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第10話

第10話


 校門を出て数分、俺達と同じ方向へ進む生徒がいなくなった頃。


「ありがとな家白」

「な、なにさイキナリ」


 突然切り出したせいか、目を丸くする家白。


「先輩と敵対しないでくれて。あと、なんか色々と気をまわしてくれただろ?」

「あー。だってあの先輩、ちょっかい出すなオーラ凄かったからねぇ。早々に切り上げないとレイカとヘンな修羅場になりそうだったし」


 周囲に見知った顔がないのを確認して素に戻る家白。


「なんだそれ」

「うわ、アンタこそなんだそれだわ。リアルラノベ主人公発見! そりゃ先輩も階段昇れないでしょうよ」

「なんだよ、頼子先輩に何かあったのか」

「ちょっとアンタのこと殴っていいかしら。フィクションじゃないとこんなにもイラッとくるものなのね」


 頼子先輩の事みたいだったので聞こうとしたが、「アンタのラブコメセンサー足元エリア外か」とグーで殴られそれきりだった。

 家白には何が見えていたのか気になったが、また殴られるのもやなので話題を変えることにした。


「バイトの話って部室を離れる口実じゃないよな。なんとなく付いて来ちゃったけど」

「当然でしょ。アンタは人間でありながら次期女王誕生の見届け人になれるのよ? 光栄に思いなさい」


 素の家白は圧が強いなぁ。


「俺にはどうでもいいんだけど……」


 はぁ、とヤレヤレ顔で小さくツインを揺らす家白は、


「ルックルック」


 細い顎先で俺の右肩に張り付くエリカを指す。


「その子が女王になったら桃色のサキュバス界が茶色オンリーで塗り替えられるコトになるわよ? 物理的に」

「どんな勝負か知らねぇけど、場合によっちゃサキュバスのイメージが砕かれる一歩手前まできてんじゃねーか!」


 なんだ『物理的に』って。おっかねぇ……


「コトの重大さが理解できたようね」

「ちなみにレイカみたいなサキュバスって多いのか?」


 男のロマンのためにも知っておこう。


「まさか! 程度の差こそあれここまで酷くないわ。性癖ジャンルのパラメータをニッチ側に極振りしたような個体なんて、この子くらいよ」


 ひとまずロマンは護られた。崖っぷちのサキュバス界を救うには家白に勝ってもらうしかない。

 その後、ちょっとだけ前向きにならざるをえなかった俺は、サーキュラーカーストへ向かう道中サキュバス界について家白に軽くレクチャーしてもらった。


    ■  ■  ■  ■  ■  ■  ■  ■  ■  ■  ■ 


「ホント急な話でごめんねぇ、頼崇くん」


 事務所に着いてからこっち、何度も佐倉さんに謝られている。


「いえ、俺も思春期男子の夢を背負っていると肌で感じましたので全力でお手伝いしたいです」

「そう言ってもらえると助かるわぁ。バイト代はうんとはずむからね」

「家白から『アイドルのマネージャー』的な仕事って聞いているんですけど、バイト経験すら少ない俺でも役に立ちますか?」

「安心して。ただ二人に付き添って暴走しないように監視してくれればいいから」


 裏を返せば『暴走したら分かってるよな、お前』ってことか……


「そういえばレイカは地下アイドルをやっていたんでしたっけ? 前任者がいたらアドバイスとか聞きたいんですけど」


 ウンコ好きというピーキーなアイドルの手綱を引いていたツワモノだ。ぜひコツをご教授いただきたい。


「あ、それ私なのよぉ。あんな子誰も捌けないから仕方なく」


 イキナリ詰んじゃった。


「佐倉さんでも手に余る危険人物、俺に扱えますかね!?」

「ダイジョブ、ダイジョブ。ウンコなんて飾りですから」


 MS整備士みたいなノリで誤魔化された! そのウンコ要素が不要なんですよ。


「不安しかないんですが……」

「頼崇くんのモノを餌に言う事きかせればうまくいくわよ。それに過去の失敗から学んで、売り方を変えてみたの」


 俺のモノって……まぁキャッチコピーのセンスはアレだが、タレントの個性は掴んでいる佐倉さんだ。同じ轍は踏まないだろう。


「今回はアイドルといってもネットなのよ。バーチャルサキュバスって「てい」で活動を考えているの。サーキューバーってやつね」


 すいません。サーキューバーがよくわかりません。ユーチューバーやブイチューバーみたいなものかな?


「ナユ達が本来の姿で配信活動するのさー」

「さー」


 振り向くとサキュバス姿に戻った家白とレイカが立っていた。


「ネット上でなら良くできたアバターに見えるでしょ? あらためてどうよ?」


 腐ってもサキュバス。アイドル活動用に新調された衣装を着たふたりはどちらも甲乙つけられないほどエロカワイイ。口には出さないが。


「登録者はすごい数になるだろうな」

「さぁ、初お披露目第一号は頼崇くんよ。挨拶して」


 ふたりが俺の前に移動し、媚びる感じのアイドル立ちをする。


「『さきゅーばだいびんぐ』汁担当『さきゅばシル』ですっ!」

「『さきゅーばだいびんぐ』尻担当『さきゅばシリ』です」

「「ふたり合わせて……」」

「ネーミングセンスッ! 下品が過ぎる!」

「なにさ、ヨリタカぁ~! 最後まで言わせろし」

「だいたい汁担当とか尻担当ってなんだよ?」

「キャラ付けみたいなモンよ。レイカなんてまんまでしょ」


 確かに。事実を知らなきゃ強力な武器だ。


「下品ネタにハマればこれ以上ないギャップ萌えじゃないか」

「ヨリ太に誉められた」

「誉めてねーよ! お前の嗜好とキャラの志向がたまたま合致した結果だ」


 まぁ不安ではあるが、ある意味これくらい尖っていた方がバーチャルアイドルとしては生き残れるのかもしれない。


「ユニット名『さきゅーばだいびんぐ』ってセンスなかったかしらぁ? ネットの大海へ飛び込むイメージだったのだけれど」


 俺にはそのまま海溝へ沈み込むイメージがよぎりましたよ?


「でねぇ、この子たちのキャラコンセプトは『ギリギリ攻めたサキュバスアイドル』なの。群がるキモオタを色んな意味で食い物にしているって設定で、ファン層を絞り込んでみたわ」


 佐倉さん、キモオタなんて単語知ってんスね。


「メインターゲットの思春期男子が安心してムラムラできるように配信は毎週土曜日の深夜にする予定よ」

「でもその時間帯のバイトだと俺、法律にひっかかりますけど」

「そぉねぇ……じゃぁ頼崇くんは、今度の土曜日から毎週ココでパジャマパーティーです。私が保護者として一緒にいますので、不純異性交遊案件もグレーゾーンにできますしね。もしこじれたら魔法でねじ伏せます」


 なにと闘う気なんだ。怖くて聞けない……

 不安だらけの中『さきゅーばだいびんぐ』の活動方針について話し合いをして解散となった。

 帰り際、レイカが俺の家までついて行くとゴネたが、佐倉さんと家白が説得してくれたので無事に帰宅することができた。

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