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18 塔での宴会

 後方の騒ぎなど露知らず、エマはざぶんと湯船に入ると、湯をかき分けて進んでいく。その先には長い銀髪を湯につけないようお団子にまとめ、リラックスした表情で湯に浸かるセシアがいた。


「ああエマさん、お先にいただいてます。どうですかこのお風呂。すごいでしょう?」


「うん、それはもう気に入ったよ。こんなお風呂なら毎日入りたいね!」


 瞳を輝かせるエマにセシアは微笑み、ふと目を細める。


「ふふ、子供の頃は不思議と大きなお風呂にわくわくしましたよね」


 子供の頃は親に連れられてスーパー銭湯に行く度に、ジャグジーだの露天風呂だの電気風呂だのにはしゃいだものだ。

 自分自身と幼い頃の思い出を語り合うのはなんとも妙ではあるが、悪い気分はしない。長年の友人と話すような心境で、からかうようにエマは言った。


「セシア、仮面は外してるんだ? まあお風呂だし、濡れたら困るもんね」


「……ええ、そうです。普段の格好ならいざ知らず、バスタオル一枚に仮面なんて変じゃないですか。お風呂に入るのに仮面なんて付けませんよ」


 口を尖らせるセシアだが、その言葉に嘘が含まれていることをエマは知っている。

 セシア・トライドリーマーが人前で仮面をつけるのは二つの理由がある。両方とも彼女のキャラクターデザイン、つまり設定に起因するもので、一つは彼女のコンセプトである『変幻自在の戦術で相手を惑わす奇術師』のイメージから。そしてもう一つは、『目標に向かってひた走る一途さを持つが、かなりの人見知りで感情が顔に出やすく、それらを言動と仮面で覆い隠している』という彼女の精神性にあった。

 要は変な奴だけど仮面の下は美少女というギャップを狙ってのものだったのだが、この世界において仮面を外したセシアと接するということは、その人物が彼女から信頼されていることの証明なのだ。


 ベアトリクスもそうだったのだが、どうやらエマ以外の八人のキャラクター達は設定がそのまま人格として現れていると見て間違いないようだ。それはセシアも自覚しており、エマの言わんとするところを正確に把握していた。つまり、あの三人のことは本当に友人と思っており、でなければ時間か浴室を別にしていただろう、ということである。


「気に入ってるんだね。あの三人のこと」


 横に座って水遊びを始めたエマに、セシアは観念したように話し出す。


「ふう……ええ、最初は他の街に行く隊商の護衛依頼を、あの三人が偶然受けたのが始まりでした。そこでハルトさんらしき凄腕の武闘家の話を聞いたという報告を受けて興味を持ち、詳しく聞こうと直接会って話をしたんです」


 ぼんやりと窓の外に視線を向けるセシア。壁一面に広がるそれらの外には不夜城の如き娯楽都市の景色が、一大パノラマを築いていた。


「偉大な冒険者を目指して努力する彼らの話を聞いているうちに、放っておけなくなってしまいました。現実世界で作家を目指して必死に物語と向き合っていたあの頃を思い出して、夢に向かう彼らの努力が報われてほしいと、そう思ったんです」


「それで依頼を出して、そしたらいつまでも帰ってこない三人を探すために、マギノリアからぼくを呼んだんだ?」


「はい。エマさんなら誰よりも信頼できますから。万が一にもミイラ取りがミイラになるような事態は起こりえないと。本当に、彼らを助けてくださってありがとうございました」


 青の瞳でしかとエマを見据え、頭を下げるセシア。


「ふふ、自分から感謝されるなんて変な気分だね」


「何を言ってるんですか。我々九人は共通の記憶を持ってはいますが、れっきとした別人ですよ。なんて言いつつ、そう呼ばれるのも悪い気はしませんけどね」


 くすりと顎に手を当て、上品に笑うセシアはどこぞの令嬢のようで、エマもそれを真似て微笑んでみせる。そんな二人の近くではアイラが輪に入れずおろおろとしており、遠くからそれを見ていたマルグリットがカメラを持ってこなかったことを激しく後悔していた。


 その後、女性の裸体に免疫ができつつあるエマがセシアと髪を洗い合ったり、緊張の限界を超えたリゼルがのぼせてしまったりなどのイベントを経て入浴は終了し、最上階に戻って一休みした後で夕食が始まった。


 食卓には出来立ての料理が所狭しと並び、特に運動した後の訓練組にはたまらない、食欲を刺激する香りが空間に満ち、空きっ腹が音を立てる。作ったのは主にセシアとマルグリット。この塔に住むのは彼女ら二人だけであり、メイドのなども雇ってはいないので、普段の食事は基本的に自炊である。その腕前が存分に発揮された結果に、一同は歓喜の声を上げた。


「さあみんな、お腹空いたでしょう。今日はたくさん飲んで食べて騒ぐわよ!」


 マルグリットの音頭で食事が始まり、エマは湯気を立てるスープをふーふーと息を吹きかけて冷ましてから一口啜る。鶏ガラのような塩気のある汁には野菜の甘みと旨みが溶け出しており、香辛料が程よく効いて、喉を通る熱とともに体が芯から温まるのを感じる。

 ほうと息を漏らしたエマは、エールがなみなみと注がれたジョッキを勢いよく呷るマルグリットに感嘆の意を込めて話しかけた。


「マルさん、ずいぶんと料理上手になったんだね。昔はいつも出来合いのお総菜とかカップ麺ばっかりで、しょっちゅうぼくにご飯をねだってたのにね?」


 現実世界でのマルグリットは多忙さもあってか自炊する事はほとんどなく、逆にほぼ毎日自炊していたエマの元に度々転がりこんでは食事にあやかっていたのだった。それを指摘されたマルグリットは危うくエールを吹き出しかけ、盛大にむせる。


「んぐっ……! ごほっ、ごほっ……! まあ、長い間セシアと二人暮らしだったからね。嫌でも上達するわよ」


「ぼくも負けてられないね。マギノリアに帰ったら市場で食材を見繕って、何か作ってみようかな」


 エマがそう意気込みを口にすると、セシアが上品に赤ワインの入ったグラスを傾けながら言った。


「それなら帰る前に商業区に寄っていくことをオススメしますよ。ベルクローデンは娯楽の街。美食も例外ではありません。市場に顔を出せば、世界中の食材を見ることができるでしょう」


 ベルクローデンは娯楽都市の他に商業都市の異名も持つ。世界のあらゆる品はベルクローデンへと集まり、それが新たな流行を生み出すのだ。


「面白そうだね。じゃあ帰るのは明後日にして、明日は色々と見て回ろうかな」


「えっ、いいんですか? 急いで他の方を探しに行った方がいいんじゃ……」


 不安そうなアイラの言葉に、エマは笑って答える。


「確かに一理あるけどね。でも、広い世界をぼく一人で人探しなんて無理があるよ。みんな何かと個性的だから、何かしら噂になってる可能姓は高いと思うけど、たどり着くまでにどれだけかかることやら」


 あっけらかんと言ったエマは大きな肉の塊にナイフを入れて一口大に切り分け、一切れを口に運んで咀嚼し終えるとセシアを見る。その意図を正確に把握したセシアは、アイラを安心させるように胸を張る。


「そこで私の出番というわけです。私の人脈を使って色々なところに声をかけておきましたので、それらしい噂があったらマギノリアまで届くでしょう」


 セシアはリノアからアイラの予言について連絡を受けた時点で対策を講じていた。世界一の大富豪である彼女の顔の広さは世界に及ぶ。届いた情報はリノアが用意した情報班によって解析され、信憑性が高いものだけが上がってくるようになっているという。


「そうなんですね! さすがセシア様です!」


「ふふふ、ですので、情報が入るまでは好きに過ごすといいでしょう。お三方も、何かあれば遠慮なくどうぞ」


「いやはや、俺達ばかり至れり尽くせりで申し訳ない」


 恐縮するリゼルだったが、エマとセシアは朗らかに笑い飛ばす。


「ぼくらが手助けするのは自分がやりたいからさ。気にする必要はないよ」


「エマさんの言う通りです」


「ほらほらみんなー。いつまでも堅苦しい話をしてないで、せっかくの宴会なんだから騒ぎましょうよー!」


 顔を熟れたリンゴのように赤く染め、トレードマークの眼鏡を放り投げたマルグリットがアルコールの香りを纏って話に割って入ってくる。


「出ましたね。マルったら酒好きの癖に弱いんだからもう」


「あはは、そういうところは昔から変わらないね」


 口調とは裏腹にセシアの顔は親愛をたたえて笑みを浮かべており、エマも同様に微笑んでワインを呷る。そのやりとりは長年の付き合いを感じさせるには十分であった。


「みなさんは長い付き合いなんですね! そういうの、憧れちゃいます!」


 オムライスを頬張り、とろけるような笑みを浮かべたアイラが言う。


「そうね。フライヤーの人たちってみんな仲間意識が強いって聞いたことがあるけど、本当にそう思うわ」


「そういえばみなさんはフライヤーでしたね。どこの出身なんですか?」


 唐揚げを頬張りながらミーアが言い、何気ないミーナの質問に、三人は顔を見合わせる。


「そうですね……とても遠いところです。もしかしたらもう二度と戻ることはないかもしれません」


 フライヤーこと元プレイヤー達の故郷である地球。そこへの帰還方法は未だに判明していない。別世界ですなどと言えるわけもなく、一般的には秘境中の秘境ということで秘密となっていた。言葉を濁すセシアに食卓が気まずい沈黙に包まれかけるが、エマは明るくそれを笑い飛ばす。


「ま、少なくともぼくらは故郷にそこまで未練はないからね。気にしないでいいよ」


「そうですよ。私なんかは元いたところよりもこちらの方が性に合ってますから、お気になさらず」


「今日はお祝いなんだから、しんみりしてちゃもったいないわ。ほらみんな、乾杯し直しましょう!」


 気を取り直し、それぞれ手に持った器に飲み物を入れて乾杯する一同。和気あいあいとした、家族と過ごすような温かみのある空気に包まれて、宴会は夜遅くまで続くのだった。

 もっと多くの人に読んでもらうにはどうすればいいかと知り合いに相談したところ、「とにかく評価してもらうこと! 後書きとかSNSとかでガンガン宣伝して、ランキング入りすれば絶対に読む人増えるよ!」と言われました。

 それはそうだと思いますが、ランキング入りはハードル高いよなあと思う今日この頃です。


 そんなわけで、今まで露骨すぎて不快に思われないかと避けていましたが、後書きの下にこうなんか色々あるので、もしよかったら評価お願いします。日に日に増えていくPV、ブックマーク、いいね等、毎日によによしながら拝見させてもらってます。

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