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4 晩餐

 リノアと再会し、さらにベアトリクスの正体がまさかの自分自身であると判明した後、三人は部屋を変え、大きな丸テーブルを囲んでいた。


「ちょっと待っててね。もう少しでアイラちゃんも来ると思うから。それまで質問コーナーにしましょ!」


「相変わらず、国のトップとは思えないくらいノリが軽いね、リノアは」


「だからこそ、親しみやすくて民からの信頼も厚いわけだけどね。私にはない素質さ」


 二十年経っても変わらない友人の姿に安堵したものの、向かいの席に自分がもう一人が座り、談笑に混じっているというのはなんとも奇妙な感じがする。それを紛らわせるように咳をすると、エマはベアトリクスを見た。


「じゃあぼくから質問いいかな。まず、この世界には晴真(ぼく)の持ちキャラが全員いるってことでいいのかい?」


「居所まではっきりしてるのはレオンとセシア。ここ数年以内に目撃情報があるのはアメリアで、ミストレスは来てるのは確定だけど、現在は消息不明。ハルトは二十年前の大戦で目撃されたのを最後に消息不明。他は情報なしってところだね」


 九人の内二人が判明。情報があるのは三人。完全に不明なのは二人。エマとベアトリクスを入れて、現在は四人が揃っているということになる。


六番目(ベルベット)八番目(エレン)……よりによって集団戦が得意な二人が手がかりなしか」


「まったくだよ。二十年前の防衛戦にあの二人がいればどれだけ楽だったか。地平線を埋め尽くすほどの魔物の相手をするのは骨が折れたよ」 


 やれやれと首を振るベアトリクスに、リノアが呆れたような視線を向けた。


「いや、ベアも人のことは言えないから。ウチに攻め込んできた魔物達の四割くらいを一人で倒してたの、忘れてないわよ」


「まあ、私は優秀だからね。特別強い相手もいなかったし、あれくらいできないと、仮にも『万魔』だの『魔導開祖』だの『大賢者』だの、大層な呼び名にふさわしくないだろう?」


「あれ、素のぼくってこんなに尊大な態度してたっけ?」


 自分とのあまりの性格の違いに思わずエマが突っ込みを入れると、ベアトリクスはけらけらと笑って足を組んだ。


「なるほど、君は元々の晴真(わたし)の性格に近いのか。ひとつ説明しておくと、どうやら我々の性格は作成時のキャラクターデザインに寄せたもののようでね。そのうち、レオンとセシアに会いに行ってみるといいよ。あの頃考えたままの性格だから」


「おおう……痛い、心が痛い……」


「そういえばエマ、そのフルネームって」


「ああああーーーっ!」


 その時、侍女がノックとともに部屋へと入ってきた。


「リノア様、お料理をお持ちしました。それとアイラ様をお連れしたのですが、いかがいたしましょうか?」 


「あっ、アイラちゃん来たの? じゃあ続きはまた今度にするとして、ご飯にしましょうか!」


 リノアが手を叩くと、次々とテーブルに料理が並べられ、あっという間に食卓が完成する。

 そして、おっかなびっくりといった様子のアイラが入ってきた。


「し、失礼します……」


「いらっしゃいアイラちゃん、今回は色々と危ない目に遭わせちゃったみたいでごめんなさい。お詫びと言っては何だけど、一緒にご飯を楽しみましょ」


「は、はいい……」


 女王直々の招待で緊張しきりのアイラは、がちがちになりながらお辞儀をする。


「ははは、そんなに緊張することはないよアイラ嬢。私もリノアもあまり恐縮されても困るからね。普通の美女と美少女だと思って接してくれたまえ」


「厚かましいわよベア。そこは絶世の美女と美少女くらいにしておきなさい」


「君たち二人とも厚かましいよ。ほら、アイラがなんて返せばいいかわからなくて挙動不審になっちゃってるじゃないか」


 あうあうと呻いておろおろするばかりのアイラを見かねて、助け船を出すエマ。


「小粋なジョークで和ませようと思ったんだけど、失敗しちゃった。ごめんね」


「その通り。そう畏まらず、エマのように自然体でいてくれると助かるよ」


 フレンドリーな女王と賢者にどう接するべきか迷うアイラ。


「大丈夫だよアイラ。この二人も根っこは庶民派だから。リラックスしてご飯食べよう?」


「え、エマ様は緊張しないんですか? 二十年前の大戦では数万の魔物を退けた、周辺国にも影響力の強いお二人なのに……」


「ああ、エマは実力で言えば私と同格だからね。君もあの戦いにいればどれほど被害を抑えられたか」


 国の重鎮二人を前に平然としているエマを見て疑問を浮かべるアイラだったが、さらっと返ってきたベアトリクスの爆弾を受け、思考停止して沈黙するのだった。


「じゃあ、私たちの二十年と、新しい出会いと、これからの未来にかんぱーい!」


 その後、再起動したアイラも加わり、リノアが音頭をとって食事が始まる。


「うーん、流石は王族の晩餐。今までの人生で間違いなく一番豪華な食事だね!」


 夢中で目の前の皿を平らげるエマ。ベアトリクスはワイングラス片手に優雅に料理を口に運ぶが、そのペースはエマと遜色なく、みるみるうちに皿が空いていく。


「ほらアイラ嬢、これとかオススメだよ。たくさん食べるといい」


 ベアトリクスがついと指を振ると、皿がふわりと持ち上がってアイラの前まで飛んでいった。


「あっ、ありがとうございます!」


「へえ? 知らない魔法だ。念力みたいなものかな?」


 興味を示したエマにベアトリクスは微笑み、ナプキンで口元を拭う。


「【マナ操作】という、この二十年で新たに開発された新技能さ。誰にでも扱えるわけではないが、私のように魔力の総量と操作に長けた者なら習得はそう難しくない。日常生活でも使えて便利な魔法だよ。他にはセシアなんかがこれを活用して、執筆作業を始めとしたマルチタスクをこなしているね」


「執筆作業? セシア、こっちでも作家やってるの?」


「わたし、セシア先生の本大好きなんです! でも、すごい人気でなかなか買えなくて……」


「じゃあ、アポとってあげる! なんたってアイラちゃんは『星の巫女』だし、それに可愛いしね!」


「そんな私情丸出しでいいのか、女王……」


 最初は緊張からかぎこちなかったアイラだが、食事が進むにつれて笑顔が増え、最後には全員と仲良く談笑を楽しむようになっていた。それを確認した三人はお互いに頷き合い、微笑む。そのままアイラが眠気によりダウンし、酔って絡み上戸となったリノアが散々エマの体を触ったり抱きついたりした挙げ句、上機嫌で眠りこけるまで晩餐は続いた。




 アイラとリノアがそれぞれ寝室へと連れていかれた後、エマとベアトリクスは二人で城自慢の大浴場へとやってきていた。優に数十人は入浴可能な、たっぷりと湯をたたえた湯船に浸かると、疲労が湯へと溶け出していく感覚に、どちらともなくため息を漏らす。


「ああー……いい湯だなあ。やっぱり日本人といえばお風呂だよねえ」


「ふふ、同感だね。それにしても、私ほどではないが君も立派なものをお持ちだね。確か普段はさらしを巻いて目立たないようにしてるんだったか。窮屈じゃないかい?」


 横で寛ぐエマの胸に視線をやると、ベアトリクスはからかうように笑った。


「むう……今はこんな体に設定した自分を恨めしく思うよ……」


「ははは、ごめんごめん。……さて、改めてだけど、礼を言わせてもらうよ。ありがとう」


 顔を赤くしてむくれるエマを見て笑っていたベアトリクスだが、急に声色に真剣さを滲ませると、礼を述べた。


「礼って、何に?」


「色々さ。まあ、主にアイラ嬢を護衛してくれたことと、あとはリノアのことかな。食事の席ではあんなにはしゃいでいたけど、本当はここ数年、あそこまで酔っ払うほど飲み食いして、笑顔を見せたことはなかったんだ。君のおかげだよ」


「そっか……、ぼくにとっては昨日今日の出来事だけど、君らにとっては二十年だもんね」


 聞いた話では、リノアとベアトリクスは消失後、大戦勃発の直前にこの世界に現れたらしい。それから二十年もの間、彼女らは国を守ってきたのだ。


「ああ。この国も他よりは少なかったとはいえ、それでも小さくない被害を受けた。復興を果たしてからも、今だってこの地の利権や魔術研究の成果なんかを欲しがる輩から国を守っているんだ。でもねエマ、君が現れたことで、いたちごっこを繰り返すばかりだった事態に光明が差したんだ」


 国の守護者としての顔を見せるベアトリクスに、エマも居ずまいを正して問いかける。


「ぼくは何をすればいい? ぼくだってこの国が好き勝手されるのなんて、絶対に御免だよ」


 力強いエマの言葉にベアトリクスは微笑み、手を広げた。


「明日、アイラ嬢から『星の巫女』として見た夢の内容と、君やクラウス君たちの護衛の様子について聞き取りが行われる。詳しい事はそこでリノアの口から語られることになっているが、先に私から伝えておこう。エマ、君には人探しをしてほしいんだ」


「人探しって、つまり……」


「そう、さっき話した行方がわかっていない五人。彼らを探し出してほしい。悪いが急がなければならない事情があってね。無理を言うようだが、一年以内に全員を見つけ出してくれると助かる」


「事情って?」


「機密中の機密だから、くれぐれも他言無用で頼むよ。実は、そう遠くないうちに二十年前と同じか、それ以上の規模の魔物の大侵攻が発生する可能姓ありとの情報が挙がっているんだ」


 二十年前と同じかそれ以上の、魔物の大侵攻。エマは当時の様子こそ知らないものの、それが人類にとってどれほどの災厄となるかは容易に想像できた。


「君はどうやら『星の巫女』や『星の騎士』についてよくわかっていないようだからここでは割愛するが、私と君を含めた九人全員が揃えば、余計なちょっかいをかけてくる有象無象の大半を黙らせられ、かつ主要な国々が大手を振ってこれに対処できるようになると思ってほしい」


「それはいいけど、君や他のみんなは?」


「国を治めなければならないリノアはもちろん、私もそれなりの立場がある。下手に国を出ると戦争の下見だのなんだの周りから言われて、厄介なことこの上ないんだ。他の国の仲間(フレンド)達もだいたい同じで、今動ける中で最も身軽で信用できて、実力も申し分ない人材は君しかいないんだ」


 なるほど確かに、話を聞く限り適任は自分で間違いないだろうとエマは納得する。

 なにせ探し人は自分自身である。考えそうなことや行動などは他の誰よりも理解しているつもりだ。


「で、なにかアテはあるのかい? いくらなんでも、世界中を闇雲に探して、一年以内に五人を見つけるなんて無理だと思うけど」


「うん、そこについては実に便利な情報網があってね。さっき、食事の席でリノアが言った話と関係するんだけど、近日中にセシアと会う予定があるんだ。早速で悪いが、君が行ってきてほしい」


 先ほど、リノアの話にあったアポがどうとかいう話を思い出すエマ。


「わかった。にしても、セシアってそんなに影響力があるんだ。まああのロールプレイが素だっていうなら、ぼくらしくもなく前に出たがるのも納得できるけどさ」


 なんだか知らない間に凄いことになっていそうなかつての自分を思い出し、苦笑するエマ。それを見たベアトリクスはにやりと笑うと、愉快そうに口を開いた。


「君を始め、私たちは何かと妙なことになっていることが多いと思うが、世界への影響力で言えばおそらくセシアが一番だろうね。なんたって彼女はこの世で知らぬ者のいない、世界一の大富豪なんだから」


 セシア・トライドリーマー。世界一のエンターテイナーを自称し、変幻自在の魔道具と奇想天外な戦い方で敵を欺き、『夢幻のセシア』の異名をとった少女の現在を語るベアトリクスの笑い声が、広い浴場にこだました。


 暴かれる中二ネーム。頑張れエマ(と作者)のメンタル。頑張れ。

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