狂信者と秘密2
「何が聞きたいのでしょうか」
思いきってこちらから仕掛けてみる、こういったこちらを誘うような交渉は先手必勝である。
会話の主導権はこちらに移った。
「アルカナは古シルド語で秘密を意味します」
うわ、めんどくさそう。
古シルド語。共和政クロイセンより更に前、まだババーリアンつまり、現クロイセン人が支配する側ではなく、される側であった頃。
この地にあったのがシルド王国、そしてその公用語が古シルド語。
現在の幾つかの貴族のファミリーネームは土地や、こういった古シルド語等よりとられている場合がある。因みに魔法の名前も古シルド語である。大抵は歴史の変遷で没落し、消えていくのだが、ごく稀に長く続くものもある。レドル公爵家というのも辿ると元々はシルド王家につくという。レドルとはシルド王国時代の地名で現在の港町ネルロの事を指す。
「貴方の秘密を教えて下さい」
「それはなぜ」
「家の存続の為です。その為なら私は喩え何でも致しま「それならばナガサワに色仕掛けでもしては?その方が楽ですよ」
さしづめ、親にカンベル伯爵家の弱味でも握ってこいとでも言われたのだろう。
中立派を買収してそれで色々な融通が効くなら娘の一人や二人は安いという、俺が言えることではないが、それならばクズである。
こちらに連れてこられて随分と経つが、未だにこういった価値観、倫理観には少し抵抗がある。
だが、それにそこまでの嫌悪感は湧かない。
「............」
イリヤ嬢は俯く。
「半端な覚悟で人の秘密を覗こうとしないで下さい」
「............」
尚も俯いたまま。言い過ぎたか。こちらの価値観で一方的に喋るだけでは受け入れられない。
「少々言い過ぎました。さぁ、運びましょう。早くしないとレドル様が風邪を引いてしまいます。家の事情はそれぞれです。一時の迷いで口走ってしまうなんて事は良くあることです。気にしないでください」
「............申し訳ありません」
瞳が訴えている。助けて欲しいと。
助けたい。
できるならば救いたい。




