狂信者と入学式7
「はぁ......」
「大変だったね」
「だったねじゃねーよ。お前も止めてくれよ」
「すまない、つい議論に夢中になってしまってね」
「全く」
思わず頭を抱える。
「じゃあ行くね」
「ああ」
因みになぜ話しているかというと単に魔法第七科と特進選抜魔法科の席が近かったからというだけである。
そして教室に向かう。どうやらこの学校は日本人が建てたようだ。至るところにそれがみられる。
植林されている桜であったり、教室内の机であったり、放送機器があったり。
極めつけは日本語で記念碑が書かれていた所だ。
これは少し驚いたが、日本の学校にもない珍しい特徴があった。それは校長室がかなりの大きさであることだ。クラス2つ分位の大きさだ。そこまで大きくする必要性があるのかは甚だ疑問だが。
元々、設計上教室だった所をそうして利用したのだろうか、一般的な校長室よりも大きい。
授業は、1,2年生は完全に教室に教師が来るタイプで外に出るのは闘技場を使うときのみ、3,4年生はだんだんと一部授業が選択式になっていき、5,6年生になると学年関係なく、大学のように自分でカリキュラムを組むようになる。
それはともかく、担任の紹介と各々の自己紹介が始まる。
先ほどのあのような場を納めない、というよりは納められない教師だ。
別に大した事ないだろう。
「まずは、先ほどの場を納める事ができず、挙げ句新入生に事態を収拾させたことを謝罪したい。ネルラント・フォン・カンベル、済まなかった」
「いえ、構いません」
表面上は穏やかに受け答えをする。
「そうか、では自己紹介をさせてもらう。ラキ・タルレットだ。教えるのは数学、では席次一位より順に自己紹介してもらう。名前、得意な魔法属性、趣味と一言」
「こんにちは。ハルト・ナガサワです。得意な魔法ですが″全て″です。趣味は読書、あの様な事を起こした事は反省していますが、俺は差別を撤廃したいだけなんです。それだけは分かってください」
パラパラと拍手が鳴る。
「では次」
「初めましてマリア・ハローネ・クロイセンです。得意な魔法は......氷属性魔法ですね、趣味はお茶会です。皆さん気軽に話しかけてきてくださいね」
皇女殿下は一礼して席につく。
先ほどよりも大きな拍手が教室を包む。
おそらく、貴族が多いからだろう。前皇帝派、女帝派の対立は見られなかった。
簡潔に纏めると、体制派と反体制派の戦いだからだろう。
そこに前皇帝か現女帝かの差は関係ない、平和で安全な現状維持を望む学生達の本音ともとれる。これがどうすれば更に二派閥に分かれるのか、親の影響があるのか将又、ただそれ以上に厄介な相手を見つけたから団結しているのか、それにしても不思議だ。
そこから先はあまり覚えていない。対して気にしていなかった......というよりはナガサワが何か変な行動をしないかどうかを盗み見るので必死だった。
そして、俺にもそれがまわってくる。
皆がこちらを見ている。怒り、羨望、感謝、不安、期待、嘲り、様々な感情をぶつけてくる。
好意的とは言いがたい視線もある反面、肯定的な視線もあるだけマシといえる。
「初めましてネルラント・フォン・カンベルです。得意な魔法属性はありません、どれもこれも下手だからですね。だからクラスでビリなんですけど、趣味は......魔法の研究です。皆さんと仲良く切磋琢磨していきたいと思いますので、これからよろしくお願いします」
型にはまったような定型文と若干の自嘲。それでも拍手が湧く。
好感は得たようだ。
クラスの貴族派と庶民派の割合はだいたい3:1、あのような事があったからか自己紹介の言動から見え隠れしているので分かりやすい。
そこからは、注意事項の説明や教科書を渡す等、ごく普通に進んだ。




