狂信者と放課後3
そんな事を思案していると、授業が終わる。
すぐに担任が終礼を始めて、連絡事項を話していく。
明日は魔法戦闘についての授業があるそうだ。
体操服があるわけでもなく、普通に制服で受けるそうだ。恐らくその為にローブのような制服にしたのだろう。
魔道士は例外的な状況を除いてあまり激しく動くことはないものの、この制服は少々動きづらい。
終礼を終えたら皇女殿下のところへ向かう。
「皇女殿下、少々よろしいでしょうか」
「はい。何でしょうか?」
「レドル嬢とお会いになる日程ですが、月末の30日となりました」
「ありがとうございます。ではその様にお願いします」
「分かりました。では」必要最低限の事項だけを伝えてそそくさと去ろうとした──
「待ってください!」
「何ですか?何か他に重要な事がありましたか」
「いえ、そういう訳ではないのですが......良ければ一緒にお買い物などはどうでしょう」
皇女殿下は本当に状況を理解しているのかと疑問に思う。
「ほとぼりが冷めるまで少し遠慮しておきます。なるべく他人を巻き込んでしまう様な事態は避けたいので」
今それで買い物に行くとほぼ確実に絡まれる、迷惑をかけてしまう。
バルトールならまだしも皇女殿下に迷惑をかけるのは避けたい。普段から色々な心労が絶えないだろう立場に居る方なのに、これ以上の負担は面倒くさい事になる。
「他人ですか、そうですか......貴方はそんな事で怯む様な人なのですか!」
急にエンジンをかけたように責め立てて来るからビビる。
「すみません。私はあれで怯まない程、できた人間ではないのです」
「そうですか......ならっ!」と俺の手をとり、強引に連れて行かれそうになる。
「ち、ちょっと待って下さい」
「待ちません。待つと貴方は勝手にどこかへ行ってしまいます」
「分かりました分かりました!行きますから手を離してくださいっ!」
「本当ですね?では行きましょう!」
皇女殿下は強引というか、無鉄砲というか、思い切りが良いというか......そういう所が長所であり短所であるのだが。
とりあえず言われるがままついていく。
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「それで、何のお買い物ですか?」
「急に連れ出したのでそれを話していませんでしたね。実はクラネが私の所に来てから来月の初めで丁度5年になるんです。ですから日頃の感謝も込めて......」
記念か。あまりそういう事を記念というのも何か言語化できない気持ちの悪さというか、後ろめたさがある。
「それで何かプレゼントをしたいと言うことですね?」
「はい。それでそのプレゼント選びに手伝って欲しいんです」
「そうですか......ならば先ずはフロスト商会の支店へ行きましょう」
あそこなら色んな品があるからプレゼントも見つかるだろう。
「そうですね」
というかプレゼントを選ぶならバルトールの方が適していると思うが......皇女殿下なりの気遣いだろう。単にクラネのプレゼントを買うだけならバルトールを連れて来ればいい。
だがそれをしないということは、きっと俺に気分転換して欲しいということな筈......
「そういえば、レドル嬢とは何を話されるのですか?」
「そうですね......実のところお話する内容はまだ決めていません。ただ、友好的な関係が築ければいいですね」
今は庶民派が勢いづき、学校が荒れかけている。そんな中で内戦をしたとはいえ、また内部で争えば、たちまち貴族と庶民の立場が入れ替わる。
つまり、国立の機関で庶民が貴族を下した。
これは政治的プロパカンダに使われかねない。今の帝国にとって、この学校の情勢というのは地味だが危ういのだ。
帝国を共産主義者や、民主主義者においそれと渡す訳にはいかない。




