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第8話

第8話


 そして迎える月曜日。


「おハロ~、ヨリタカ」


 登校早々に家白から挨拶された。なんちゃってギャルの芸風で身を包んだ彼女は、俺の机に腰掛け作り笑顔でヒラヒラと手を振る。


「な、なんだよ家白。もう俺の仕事は済んだはずだ」


 まずは着席した俺の前から尻をどけろ。


「そのハズだったんだケドねぇー。まぁ、なんだかんだでヨリタカは今日からナユ達のマネージャーに決まったから」

「唐突すぎる上、その「なんだかんだ」が重要だろ!」

「だから昨日「ゴメン」って先に謝ったじゃんかぁ」


 寝耳に水の急展開。


「マネージャー? 何の話だかさっぱ……」


 ん? そう言えば今度アイドルデビューするとかなんとか聞いた気がする。いや、だがそんなベタな展開あるわけないか。


「お? さすがヨリタカ、良くも悪くもオタク脳で理解しちゃいましたかにゃぁ?」


 あるのか? ベタな展開。


「ま、詳しいコトは放課後サーキュラーカーストで」


 チャイムと同時に俺の机から降り自分の席に着く家白。佐倉さんに聞けって事か。もう少し話を聞きたかったが仕方ない。今は学業に集中だ。

 が。その集中はものの数分で崩れることになる。


「今日からこのクラスの仲間となる転校生のレイカ・ルゥさんだ」


 サプライズがすぎる!


「レイカ・ルゥです。よろしくお願いします」


 担任に促された壇上には、超よそ行きの清楚クールなレイカがいた。

 呆然とする俺と、事情を知っているであろう家白を除いたクラスメイトは、突然の美少女登場にザワめく。初対面なら俺も間違いなくその一員だったろう。

 彼女の美貌を羨む女子達からはタメ息の嵐、見た目に騙されて浮かれる男子どもからは下心溢れた視線に晒されているが、当のレイカは無表情で瞬きするだけだった。


「みんな落ち着けー。えっと、家白の知り合いだったよな。席はしばらく彼女の隣りで。家白、サポートを頼む」

「はぁ~い」


 一限が終わり休み時間になると、三列向こうの席ではレイカを中心に人だかりができ、転校生イベントのセオリーに沿って質問責めが始まっていた。

 その人気ぶりをぼんやり見ていると、一分もたたずに家白が疎ましさ全開で抜けだし、定位置のように俺の机に腰掛ける。


「おい、ヤツが転校してくるなんて聞いてないぞ」

「だから昨日ゴメンって! 何度も言わせんなし」

「どのサプライズに対してか多すぎて絞り込めねぇよ! ナナメ上の痴女から常時狙われる俺の身にもなってみろ」


 おちおちトイレにも行けやしない。


「あの子、意外と行動力あったのよ。いつの間にか佐倉さんと話しつけて、気がついたら入学工作も完了していてね。ポーカーフェイスに騙されたわ」

「だからって予防線としての『ゴメン』が万能だと思うなよ!?」


 ギャルモードを解いた家白が周囲を気にしながら小声で囁く。近すぎない距離からでも纏わり付くようなウィスパーボイスはサキュバスのなせる業だろうか。


「えーっ!! それ本当なの? レイカちゃん!」


 意識が鷲づかみされるかと思った瞬間、教室内に響き渡る驚きに満ちたクラスメート達の声が上がり、家白は弾かれるように俺から身を反らす。

 何事かと声の方を見れば、複雑な感情がこもった級友全員の視線が俺に向けられていた。


「そう。私はあのヨリ太にメロメロ」


 家白とヒソヒソ話をしている間に転校生イベントは着実に進行していたようで、さながらソレは主人公が理不尽に嫉妬されるクライマックスの導入シーンのようだった。結果から言えば、これを機に俺の学校生活は一変することとなる。


「おい、レイカ! 何言ってんだ」

「間違えた。ヨリ太のウン――むぐぅ」


 コイツやべぇ! ホント、何言ってんの?

 人だかりを掻き分け、周囲のザワめきを他所にレイカの口を押さえてしゃがみ込み、小声で説教する。


「自由がすぎる! 発言はもっとオブラートに包め」

「わかった。まかせて」

「頼むぞ、本当」


 時間にして数秒の拘束を解き、真意を待つ級友たちへ向き直すレイカ。


「ヨリ太の「硬くて」「太い」モノにもうゾッコン」

「オブラートも敵にまわってんじゃねーか!」


 やや頬を赤らめながら淡々と紡ぐその発言は級友全員を凍らすに充分だった。

 おそらく俺と家白以外、クラスメイトの頭には「ウンコ」と一文字違いのモノが浮かんでいるんだろうな。くそぅ。


「ヨリタカはともかく、どっちに転んでもあの子のイメージ最悪じゃんよ」


 いつの間にか隣にいたギャルモードの家白の言うとおり、このままだとレイカのレッテルは「特殊性癖の痴女」か「清楚ビッチ」あたりだろう。

 そして俺へのイメージは「変態プレイ上級者」か「淫キャな竿師」ってところか。

 この精神的に「とても悪い」と「悪い」しかない二択、どちらを訂正しても好転しない状況ならば、俺のためにも涙を呑んでレイカには清楚ビッチと誤認されたままにしてもらおう。

 その後、ラブコメにありがちな「なんでお前がこんな美少女と」とかいったお決まりの優越感にひたれる罵声などは無く、なんなら本来の意味での罵声を直球で浴びた俺だった。


「ヨリタカ、どんまい」

「ヨリ太、元気出す。ついでにウンコも」

「怒る気力もねぇ……」


 二限の休み以降は、あれだけ集まっていたクラスメイトも腫れ物にさわるかのごとくレイカを遠巻きにチラチラヒソヒソとするにとどまった。というより、二限以降はレイカが俺にベッタリっだたからで。


「変に突っ込まれてボロが出るよりはいいか……」

「ヨリ太はボロよりも私のために出すものがある」


 相変わらずの守備力だな、おい。


「聞いた? 彼、なにを突っ込む気なのかしら、人は見かけによらないわねヒソヒソ」


 聞き間違いにもほどがある。


「レイカちゃんスゲェ肉食だったんだな。オレ達にもワンチャンあるかもヒソヒソ」


 肉食ってより悪食だがな。

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