狂信者と一限目1
一時間目は数学だ。頭が十分に回っていないのに数学とは......運がない。喩え中学校レベルのそれとはいえ、体調を含めた管理と準備をするのが筋だ。
うーむ............そうだ、明日から朝に走るか。そうすれば起きることができるし、体力の維持もできる。
というより、カンベル伯爵邸宅に居たときはしていたのにこちらに来てからはやらなくなってしまったモノをまたすれば良い事だ。
全く、忘れっぽい自分が嫌になる。
だからシステムによってそれを補っているのだが、どうしても日々の記録というのはシステムの容量を圧迫する要因になりかねない。
改良する人もいないのに、そう易々と容量を食う事ができない。
システムに入るのは主に軍事関係の情報。古今東西、地球、こちら側問わず。
最近は各国の動向についての情報が更新され続けている。
「ネルラント、この問題を答えてみろ」
案の定明後日の方向を見ていて、授業に集中していなかったので当てられる。
「はい」
そういって立って黒板の前に立ち、チョークを握って答えを書く。内容自体は本当に日本の小学生レベルだ。目を瞑っていても解ける。
「正解だ。だが授業には集中するように」
嫌われたな。なにせ、初回の授業で全く話を聞いていないのだ。今期の数学の通知表は絶望的かもしれない。
「分かりました。気を付けます」
「では、教科書6ページを開けて──」
俺の発言を無視するように授業を進める。思ったよりも嫌われたようだ。まあ、担任でもある訳だし、授業が終わったら謝っておくか。
気を取り直してわ真面目に授業に取り組む。
内容は難しくないし、一度習った事があるため、難なく進めることができる。
流石に授業中に騒ぐなんて事はなかったが、時々小声で話すようなモノは聞こえた。
色々な事があったから仕方ないが、教師としてはそれで良いのかと思う。授業を聞かない奴よりも授業中に会話している奴の方が悪いと思うのだが。
そんなこんなで授業が終わる。
「先生。タルレット先生」
「何だ、ネルラント」
「先ほどは申し訳ごさいませんでした。次からは真剣に授業に聞き入るようにします」
謝罪において重要なのは自分の非を認める事と改善案を提示することだと思っている。そこに言い訳は必要などころかむしろ、悪い印象がつく。
「分かれば良い。それはそうと、言うのを忘れていたが、お前も反省文を三枚書け」
「はい、分かりました。しかし理由をお伺いしても?」
「お前にもあの件についての責任があるとの事だ。だが、まだマシだぞ、他にも停学になった奴は何人も居る。ともかく、退学になりたくなかったら書け」
ハッキリいうと意味が分からない。ではあの場を抑えずに居れば良いと?でしゃばるようなマネはするなと?
巫山戯るな。
教師陣の脳ミソは腐っているのか?
あの裁定をするのにどれだけ苦心したのかを解っていてしているのだろうか。
あの時に教師陣は何をしていたか、ある者は自らの主義主張を好き放題に発言し、またある者は傍観者でいた。
確かにあの裁定は禍根を遺すものだったかもしれない。
だが恐らく、あの裁定をしてもしなくても同じようにクラスの空気はピリピリしていたし、むしろ尚更酷くなっていたような気がしてならない。
流石にこれはキツい。我慢の限界だ。
だが、ここは学校。教師、教師の言うことに従うのが絶対正義。
それ以外は悪であり、排除すべき異端者であり、裁きを受ける者だ。
まあ、下手にどこかの派閥に所属している者を罰するよりも、中立派という、政治的に立場の弱い少数の派閥の者に責任を擦り付けるのが楽で都合が良いのだろう。
学校の教師なんてクソッタレだ。
まったく、腹が立つったらありゃしない。
だが、仕方ない一面もある、自らの失策もある。
派閥争いの結果として弱者が負けさせられただけだ。そんな不可抗力にいちいち構っていては幾ら体力があっても疲れてしまう。
さて、次の授業の準備をするか。




