狂信者とパーティー6
「やぁ、こんばんは」
「あら、ネルラント様ではありませんか」
誰だったか。
「失礼ですがどこかでお会いしましたか?」
「スペンサー伯爵の懇親会、覚えていませんか?」
ああそうだ、思い出した。
「イリヤ・フォン・アルカナさんですか」
「はい。正解です。イリヤで結構ですよ。それにしてもネルラント様はどういった経緯でここに?」
「このパーティの主催者のナガサワ君とは友達でして、そしてここに招かれた次第です。イリヤはどうしてここに?」
「私はお友達の連れ添いです」
そういって視線の先には碧髪碧眼の少女がいた。
「こんにちは、クラエス・フォン・レドルです。お噂はかねがね聞いておりますわ」
「レドル公爵家の方でしたか!いやいや失礼しました、ネルラント・フォン・カンベルです。レドル様どうしてこちらに?」
仮にも公爵家令嬢。立ち回りには十分に気をつけねばならない。その一言の″重み″は下手をすると今の皇家に匹敵しかねない。
「それはですね、一人で街中を歩いていて暴漢に出会ったんですの、そして路地裏に連れ込まれそうになってしまって......それでたまたま近くの道を通っていたのナガサワ様に助けてもらったんですよ。その時に暴漢達を倒した様子は、まるで物語のなかに出てくる英雄のように華麗で俊敏でした。申し訳ございません!話に夢中になってしまって」
「いえ、構いません。その時の様子を詳しく教えていただいても?」
そういうと、レドル様はその時のナガサワの様子を詳しく話し始めた。その時に使った魔法や、戦闘スタイルまで。お陰で貴重な情報が聞けた。
魔法の発動機として重要な杖や魔道書を一切合切使わずに上級魔法をデフォルトで使い、聖剣で暴漢を斬り倒し、目にもとまらぬ速さで動き、一瞬で暴漢達を灰に変えたらしい。
暴漢相手にしては明らかにオーバーキル。
やり過ぎだ。帝国の法に当て嵌めても、過剰防衛、殺人罪に問われても仕方がないぐらいの所業だ。
まあ、バルトールに金を強請っていた男を銃で殺した俺が言う事でもない。そういう点においては俺もアイツも同じく犯罪者だ。
恐らく、助けるのが男ならばそうはならなかっただろう。
アイツは男と会話する時と女と会話する時とでは目つきが違う。
本人は気付いていないのか、テナと会話する時と俺と会話する時とでは目つきが違っていたからだ。
もちろん、俺の事を警戒していただけという可能性もあるが、地球の事を話したあたりその線は薄いだろう。
「それは......凄いですね。それでナガサワはレドル様にとって英雄だと」
「はい//」
レドル様も完全に雌の顔だ。
あまり下品な事は言いたくないが、ナガサワには自重して欲しいとは思ってしまう。吊り橋効果が過労してそうな働きっぷりだ。何をしたらそこまで惚れられるのか......羨ましいという感情は薄いが原理が不思議過ぎてそこに興味が沸いてくる。
人は人のどんな所にその良さを感じるのか、不思議だ。
レドル様は跡取りというわけでもないが、それでも公爵家。
そことナガサワが繋がるとアイツが考えた法が、たとえどんな悪法であっても通りかねない、恋は盲目というがそれは是が非でもやめていただきたい。
一人の男によって国が内側から滅ぶ、そんな事があっては地球の史実以上の後世の笑い話になってしまう。傾国美女ならぬ傾国の勇者か。当事者にとっては全く笑えない話。悩みのタネが増える増える。
実際、地球では門の閉め忘れで帝国が滅んだり、皇帝が皇后の喜ぶ姿を見たいが為に何もないのにわざと軍を首都に呼んで最終的には本当に首都が落とされた国や、手違いで国を隔てる壁を即時に撤廃する、何て事をいってしまったり、経済発展で超大国に勝とうとして、海岸線が発展したは良いものの、結果として、海岸線の都市が弱点になって、急遽第一列島線や、第二列島線を策定したものの、超大国の怒りを買ってしまい、世界を安定させる為のオモチャにさせられたり、内陸部の厄介な事を掘り返されて、その上近くの地域でクーデターを起こされて、国内で聖戦されかねない状況にさせられたり、端から見ると面白い話、当事者から見ると面白くないどころか、顔面蒼白、ストレスで死にそうになるになる話がそこらかしこに転がっている、昔も現在も。
ナガサワと関わる程、帝国にとっての不安要素が出てくる。
アイツをどうやって国外へ安全に追い出せるのだろうか。いや、他の国へ追い出しても、逆にそこからこちら側に厄介事を持ってくるだろう。胃がキリキリと鳴る。
「どうしました?何か体調が悪いように見えますが......」
「いえ、大丈夫です。いつもより長く話をしていて疲れただけなので」
「まあ、それは大変!少し休んだ方が良いのではないのですか」
「いえ、それよりも今を楽しむことが重要ですので」
といって微笑む。上手くできているかどうかは分からないが、ごまかせた筈だ。
「そうですわね、では、貴方も何か面白い話をしてくださらない?」
「ええ、分かりました。では───」
それから、色んな話をした。今日の決闘の詳細や、ナガサワと追試で戦った事であったり、バルトールと食べた塩と砂糖を間違えたパスタだったり、皇女殿下と一緒に食事をした話だったり。
ナガサワの話を主軸として、それ以外の事も話す。
「可笑しいですわね貴方。ねぇ、イリヤそうは思わない?」
「そうですね......特にナガサワ様と戦ってよくもまあ生きていられましたね、私だったら死んでいたかもしれません、戦術級魔法を受けて生きているとは......貴方一体何者ですか」
「実際、その後調べると骨が幾つか折れていました。まあそれだけで済んだことは幸運と言えますね」
骨なんて折れていないし、普通に負けたが。それにまともに戦っても、死合をしても勝てない事は明白だ。努力でどうこう出来る所を越えている。全力を出しても致命傷を与えることができるかどうか............




