)の21時40分(午後9時40分)の予定です。
予定が変わった場合はX(旧Twitter)で告知しますので。フォローお願いします。
【7月14日追記】
更新日忘れておりました。本日(7月14日)21時40分に十五話更新します。
どうぞお楽しみに。




