十三話. 雑草も頑張る
盗賊討伐から数日後、キビヤとラキは小隊室で暇していた。
「暇だねー。」
「ですねー。」
この日、アリア、マルボル、ラダイ、メービスの四人は任務のため出動していた。ルークは出掛けており、ブラスは訓練室に行っていた。
「そういえばラダイさん大丈夫なの?普通に任務行ったけど。」
「怪我って言っても僕と違って火傷ぐらいだったんで、翌日にはピンピンしてましたよ。僕はルーク先輩とラダイ先輩に治癒してもらったんで平気でしたけど。」
「キビくん見事にやられてたもんねぇ。そんなに強かったの?」
「強かったですよ。僕が舐めてたのもあるかもしれないですけど、一般人、と言っても盗賊のリーダーですけど。一般の人が体内発動型の魔術を普通に使うのに驚きましたし。」
「まあ私達も軍校入る前はその立場だったし。」
「僕あんなスピードで書けませんでしたよ?今も遅いですけど。」
「それは慣れでしょ。魔編機の安定具合にもよるし。それに、水系統の魔術だったらキビくんもそこそこ速いよね?」
「まあ唯一得意ですし。それすら遅かったらヤバくないですか?」
「やばいね〜。てかヴィスコはそんな速かったの?」
「発動までの時間はたぶん僕より速かったです。あとは特に、判断の速さですね。」
「判断の速さかー、それは経験値だろうねー。私も戦いたかったなぁ。」
「ラキ先輩とハイトさんのところは派手にやったんじゃないですか?」
「人数は多かったけど、みんなよくわかんない紙使ってくるだけで、つまんなかったもん。」
「つまんなかったって…。」
キビヤはラキの言葉に苦笑いするしかなかった。
「おつかれー。あれ?二人だけ?」
ハイトが部屋に入ってきた。
「おつかれーさまでーす。」
「おつかれさまです。」
ラキは片手を上げて答え、キビヤは急いで立ち上がって敬礼をして答えた。
「キビヤは真面目だねぇ。ラキはせめてこっち見ようね。」
「どこ行ってたんですかー?」
ラキはハイトに顔を向けながら言った。
「高位の会議だよ。」
「アリアさんは任務行ってるよー?」
「アリア以外にもクロークさんとスロイも別件で欠席だったよ。全員揃うことの方が珍しいしね。私も欠席することあるし。ところで二人とも暇だよね?」
「暇でーす。」
「はい。」
二人は頷いた。
「よし。じゃあ少し出掛けよう。」
「どこ行くんですか?」
キビヤは立ち上がりながらハイトに聞いた。
「第三大隊の隊舎だよ。」
「第三大隊って、スタンワールさんのところだっけ?この前会った。」
ラキは思い出しつつ言った。
「この前?」
ハイトが首を傾げる。
「この前の任務の前に会ったんですよ。朝、隊舎前四人でハイトさんを待っている時に。」
「あー…確かに私も会ったけ。眠かったから雑に挨拶したけど。そっか、あれはオケルさんたちだったのか。」
キビヤの言葉にハイトは納得したように頷き、キビヤはハイトの言葉に驚いていた。
「寝ぼけてたんですか?!」
「うん。なんならキビヤが部屋に着くまで寝てた。でもまあ、小隊を任されてる立場だし。私があからさまに寝ぼけてたらダメでしょ。」
「確かに全くわかんなかったです。ラキ先輩気づきました?」
「ぜんぜーん。てか、なんで第三大隊?」
「それは行ってからのお楽しみだね。」
三人は第六大隊隊舎を後にし、第三大隊隊舎へと向かった。
三人が歩いていると、植え込みで座り込む銀の羽織を着た長めの紫髪の男がいた。
「あの羽織って…。」
「うん、隊長だね。確か…。」
キビヤの言葉にラキが頷く。
ハイトは男に近づき、敬礼をした。ラキとキビヤもそれに倣う。
「お疲れ様です、スノレジア隊長。」
ハイトの声に反応し、男は植え込みからハイトたちの方に顔を向けた。長い前髪から覗く目がハイトを捉えていた。
「おつかれー。部下連れて徘徊?」
「第三大隊の隊舎に行くところです。」
「オケルさんのとこかー、なんか忙しうにしとるのは知っとるけど。」
「スノレジア隊長は何していたんですか?」
「見てみ。」
男は植え込みを指さした。ハイトは首を傾げながら植え込みを覗いた。
「植え込みですね。」
「雑草生えとるやろ?」
「そうですね。」
「この雑草も頑張っとるんやなーって思ってな。見とった。」
「そうですか。」
ハイトは少し困ったような顔をしていた。その顔を見て男は笑った。
「ま、それだけや。君らははじめましてやな。」
男はラキとキビヤの方に目を向けた。
「ラキ・スラート、下位魔術士であります。私は一方的に知っております。」
「キビヤ・ウィンスル、同じく下位魔術士であります。僕も同じく知っております。」
「よろしく。僕はロクレーン・スノレジア。第五大隊の隊長や、て言ってもこれ見たらわかるやろうけど。」
ロクレーンは羽織を見せるように言った。
「ラキちゃんにキビヤくんやな。覚えとくわ。ほな。」
ロクレーンはゆっくりと立ち上がり、手を振りながら歩いていった。三人はそれを敬礼して見送る。
「スノレジア隊長は相変わらずよくわかんない人だよねー。」
「僕は話しているところ初めて見ましたけど、のんびりとした人ですね。」
ラキとキビヤの言葉にハイトが頷く。
「そうだね。私もよくわかんないよ。でもオケルさんと同じ、天才の一人なのは確かだよ。」
「天才?それってハイトさんやルーク先輩もそうじゃないの?」
ラキの言葉にキビヤも「確かに」と頷いていた。
「私は違うよ。」
ハイトは笑顔で首を振った。
「でも、ルークはそうかもね。」
三人が話しながら歩いていると、目の前から必死の形相で走ってくる男がいた。
「あれは…。」
男はハイトたちの前で止まった。ハイトが敬礼をし、二人もそれに倣った。
「お疲れ様です、ヒョルマン副隊長。どうしたんですか?そんなに慌てて。」
「はぁはぁ、おつかれ様です、ハイト先輩。というか、他人行儀やめてくださいよ。」
「今はヒョルマン副隊長の方が階級上ですからねぇ。」
「やめてくださいよそれ。寂しいじゃないですかー。」
「男に言われても嬉しくないなー。」
「そーゆー問題ですか?!もう少し後輩に優しくしても良いんじゃないですかね。」
男は不満げにハイトを見るが、ハイトは何も気にしない素振りで口を開いた。
「で、どうしたの?」
「あー、そうだった。うちの隊長見ました?会議の時間なのに隊舎に居なくて。」
「スノレジア隊長なら、さっきまで植え込み見てたけど。向こうに歩いていったよ。」
「あーもう!ありがとうございます!ではっ!」
男は敬礼をしてすぐに、ハイトの指さした方へ走っていった。
「第五大隊は大変そうだね。」
「今のは、ヘラック・ヒョルマン副隊長だよね?」
ラキが不思議そうに言った。
「そうだよ。」
「ハイトさんの後輩なの?」
「そうだよ。彼の方が階級は上だけど、軍校時代の後輩だよ。同じ隊に所属したことはないけど、見かけたらいつも声掛けてくれる良いやつだよ。」
「ハイトさんは副隊長にならなかったの?」
「まぁ別の隊の話だし。副隊長はその隊の隊長の推薦がなきゃなれないしね。大体はその隊から選ばれるよ。」
「へぇ。じゃあハイトさんの方が強いのか。」
「いや、どうかな。一対一なら勝てるかもしれないけど、ヘラックの得意分野は複数を相手取ることだから。」
「複数を?それって、一対一でも強くない?」
「うーん、まぁ実際一対一でも強いけど。撹乱するのが上手いんだよ。例えば、意図的に相手を互いに攻撃させたりとか、相手の射線上に相手を置き続けるとか。」
「個ではなく、全で捉えるってことですか?」
キビヤは確かめるように聞いた。ハイトが頷く。
「そういうこと。」
「それって普通じゃないの?」
不思議そうに首を傾げるラキを見て、ハイトは少し笑った。
「確かに普通だね。でもそれが難しいんだよ。人数が多ければ多いほど、全を見るのが難しくなる。反射で反応するにしても、人数が多ければ手数が足りなくなる。全を見ようとすれば、反射も遅くなる。でも個を見続ければ見てない方向から殺られる。その中で冷静に全を見て、効率的に敵を減らす。意識してみると、難しいもんだよ。」
「へぇ。」
ラキは納得したように頷いたが、思い出したように口を開く。
「なんでスノレジア隊長見失ってたの?」
「副隊長は補佐であって、監視じゃないからね。それに、スノレジア隊長もわかってて出歩いてるんじゃなくて、たぶん忘れてるだけだろうし。」
「なるほど。」
「さて、着いたよ。」
三人の目の前には、第六大隊と同じ形の、「第三大隊」と書かれた看板がついた隊舎が建っていた。
「見た目は変わらないんですね。」
キビヤは物珍しそうに隊舎を眺めていた。
「キビヤは他の隊舎初めてだっけ?」
「はい。」
「そうか。外見と構造は大体同じだけど、中身はだいぶ違うよ。特にここはね。」
「確かにー。」
三人は隊舎の中へと入っていった。
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