49話 なんでスク水?
目の前には裸の愛乃がいて、そして、透を期待するように見つめている。
胸も透に洗ってほしい、なんて愛乃は言ったけれど、もちろんそんなわけにはいかない。
(いや、ダメな理由なんて……ないのかもしれない)
愛乃はそれを望んでいて、透も愛乃に必要とされることは嬉しくて……。今、愛乃の腕を透はつかんでいる。
その手を引き寄せれば、愛乃の体は透の腕のなかに収まってしまう。
そして、愛乃はいたずらっぽく青い瞳を輝かせる。
「このままだと……わたし、本当に妊娠しちゃうかもね」
「そ、そんなことしないよ」
「そんなことってどんなこと?」
「それは……」
「わたし、透くんの赤ちゃん、生んでもいいんだよ?」
愛乃は熱に浮かされたように、そんなことを甘い声でささやいた。
そのままだったら、きっと透は止まれなかっただろう。キスをして、その小さな体に触れ、最後までしてしまっていたと思う。
けれど、そうはならなかった。
もちろん、透が思いとどまったわけでも、愛乃が止めたわけでもない。
「あ、あなたたちっ……な、なにしてるのっ!」
叫び声に振り返ると、そこには知香がいた。
なぜかスクール水着を着ていて、顔を真赤にしている。
知香の姿を見て、透はすぐに冷静に……はならなかった。
半分理性が飛びかかっている。
知香のいる目の前で、愛乃を透は抱き寄せてしまう。
愛乃がびくっと震えた。
「だ、ダメっ。近衛さんが見てる……!」
その言葉でも、透は冷静になれなくて……。
知香が、耐えられなくなったのか、透と愛乃のあいだに割って入った。
「私の見ている前で、ハレンチなことをするなんて許さないんだから!」
知香は無理やり透と愛乃を引き剥がそうとする。
けれど、その拍子に透は体のバランスを崩してしまった。しかも床は洗剤でぬるぬるしているから――。
「え? きゃあああああっ」
透は知香と愛乃を巻き添えに、前のめりに倒れ込んでしまった。
三人仲良く、浴室の床に倒れ込む。
「痛いっ……」
知香の小さな声で、透ははっとする。
知香と愛乃は床に仰向けに倒れていて、透はその上に覆いかぶさるような形になっている。
愛乃はちょっと楽しそうに、知香は恥ずかしそうに透を見つめていた。そして、ふたりとも頬をほんのり赤くしている。
「ど、どいてよ……」
知香の言葉に、透は素直に「ごめん」と言って、上からどいた。
一気に頭が冷える。
(危なかった……)
知香が来なかったら、どうなっていたことか……。
そういう意味では知香には感謝しているけれど、一つ聞きたいことがある。
「ところで、なんでスク水なの?」
透の問いに、知香は顔を赤くする。
「だって、こうすれば、さっきみたいにタオルが透けたり、タオルが落ちて裸になっちゃう心配がないでしょ?」
「まあ、そうだけど……」
横から愛乃がくすっと笑い、口をはさむ。相変わらず愛乃は裸で、手で体を隠している。
「近衛さんも本当は、透くんと一緒にお風呂に入るのをすごく楽しみにしていたんだね!」
「そ、そういうわけじゃなくて……。だ、だいたい、私がいないと、あなたたちさっきみたいに、いかがわしいことをしようとするでしょう? 本当に妊娠しちゃうわ!」
「わたしはそれでもいいんだけど……」
「よくない! 二人とも高校生なんだから! これからも、二人がお風呂に入るときは、私が監視するからね?」
そもそも、透と愛乃が一緒に浴場にいるのを禁止すればいいのではないかとも透は思ったが、黙っておくことにした。
知香が咳払いをする。
「リュティさん……ちゃんとタオルをつけてよ」
「はーい」
愛乃は素直にうなずいて、それから首をかしげる。
「まだ、洗剤が残っているから、洗い流さないと」
「それはいいけど……透は見ちゃダメだからね?」
透も流石に素直にうなずいた。それにしても、知香の目の前でとんでもないことをしようとした気がする。
知香は透のことを嫌っていないと言っていたけど、今度こそ、本当に嫌われたのではないかと心配になった。
ところが、愛乃がシャワーを使っているあいだに、知香は透の耳元に唇を近づけた。そして、恥ずかしそうに、目を伏せて、小声で透にささやいた。
「私が背中を流してあげる」
「え?」
「リュティさんばかり、ずるいもの……」
知香は顔を赤くしたまま、すねたようにつぶやいた。
これにて本章は完結ですっ! 次章からは近衛家の女性秘書や新キャラなども登場し、愛乃とのイチャイチャもますます加速!
面白かった! 愛乃たちの今後が気になる!と思っていただけましたら、
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