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第9話

第9話


 最終五限を終え、やっとこの苦痛空間から開放される時が来た。


「はぁ~。やっと落ち着ける」


 今は場所を移動して料理部部室。俺が女子の好感度を上げる邪な目的で入ったクラブだ。


「お疲れみたいだね、タカくん。お友達もどうぞ召し上がって?」


 俺が絶賛片想い中の林頼子(はやしよりこ)先輩。勝手についてきたレイカと家白にイヤな顔ひとつせず俺達に紅茶をいれてくれた。


「ありがとうございます、部長」


 現在はクラブでしか頼子先輩との接点はないが、実は家も近所で同じ学区だったため、小・中学校も一緒だったのだ。


「堅苦しいなぁ。いつもみたいに「頼子せんぱーい」って甘えていいんだよぉ。カノジョの前だから遠慮しちゃった?」


 やや内巻きに膨らんだショートボブの末端を首元で揺らし屈託ない笑顔でからかってくる。


「え、ヨリタカってココじゃそんななの? 安定のキモさ!」


 俺の癒しの時間を邪魔するな。


「いえ、コイツらは彼女でもなんでもないです」

「じゃぁ入部希望者?」


 おぅポジティブシンキング。


「ヨリ太がいるなら私も入る」

「なぁーんだ、やっぱりカノジョなんじゃない。わたしとは遊びだったのね、ぐすん」


 無い涙を拭って「ぐすん」て……ウソでも少し拗ねた先輩、カワイイです。俺、誤解しちゃいますよ? なんにせよレイカ=カノジョ疑惑は断固否定せねば!


「ホント、誤解ですって! カノジョじゃないです」

「でもねぇ。そんな「両手に花」の状態を見せつけられたら言い逃れできないと思うナ」


 怪訝な先輩の視線を追って自分の両腕を交互に見れば。レイカは常時ベッタリと張り付いているが、フリーだった左腕にはいつのまにか家白が絡んでいた。


「なんの冗談だ」

「んー。なんとなく面白そうだなと思って」

「タカくんモテモテだね、さっそく料理部効果が出てよかったじゃない。お姉さん一安心だよ」


 気のせいか、冷たい笑顔から紡がれる『よかった』には普段の頼子先輩とは違って突き放された感じがした。

 少しでも先輩と一緒にいたくて誤魔化すために照れ隠しで言った「女子の好感度アップ目的」が最悪の状態で裏目に出てしまったようだ。


「けど、七夕さん? うちのタカくんを振り回すのは程々にね」

「なんでナユだけ狙い撃ちだし」

「小悪魔美少女モデルにそんなコトされたらうちの子勘違いしちゃいますでしょ?」


 先輩の一言で興味を無くしたように「はいはい」と俺から離れる家白。そしてなぜ母親目線。


「さて。本命の……誰子ちゃん? あ、レイカさんって言うのね。あなたはうちの子にずいぶんご執心のようだけれど、どういうご関係かしら」


 エアざますメガネをクイクイする先輩。脱線好きな先輩が、この場をカワイイ母親演技で仕切る。


「あの女、何様? ヨリタカのオカン?」


 先輩が母親だったらイイなぁ。カノジョだったら尚良いんだけど。


「ん。ヨリ太のウン……」

「ウン?」

「チがった。ヨリ太の「硬くて」「太い」モノにもうメロメロ」


 教室の悪夢再び!


「あらあら、そうなのねぇ~……タカくん、お姉さんより先に大人の階段昇っちゃったんだぁー?」


 初めて見る先輩の表情は色んな感情が渦巻いているようだったが、俺としては先輩がまだ階段を昇っていない事実に安堵した。


「頼子先輩。見ての通り彼女はちょっとアレなんで今は俺と家白がボランティアで介護みたいな事をしてるんです。あ、決して性的な介護じゃありませんから! ホント気にしないでください」

「わかった。じゃぁタカくんを信用して保留にしといてあげる。って言っても別にタカくんがレイカちゃんを好きならわたしに遠慮せず、好きなだけイチャついていいんだよぉ?」


 ご冗談を。先輩を追って同じ高校を選んだ俺ですよ?


「ヨリタカ、そろそろバイト行くわよ」


 返答に詰まるタイミングで家白の声がかかる。


「タカくんアルバイト始めたの?」


 いや初耳ですが。


「そだよー。今日からナユの事務所でねー」


 あぁ、マネージャーとか言ってた件か。雑ではあるが、悪化しそうな空気を読んだ家白が気を遣ってくれたのだろう。


「え、あ、そうだった。じゃあ部長、すみませんが今日はこれで帰ります。明日はちゃんとクラブ出ますので。紅茶ごちそうさまでした」

「あ……うんっ。また明日ね。バイトがんばって」


 一瞬、曇り顔に見えた先輩は笑顔で見送ってくれた。

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