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はぐれ魔術師

「よぉーし! じゃあ休憩だ!」


 ドルファーさんのその一言がオアシスに感じた。

 僕も訓練に参加したけど真っ先にへばってしまうくらいヘトヘトだ。何せこの人の訓練といったら、ひたすら基礎の体力作りだもの。

 集落の中を走り込みした後は腕立て伏せや腹筋をひたすら繰り返す。最初はこんなの楽勝と思ってたけど、見た目以上に疲れる。

 魔術師の中で体力作りをしている人なんてどのくらいいるんだろう? たぶんこれがきついと感じるのは僕だけじゃないはずだ。


「リオのボウズよ! お前なかなか根性があるな! 何より魔術が使えるからってふんぞり返ってないのが気に入った!」

「そういってもらえると本当に嬉しいです」

「それにあそこのティニーのボウズも気合が入ってるな!」

「あぁ……」


 ティニーも僕に影響されたとか言って、張り切って訓練参加に志願してきた。

 体力も模擬戦も全然だけど、元々運動すること自体が好きなのかな。すごく清々しい顔をしていた。


「お疲れさん。やっぱりリオはすげぇな……。俺、全然勝てないや」

「僕のほうが先にユウラに鍛えてもらっていたからね」


 ティニーが座ったまま拳を突き出してきた。僕もそれに応えて、コツンと自分の拳を当てる。

 他の人達もやる気十分なのか、休憩時間が終わると一斉に訓練に取り組んだ。

 ドルファーさんは教えるだけあってその強さは凄まじく、魔術がない時代だったら無双できていたと思う。

 いや、この人なら魔術師相手にも引けをとらないかもしれない。

 というのも、今のウイングスピアの時点で風属性の追加攻撃がある。これのおかげで疑似的に魔法と同じような攻撃が繰り出せた。

 他の三人、ハーデルさんやダレットさんやポーレフさんも負けず劣らず強い。それぞれ斧や剣と、武器を持って立っているだけでも迫力がある。


 一日が終わってヘトヘトになるくらい疲れるけど、どうも訓練は毎日というわけじゃないらしい。

 というのもドルファーさんは休息をとるのも訓練のうちだと言っている。一週間のうちに二回ほど激しい訓練をやって後は休息。

 僕にはよくわからないけど、このほうが体が出来上がるとか。

 できない奴ほど毎日、がむしゃらにやって体を壊す。ドルファーさんはそう笑う。

 そんなある日、ドルファーさんが僕に相談を持ちかけてきた。


「よう。長のじいさんにも話したんだけどよ。そう遠くないうちに戦争になるかもしれねぇ」

「戦争!?」

「いや、言いすぎた。この辺に限らないんだが近頃、はぐれ魔術師ってのが増えてるらしくてな。旅人や隊商、難民を狙うような盗賊紛いのことをしてるらしい」

「はぐれ魔術師……。何らかの理由でドロップアウトした魔術師のことですよね」

「そうだ。魔術全盛期なんて言われちゃいるが、そうなりゃ溢れる奴も出てくるわな」


 どこかに雇われていたけどクビになったり、犯罪をやって追われる身になったり。

 そんな人達が武器の代わりに振るっているのが魔術だ。昔の盗賊以上に襲われたらどうしようもないことが多い。

 ドルファーさんが言うには、ここに来る途中に何度もはぐれ魔術師に襲われた人を見てみたらしい。


「まー、その。なんだ。いずれは訓練してるあいつらにも知らせなきゃいけねぇ。その前にボウズ、戦闘力が一番高いお前の耳に入れておきたくてな」

「ぼ、僕がですか?」

「偉そうにあーだこーだ指導しちゃいるが、お前には逆立ちしたって勝てねぇ。俺だってそのくらいわかってるからな」

「そ、そんな……。ユウラやセレイナさんがいるじゃないですか」

「ユウラって子は話を通せる気がしねぇし、セレイナのねーちゃんはなんか忙しそうだしよ」


 セレイナさんが忙しい? 僕達に隠れてコソコソ何かやっているから?

 うーん。さすがに僕から言わなきゃダメかな。


「とにかくセレイナさんにも伝えますよ。あの人、かなり強いですからね」

「おう、頼むぜ」


 はぐれ魔術師の盗賊か。僕も一歩、間違えていたらそうなっていたのかな?

 でも人を無差別に襲う盗賊もロシュフォール家もあまり変わらない気がする。少なくとも僕は人を不幸にするために魔術を使いたくない。


 それから訓練の日々が続いて、模擬戦を行うようになった。戦績としてはユウラがぶっちぎりの一位で、ドルファーさんが二位。

 続いてハーデルさん、ダレットさん、ポーラムさん。

 驚いたのが、ユウラは強化魔術なしでもドルファーさんとそこそこ渡り合える。この状態の戦績ならほぼ互角かもしれない。

 集落の人達も仕上がってきたみたいで、さすがに子どもの僕じゃ剣で渡り合えない。

 ちょっと悔しいけど、さすが大人の人達だ。そんな風に汗水流して訓練をしているところにセレイナさんがふらっとやってきた。


「聞いたわよん。はぐれ魔術師とかいうのが、ここを嗅ぎつけてくるかもしれないらしいわね」

「セレイナさん。なんで少し顔が赤いんですか? それに変な臭いがしますよ……」

「まぁそれは追々ね。それより黙って待っているなんてナンセンスよ。やるならこっちから攻めてやりましょ」

「こっちから? いきなりですね……」


 セレイナさんの話によると、こうしている間にもはぐれ魔術師が誰かを襲っている可能性があるらしい。

 確かにそうだ。人がたくさん襲われているなら、それだけ犠牲者が出る。だけど未然に防げば、こっちにも実利があると熱弁した。


「助かった人達にここの集落を知ってもらえるのってメリットじゃない? 現状、商人も立ち寄らない場所ってのはまずいわよ」

「確かにそうですね。それに交易が盛んになれば街道なんかも作れます」

「街道が活気づけば、国もこっちに予算を割いて巡回警備してくれるかもしれないわ。そうなったら、はぐれ魔術師なんて一掃されちゃうわよ」

「うんうん。さすがセレイナさん……」


 セレイナさんはいつもフラフラしているけど、大切なことを教えてくれる。

 でもこの臭いについては本当に説明がほしい。嗅いでいるうちに頭がクラクラしてくる。本当に何も変なことしてないよね?

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