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第12話

シーズン1、最終回です。

第12話


「どうしたの? タカくん」


 憧れの頼子先輩が心配そうに俺の顔を覗き込む。


「悩み事なら相談に乗るよ?」

「ありがとうございます」


 申し出はとても嬉しいけど、先輩を巻き込む訳にはいかない。いかないが、先輩とお話したいし、俺も切羽詰まった状態で打開策の一端でも欲しい現状だ。


「……例えばですよ? 逃げ場のない所で凶器を持ったストーカーと対峙したらどう切り抜けますか?」

「んー? タカくんとは通じ合ってると思ってるけど……お姉さん、その例え話からタカくんのお悩み汲み取るのキツイかもぉ」

「お通じだけに汲み取れない」

「やめなさいレイカ、あんた本当ブレないわね……」


 なぜか先輩は悲しそうな表情で困っているみたいだ。変な質問すぎたか。


「すいません先輩。内容が突拍子すぎですよね」

「いいの、いいの。気にしないで? 相談に乗ったからには、持ち帰って真意を紐解くからね。明日のクラブで正解を発表しちゃうよぉー」


 カラ元気が痛々しい。でも、その誠実で前向きなところはさすが頼子先輩だ。このまま先輩の人の良さに甘えきってしまうのはやはり間違っているよなぁ。


「内容を煮詰めてくるので、その時改めて相談にのってください。今は料理部に専念しましょう」


 匙を投げずに持ち帰ってまで俺の変な質問に向き合うと言ってくれているのだ。


「そ、そぉ? じ、じゃぁお言葉に甘えちゃおうかな」

「では気持ちを切り替えて、今日の活動は何ですか?」

「んー、今日はタカくんの大好きなカレーを作ってみましょうか」


 俺が振り回した結果だろうか、

カレーは大好きだが、正直ビジュアル的に俺の「お悩み」を連想させられるので避けたいところだ。

が……


「ヨリタカ、これイケんじゃね?」

「俺も今思った」


 ダメもとでも試せる事はやっておこうと思う。


「ど、どうしたの? タカくん。なんか今日は変だよ」


 おっと、先輩に心配かける訳にはいかない。


「アドバイスありがとうございます! 頼子先輩のおかげで光明が見えました」

「え? 私なにも言ってないけど……」

「いえ、間接的に大きなヒントを貰いましたので。さ、早くカレーを作りましょう! 今回は俺にやらせて下さい」

「え、ええ。じゃぁ作りましょうか」


 先輩の味付けは個性的(マイルド表現)なので俺のサポートにまわってもらった。


「家白、ちょっとレイカをつれて二十分くらい出ててくれないか」


 先輩に気付かれないよう、こっそり家白に耳打ちする。さすがにレイカがカレーを知らないとは思えないが、打てる手は打っておく。


「オーケー、いろいろ健闘を祈るわヨリタカ。さ、行くわよレイカ、空気読みなさい」


 見た目に反して気遣いのできる家白。


「いいの? タカくん。二人とも出てっちゃったよ?」

「はい、頼子先輩との時間を邪魔されたくないので。カレーが完成するまでの短い時間ですけどね」


 なんとなく死を覚悟した俺は自然と本音を言え、少しよそよそしい感じになった先輩とお喋りを楽しんだ。

 そしてカレーを煮込むこと数十分。


「ヨリタカ! この子限界っぽい、ヤバイヤバイ!」


 レイカの手を引き家庭科室へ駆け込んでくる家白によって、先輩と二人きりの時間は終了した。

 焦る家白に言われ、突き出されたレイカを見れば。

 心ここにあらずな感じで棒立ち、精気を吸う生業とは思えないほど精気の無い瞳で虚空をみつめている。


「あれれ、レイカちゃん髪染めちゃったの? 綺麗な銀髪だったのに」

 その髪は透明度のある藤色でも魅入ってしまうアメジストの輝きでもなく、禍々しく鈍い光を放つ茄子のようだった。


「ヨリタカ! 完成してんでしょっ!? 早くオミマイしてやんなさいよ!」

「そうだった、ほらレイカ! 出来立てだぞ」


 素早くカレーだけを皿に満たし、焦点の合っていないレイカの鼻先へ差し出す。


「……ヨリ……タ……の?」

「俺の作りたてだ(嘘は言ってない)」

「良かったわね、レイカ。念願のヨリタカスイーツじゃないの」

「お腹すいてボーっとしてたのね、レイカちゃん」


 サキュバスとは思えないほどに精気がない。相当ギリだったようだ。

 危なげに皿を受け取り丸椅子へ腰掛けるレイカにスプーンを渡すと、ゆっくりカレーを掬い無表情な機械人形かと思える動きで口へ運ぶ。

 これで騙せなければアウトだ。おもに俺が。そもそもパッと見しか類似点が無いのだ、冷静に考えれば誤魔化せるハズもない。

 そのはずだったのに。


「うん、この味だぁーっ!」


 突然目を輝かせてなに言ってんのこの子。相変わらず抑揚がないものの、今回は若干テンションの高さが感じられた。


「お前味覚ブッ壊れてんの?」

「これは私が引篭もっていたときに見つけたお気に入りのひとコマから」


 それコラだけどな。


「あんた絶好調じゃないの。もうストレス解消したみたいね」

「なぁ、コイツ普段はなに食ってんの? 本当にカレー知らないのか?」


 精彩が戻った瞳を輝かせ、一心不乱にカレーを口に運ぶレイカを見ながら家白にこっそり聞いてみる。


「サキュバスの食生活なんて想像つくでしょ……とは言ってもあの子は特別ね」


 基本を忘れてた。そういやこいつらサキュバスなんだよな……


「ちょっ、顔赤らめてナニ想像してんのよ?」

「家白が夜な夜なセンシティブな汁モノをいろんな口から補給してるとこ」

「素直かっ! なによ『いろんな口』って! バカなの?」


 俺以上に真っ赤になった家白から脇腹をつねられる。


「なんだよ痛ってぇな。普通のサキュバス像ってそんなだろ?」

「あながち間違っちゃいないわよ。でも、誤解ないように言っとくとけど、ナユはメンクイなの。運命の男に出会うまではスイーツだけで十分だわ」


 聞けば魔物とはいえ、普通に生きるだけなら人間と同じ、もっといえば菓子類だけでもOKらしい。


「偏った食生活だなぁ。まぁ引篭もりだったレイカにはピッタリか」


 横になってアニメ観ながらポテチを貪り食う姿がしっくりくる。


「で? 味はどうだったのよ」


 口周りをカレーで汚したレイカを「あーもー」と文句を言いながらも拭き取ってやる家白。


「ふぅ。さすがヨリタカスイーツ、あと十年は戦える」


 鉱物資源ならぬ好物嗜源ってとこか。家白から脳天にチョップを入れられてる髪も焼き茄子色からシルクのような気品ある光沢に戻って一安心だ。

 この日の教訓から、お手軽なストレス軽減&俺スイーツおねだり対策として、レトルトカレーを家と部室にこっそり常備することにした。

 俺のビジョンとしては、こまめにカレーを与え続ける事で最終的にレイカを『カレー大好き美少女』ってポジションに落ち着かせようと考えている。

 が。

 その意識改善計画があんな結果になろうとは……


    サキュバス女王決定戦編につづく


『シーズン1 攻防編』いったん終了です。

ストックが貯まり次第、シーズン2を始めたいと思います。

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