第7話
第7話
「その無駄に優秀な守備力なんなの? 別のところで活かせよ」
なんでもかんでも下ワード拾いやがって。
「こんな偏った下ネタしか頭にないけど、サーキュラーカーストの表の仕事ではトップなのよ」
あー、また知らない情報出てきた。
「表の仕事?」
「ナユはモデル、レイカは地下アイドルだったの」
「ア、アイドル!? レイカが?」
裏返った声で二度見してしまう俺。確かに見た目だけなら超一級美少女だけども。
「キャッチコピーは『ウンコするアイドル』」
「お前にピッタリじゃねーか!」
そのドヤ顔、どんな気持ちでしてんの? ねぇ? アイドル台無しだろ。
「逆転の発想よね。さすが佐倉さんだわ。あ、ちなみにサーキュラーカーストはサキュバスが人間界で活動するための隠れ蓑なの」
ネタバレでお腹いっぱいです。佐倉さんもサキュバスでしたと言われても驚かないよ。あの妖艶さなら納得ですもん。
「お前らの事務所の社長だし、タレントをよく見ているって意味では見すぎているよな」
見すぎちゃって変な方向へ舵切っちゃってるけども。
「キャッチコピーで『ウンコするアイドル』って謳ってるのに、レイカってばこの見た目でしょ? 斬新・革新の『ウンコする派』と見た目清純系レイカに幻想もってる『ウンコしない派』で真っ二つに分かれちゃって、派閥同士が乱闘騒ぎ。流血沙汰になって今は活動停止中なのよ」
磐石な引き篭もり要素がここにも! 正統に清楚路線で行くって発想はなかったのだろうか。そしてドルオタ怖えぇ……
それから小一時間。
「じゃあ答え合わせだ」
駆け足だったが、ふんわりと状況が見えてきた。このマンガみたいな茶番劇は。
■家白もレイカも本物のサキュバス
■二人が所属している芸能事務所『サーキュラーカースト』はサキュバス達の活動拠点
■『サキュワングランプリ』で優勝すると、サキュバス界の女王になれる
■家白の対戦相手はレイカ
俺はくだらない理由で引き篭もっていたレイカを引きずり出せと家白に頼まれ事務所に向かうも、レイカのフェロモン(本屋に行くとなるアレ)にあてられ一ヶ月ぶりの宿便を出すが、それがレイカを釣る文字通りの餌となってしまい今に至る。
「そんな感じね。昨日ヨリタカが逃げたあと、レイカにアンタの住所しつこく聞かれてさぁ」
「教えちゃったんだな」
「教えちゃったー。でも今朝方までがんばったのよ? その努力は買ってよね」
で、この時間か。案外粘ってはくれたようだけど……
「心配で見に来たのか。ありがとな」
「それもあるけどねー。ぶっちゃけ『住所教えてくれたら何でも言う事聞く』ってレイカが」
レイカと真正面から勝負したい家白からすれば好条件だったのだろう。
「負い目からかよ。俺の労い返せ」
「まぁまぁ、レイカが暴走したらナユが抑えるから」
したらでなく、暴走する「前」になんとかしてくれ。
「でもこれで俺は解放されるんだよな?」
あとはお前達の問題だ。とっととレイカを連れ帰って勝負でもなんでも好きにすればいいさ。
「レイカは連れて帰るけどぉ……ナユにも出来ることと出来ないことがあるからねぇー」
「どういう事だよ?」
「ゴメンとだけ言っておくわ。じゃねヨリタカ。ほら、レイカ行くわよ。何でも言う事聞くって言ったのアンタでしょ」
「ヨリ太。また来る」
「いや、全力で追い返すよ!?」
家白に襟首を掴まれ「ヒ」の字でズルズルと引き摺られたまま部屋を出るレイカ。よそ行きの顔で俺の両親に挨拶した家白は、色々と説明不足のままそそくさとレイカを連れていってしまった。
静けさが戻った早朝の大森家では、その後土日に渡って二人の美少女について家族会議が開かれることになった。