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第6話

第6話


「ハイハイ、二人ともそこまでっ!」


 ドアを開け、膠着状態を打ち破りに現れたのは。


「や、家白!?」

「オハロ~」


 輝くアイドルスマイルの横で小さく手を振るギャル。レイカもそうだが、家白も休日なのに制服姿だ。


「ん~ヨリタカぁ。『なんで家白が』ってカオしてんねぇ~。分かりやすっ」


 自室であるかのようにズカズカと入り、ベッドへ腰をおろし、俺の視線も気にすることなく魅惑の脚を組むマイペース家白。


「アンタのためにナユが全て説明してやんよ。レイカじゃなに言ってるか理解できないでしょ?」


 二人とも昨日今日の付き合いしか無いが、俺からすれば的を射る率は家白もレイカとどっこいな気がする。

 勝ち誇った顔で伸ばした両腕を後方に沈ませ、こちらもレイカとどっこいの双丘を突き出す姿勢になっていた。そのレイカを見れば、露骨にイヤな顔をして可愛く右頬を膨らましている。クールなのか感情表現が乏しいのかと思っていたが、こんな表情もできるんだな。


「まてまて家白。聞きたい事は山ほどあるけど、その前にどこ座ってる?」


 せっかく裏返したってのに!


「は? うんしょと。結構いいテンピュールじゃない。フランス製ねっ」


 デジャブがすごい。たぶんデンマークだよ。で、お前も挟む派なのか。


「なによ? ナユが座った枕なら、もはやこの枕カバーは聖骸布と言っても過言ではないのよ?」

「過言だよ! 聖骸布に謝れ」

「ナユぅ、サキュバスだからわかんな~い」

「なにレイカみたいなこと言ってんだ」

「この子正体ばらしちゃったんでしょ。ならナユもお芝居する必要ないしね~。二つの意味で素に戻らせてもらうわ」


 そう言ってベッドから立ち上がる家白。そっと目を閉じ、両手を胸元で組む。

 そして発光からサキュバスコスの家白。またもデジャブがすごい!

 目の前にサキュバスコスが二人……ってか本物なんだけど、家白は似合いすぎてるなぁ。で、なんだこの壮観さ!

 見上げる先に四つの山脈。右に家白山、左にレイカ山だ。谷間の稜線から、無表情でクールな月と小悪魔的笑顔がまぶしい太陽が覗いていた。 


「俺、そんな金払えねぇよ?」

「ほんの数ミリリットルでいいわよ」

「私は数百グラムでいい」


 想定外の単位出てきちゃった。


「ま、冗談はこれくらいにして本題よ。ほら、レイカも人間態に戻りなさい」


 二人とも見慣れた制服姿になり座り直す。なんか家白からはバカっぽさが抜けた感じだ。こっちが素なのかな? ふたつの意味って言ってたし。


「サキュワングランプリってのがあってね。ウチら出場者なのよ」


 バカっぽさは抜けても、やっぱり的を射てないなぁ。


「いろいろ飛ばしすぎだ。さっぱりです」

「ん~、ざっくり言うとサキュバス界の『次期女王決定戦』みたいな感じ?」


 片目を閉じ、無言で「ここまでOK?」と聞いてくる家白にウンウンとうなずく。俺的にはなんでレイカと家白が俺の家を知っているのかとか知りたいんだけど、深く考えたら負けなんだろうな。


「で、ナユの対戦相手がレイカなの」


 左手で頬杖をつき、右手でレイカの頬をつつく家白。なすがまま揺れるレイカは無表情の中にやる気の無さが見える。


「でぇ、レイカは上位ランカーのクセに無関心で引き篭もってたのね。ナユは必死でがんばってんのに!」


 つつく指に力がこもっているようで、レイカのサラサラ銀髪が扇を展開していた。


「なにをがんばってんだか知らないけど、コイツが引き篭もったままだったら、家白の不戦勝じゃないのか?」

「バカ言わないで、そんな勝ち嬉しくないわよ! 正々堂々と上位ランカーと勝負して打ち負かさないとナユのプライドが許さないわ」


 軽そうに見えて熱い奴なんだな。


「んっ、ナユのこと熱血でうざいとか思ったでしょ?」


 テーブルを挟んで「バカにすんなし」オーラ全開な家白のちいさな顔が俺の鼻先数センチまでツイと迫る。


「い、いや見直したよ。まっすぐで良いと思う」

「なっ、ちょ……」


 丸くした目を長いまつ毛が数回上下した後、恥ずかしそうに身を引く家白。


「正直、もっと奔放(マイルド表現)な子だと勘違いしてた」

「そ、それでいいのよ。学校じゃ演技してんだから。おバカキャラの方が隙があって男受けするしね」


 ツンデレキャラ王道のごとく、腕を組みやや頬を染め「ふんっ」とそっぽを向く家白はプライドも計算も高い女の子だった。なんか素の方が話しやすいなぁ。


「単に後腐れ無くレイカを引きずり出してくれると思ってアンタを選んだハズだったんだけどねぇ。こんなに食い付きいいなんて予定外だったわ。地雷原に放り込んで悪かったわね」

「たぶん俺、その地雷一歩ごとに踏んでるぞ?」


 ケロッとした顔で俺達を交互に見るレイカ。お前の地雷、特殊すぎんだよ。


「だから悪かったって。全部踏んじゃえば安全地帯になるわよ、たぶん」


 そんな無責任な。


「そういえば、レイカが引き篭もってた理由って結局なんだったんだ?」


 当事者のくせに自覚が無さそうなレイカに向き直す。こうなったら洗いざらい吐いてもらおう。


「便意に悶々として眠る人間がいなかったから」


 聞いたところによると、人間界デビューしてから勝率はゼロだそうで。


「そりゃ普通は悶々となる前にトイレに行くからな。ウンコ我慢して寝る奴なんてそうそういないだろうよ」


 だからその『意外』って顔……もういいや。


「この子、夢の中へ入るたび人間に下痢の魔法かけてたらしいのよ。突然の便意に対象が覚醒して夢からはじき出されちゃ世話ないわよね」

「静かに寝かせてやれよ! 勝率ゼロはお前の自責点じゃねーか!」

「ゲリラ便意。下痢だけに」

「なぁ、もうコイツ殴っていいか?」


 そのドヤ顔をやめろ、うまくねぇよ。

 結局、レイカの引き篭もり理由は、ニッチすぎるサキュバスとして誰にも受け入れてもらえず、やる気を無くしたからってつまらないオチだった。自業自得だけど。


「家白。こんなヤツが上位ランカーなのはなんでだ? 『くだらない』理由で引き篭もってたのに」

「便意だけに」


 女の子だけど殴った。

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