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二人でどこまでも

「ユウラ、いこっ!」

「うん!」


 ロシュフォール家の人達が拘束されてから二年が経った。

 僕とユウラは13歳、今では気軽に手を繋いで遊びにいったりしてる。

 周囲は僕達を恋人同士だとか冷やかすけど、正直に言うとそんな実感はない。でもユウラはあれから本当に明るくなった。


「リオ、またセレイナさんの酒場にいったでしょ」

「いや、あれはトラップみたいに吸い込まれるんだって!」

「でも嬉しそうだったよね?」

「そんなことないって!」


 一緒にいてわかったけど、ユウラは嫉妬深い。

 二年前の僕にはそれがわからなかった。セレイナさんと一緒にいると、ユウラが焼きもちを焼く。

 だから今では極力、セレイナさんとのスキンシップは控えていた。控えているんだけど――。


「リーオーくんっ!」

「うわっ!」

「飲みにいこ?」

「ナチュラルに子どもにそういう誘いしないでください!」


 僕だって少しは成長した。大人達の間では飲みに行くという誘いがスキンシップだということ。

 それはお酒を飲むということで、子どもの僕相手には適切な誘いじゃないと知っている。こうなるとユウラは黙っていない。


「セレイナさん」

「あら、ごめんなさいね。これからデートだった?」

「デート」


 ユウラ、はっきりとデートって言った? 言ってないよね? いや、言ったね。

 僕の手をぎゅっと握ってきて、しかもかなり痛い。

 目の前に捕食者みたいな人がいるから当然なんだけど。


「わかった、わかった。二人でしけこんでらっしゃい」

「またよくわからないことを……。大体、今は昼間ですよ。普通、そういう誘いって夜ですよね?」

「ドルファーさん達も、お仕事がない時は昼間から飲んでるわよ?」

「僕、知ってます。それってあまり褒められた大人の行動じゃないですよね」

「リオ君も成長したわねぇ」


 といった後で必ず頭を撫でられる。悪い気はしないんだけど、この人からしたら僕達はまだ子どもということなんだと思う。

 イルミーアさんもやたらとチビ扱いしてくるし、早く大人になりたいなぁ。

 でも長代理として、少しは成長したと思ってる。イムルタの村もこの二年で町と呼べる大きさになった。

 王国内でもそれなりに名前が知られていて、今じゃ出稼ぎ労働者や永住者、旅の冒険者と訪れる人が本当に増えている。

 ティニーの診療所も今は治療院の規模になっていて、毎日が大忙しだ。

 ウヌギの巨大養殖場も一つの名物になっているし、児童施設も二百人以上の子ども達がお世話になっている。

 それもこれもすべて僕のおかげ、というわけじゃない。だから未だに長代理だ。

 そうそう、あれからバダムさんが移住してくれて今はこの村で長代理の僕をサポートしてくれている。

 ロシュフォール家の治癒師だったセージさんも治療院で活躍中だ。


「まぁ二年前から考えられませんね……」

「うんうん。あのロシュフォール家が来た時から、リオ君が急成長したように思えるわ」

「ロシュフォール家……。全員、魔術の使用が制限される鉱山での労働をさせられているんだっけ」

「通称、無限鉱山ね。あそこは特殊な結界が張られていて、魔道士も普通の人間になるのよね」


 フレオールは他人を底辺だと見下していたけど、そんな場所じゃ上も下もない。

 風の噂では一家全員、他の労働者からも嫌われてると聞いた。

 魔力があまりない労働者から罵倒されて、暴力を振るわれる日々を送っているらしい。

 しかも家族が顔を合わせるたびに口汚く罵り合ってるみたいで、そうなると誰が底辺なんだろうと思う。例えば――


「フレオール! お前がリオを攻撃しなければ、こうはならんかったんだぞ!」

「元はといえばお前の教育が悪いせいだろうが! 散々持ち上げてきやがったくせによ!」

「こんな人と結婚したのが間違いだった! 何がロシュフォール家よ!」


 屋敷にいた時から見る影もないほど険悪な雰囲気らしい。しかも無期限労働らしいから、そのまま一生鉱山で生活する可能性がある。


「王様を怒らせるとこうなるという好例ねぇ」

「そういえば、その王様がこのイムルタに訪問する予定ですよ」

「えっ! いつの間にそんな出世したの!?」

「セレイナさん、本当にお願いしますよ」

「大丈夫だって!」


 セレイナさんの大丈夫を信用していいものだろうか?

 まさか王様まで酒場に引きずり込むようなことはしないだろうけど。しそう。


「まぁそんなわけでセレイナさんの相手をしている暇はないんです。これから町の様子をチェックするんですからね」

「ユウラちゃんと二人で?」

「ユウラは僕の大切なパートナーですからね」

「パートナーねぇ?」


 また怪しいニュアンスの物言いをする。この人に付き合ってたら時間が溶けるだけだ。僕達はさっさと仕事に行くことにした。


「ユウラ、今度こそ行こう」

「セレイナさん、さようなら」


 ユウラがわざとらしくセレイナさんに頭を下げた。ユウラもやるようになったなぁ。

 でもセレイナさんは手を振って見送ってくれる。あの人の店もチェック対象だから、日をずらして抜き打ちで行こう。

 この前なんか、嗅いだら気持ちがよくなる草とかいって本当に怪しかった。体に害はないとか言っていたけど、危ない予感しかしないからね。


「よーし! イムルタの町をもっともっと大きくするぞ!」


 本当に色々とあったけど、僕はこれからもこの町で生きていく。

 馬鹿にされた魔石術でどこまでも行ってやる。もちろん一人じゃない。


「ユウラ、これからもよろしくね」

「うんっ!」


 ユウラの笑顔を見ているだけで元気が出る。僕はユウラと手を取り合って生きていくと決めた。

ご愛読ありがとうございました!

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