狂信者とパーティー1
「ネルラントも大変だったな」
お前のせいだがなという言葉を寸でのところで呑み込む。
「いや、まあこんなことは慣れっこだ」
「良くあるのか?」
「決闘ほどの事は起きないけれど......昔から何かと間に立つことが多くて......な」
その辺は昔から何かの縁か、面倒事の処理をさせられる事が多い。喧嘩の仲裁や、酔っぱらいの対応など、数えていてはきりがないほど......もちろん、好きでそんなことに巻き込まれている訳ではないのだが。
「父上に迷惑をかける訳にもいけないからな、あんな事を言ってしまった」
「そっかいいよ。いいよ......ならお詫びに何か奢るよ」
「それはありがたいが良いのか?」
何かあるんじゃないかと疑ってしまう。
「いや、実は......最近大きな魔物を討伐してね。それで料理をしたはいいんだけれど、それが多すぎて食べれない程なんだ。それで友人を何人か呼んでパーティーをしようと思うんだ」
「魔物?魔物なんて食べれる訳がない!そんな命知らずな事を良くやったよ、絶対に辞めておいた方がいい」
魔物は昔から魔王国の使役動物で、基本的には魔力の濃い場所において、突発的に発生するもの。
それゆえ、魔王国の領地は魔力の濃い場所が多く、未だに人が魔王国への入国が少ない一因となっている。
もちろん帝国内にもそういった発生源は幾つかあるが、そこには定期的に討伐隊が組まれる。この街の近くにも多くの魔物が棲息している。
そして、魔物の一番の廃棄物はそれの肉で、放っておいても、魔物を引き付ける原因にもなる。もちろん獣人族と魔族以外が食べるとその肉の持つ魔力に飲み込まれて暴走する。
暴走した人は街一つを破壊するほどの力を持つ。そして一通り暴れた後に力尽きて死んでしまう。
なので基本的に戦場でも魔物を倒した後は焼くのが軍の規則にも明記されている。
それでも魔物を狩ったり、魔族を襲ったりする事があるのは魔族、魔物には高密度の魔力塊、通称魔石が欲しいからである。
別に魔力の濃い場所には魔石が魔鉱石として、存在しているが、加工しないといけなかったり、鉱石によって品質が安定しなかったりする為だ。
魔族や、魔物の魔石は天然にあるものより、基本的に高い。だから、貴族だったり裕福な商人は魔石を使う道具......杖だったり魔道書だったり、風呂を沸かせる魔道具だったりを作ったり、使ったりする為に何かと理由をつけて犯罪者として高値で、討伐依頼を出すことがある。所謂、暗黙の了解だ。
それはともかく。
「大丈夫だ!俺が食べても特に......あっ!」
「どうした?」
「確か、テナが何か魔物の肉に魔法をかけていた」
「それはどんな魔法だ!?」
というとナガサワはしばらく思案する。
それがもし分かれば帝国の食料事情は大きく改善されることになる。
現状の帝国の食料事情はそこまで悪い事もないがかといって良い訳でもない。平時はそこまで深刻ではないが、戦時となると状況は一変する。
食品系の値段は軒並み倍近くに跳ね上がり、帝国の半分の市場からは食べ物が消える。
塩なんて特に貴重品で高いときには通常の5倍にまでなる、中には塩を違法に精製するなんてものも現れる。帝国政府としてもそれを認知しているものの、事実上の黙認状態である。
かといって前線に食料が行き渡っている訳でもない。兵站部隊が無能という事でもない。
ただ、軍の消費量が多すぎるのだ。
騎兵隊の馬用、補給部隊用の馬の飼料、龍騎士の龍、補給部隊の龍の為の飼料、そして兵士の為の塩漬けの保存食品、そして、その他生活用品諸々。
それを適切な場所に適切な量を送るのだ。
考えるだけでも頭が痛くなるし兵站部隊やそれに指揮を出す主計科のお偉いさん方には頭が上がらない。
「で、分かったのか」
「それなんだが......分からない。今まで聞いたことがなかったから」
「そうか......なら折角だから今から聞きにいこう」
ナガサワのメイドであるテナの腹の内が聞けるかもしれない。
「じゃあ来るということでいい?」
「ああ!もちろん!参加させて貰う......その前に俺は父上の所へ少し挨拶をしにいく」と俺はナガサワより離れる。




