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37話 婚約指輪

 登校する途中では明日夏に告白され、教室の前では知香に同じ家に住むと宣言され、朝からいろんなことがあった。


(この調子だと、学校にいるあいだに、とんでもないことが次々と起きるのでは……?)


 無事に愛乃と家に帰ることもできないかもしれない、と透は大真面目に考えていた。

 けれど、教室に入ってからは、比較的平和だった。


 愛乃と透が親しそうにしていることを、クラスの何人かは興味を持っているようだった。

 けれど、明日夏を除けば、踏み込んで尋ねてくるほど親しいクラスメイトはいない。明日夏の視線だけが怖かったけれど、一度ちらりと様子を伺うと、ぷいと横を向いてしまった。


 休み時間のたびに、愛乃が透の席にやってきてくれて、嬉しそうに話しかける。透も嬉しいし、注目も集めるけれど、それだけだった。

 問題は、午前の二限目の体育の時間だった。


 一応、体育は男女別に行われるとはいえ、同じ時間に同じグラウンドで行われる。


 そして、準備運動にはペアストレッチがあるので、二人組で行わないといけない。


 透は親しい友人がいない。が、大木という気の良い変わり者の男子と、いつも体育の時間ではペアを組んでいた。

 だが、その大木が今日は休みらしい。


 参ったなあ、と透は思う。

 大木がいないと、ちょうど男子は端数となる。


 つまり、透は余り物だ。


 教師に相談しようかと思ったとき、後ろから肩を叩かれた。

 振り返ると、そこには体操着姿の愛乃がいた。


「透くん、一人?」


 愛乃はにっこりと笑っている。

 

 以前は愛乃は透にとって遠い存在で、関心がなかった。

 だから、体操服を着た愛乃の姿をちゃんと見るのは、初めてだ。


 上半身が白色の体操服は胸の形がはっきりとわかるし、紺色のショートパンツは膝上までしか覆っていないので、その白い脚がまぶしい。


 愛乃が顔を赤くして、上目遣いに透を見る。


「もうっ……学校でまで、わたしのことをエッチな目で見たらダメなんだからね?」


「ご、ごめん。愛乃さんが可愛くて、つい……」


 透がそう言うと、愛乃は嬉しそうにぱっと顔を輝かせる。そして、得意げな表情でくすっと笑った。


「許してあげる。……家に帰れば、いくらでもわたしにエッチなことができるよ? 楽しみ?」


「そっ、それは……楽しみです」


 透が諦めて正直に言うと、愛乃は「うんうん」と楽しそうにうなずいた。

 そして、愛乃がぽんと手を打つ。


「わたしの体操着姿を、透くんにエッチな目で見てもらうために、ここに来たんじゃないの」


「まあ、そうだろうね」


「あのね、透くん、ペアの人がいないなら、わたしと組まない?」


「え?」


「女子も一人休みなの。だから、どうかなって」


 愛乃も余ったということらしい。準備運動を男女で行うことが禁止というわけでもない。

 ちらりと男子担当の体育教師を見ると、「かまわない」というような視線を送ってきた。


 困っていたので、透にとっても渡りに船だ。


 運動中、愛乃と密着するのが心配だけれど、気にするのも今更だ。


 透がうなずくと、愛乃は微笑んだ。


「じゃあ、やろっか」


 まずは透がグラウンドに座り、愛乃が背中から手で肩を押す柔軟体操だ。

 

「透くんの体、柔らかいんだね……!」


「そ、そうかな……」


 愛乃の手のひらの感触に、透は気を取られてそれどころではなかった。

 今度は透が愛乃と交代する。


 愛乃が座り、透が愛乃の柔軟運動の手助けをするのだ。

 愛乃の背中に手を置くと、愛乃が少し震えた。


「ど、どうしたの?」


「う、ううん。なんでもないの。ただ……透くんの手、大きいなあと思って」


「一応、男だからね」


「そうだよね」


 愛乃はくすぐったそうに、ちょっと恥ずかしそうにしていた。


 こんな感じで、一通りの準備運動を進めていった。愛乃がペタペタと必要以上に透の体を触るのがちょっと気になったけれど。

 

 その途中で、愛乃がちらりと女子担当の女性体育教師をちらりと見た。

 たしか名前は遠野で、まだ若い先生だったと思う。二十代半ばぐらいだったはずだ。


 何を見ているのだろう、と思ったら、遠野先生の薬指に銀色に輝くものがあった。

 透の視線に気づいたのか、愛乃が顔を赤らめて、小声でささやく。


「遠野先生も、最近婚約したんだって」


「へえ。だから、婚約指輪をしているんだ」


「うん、いいよね。婚約指輪……」


 愛乃は小さくつぶやき、それから、はっとした顔をした。

 そして、ぶんぶんと首を横にふる。


「わ、わたしたちには……まだ早いかもだけど……お金もかかるし、ほしいってことじゃないの」


「でも、興味はあるんだ?」


「……憧れなの。うちはお父さんとお母さんの仲が良くなかったから……。ああいうふうに、婚約指輪や結婚指輪をいつもつけるぐらい、お互いのことを大事な存在だって示せるのって、素敵じゃない?」


「わかる気はするな」


 物心ついたときには、透の両親の関係は冷え切っていたから、両親が結婚指輪をしているところを見たことはない。


 もちろん、指輪をしていれば愛し合っているというわけでもないし、していなくて仲のよい夫婦もいると思う。


 けれど、一つの象徴であることは確かだ。


「わたしたちも大人になったら、一緒の指輪をつけられるといいね」


 愛乃ははにかんだように、透の耳元でささやいた。

 透はうなずいて、「そうだよね」と答え、考える。

 

(大人になったら、か……)


 そうなればいい、と透は思い、そして自分の考えに驚く。

 もはや愛乃と婚約者でいることが自然になりつつある。


 でも、愛乃との婚約関係がそのときまで続いているかはわからないのだ。


 近衛家も、愛乃も、透自身も、どんどん変わっていってしまう。数年後、どうなっているかなんて、まったくわからない。


 だけど。


 透は今、愛乃のためにできることをしよう、と思った。

 そして、願わくば……いつか婚約指輪を贈る日が来るまで、愛乃と一緒にいたいと思った。


【★読者の皆様へ 大切なお知らせ】


以上で第三章は完結です。次章からは同棲生活&知香の乱入でますますイチャイチャが加速する!

第三章をお読みになって


「面白かった!」


「愛乃たちが可愛かった!」


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