狂信者と入学式?3
この発言の意味する所は実力主義という単なる学校の方針だけでなく、王権主義と貴族制度に対する叛逆だととられかねない。
その後は何事もなく進んだが、これまた新入生代表のナガサワがやらかしてくれた。
「新入生代表宣誓、ハルト・ナガサワ」
そしてナガサワが壇上に立つ。
「えーっと、新入生代表のハルト・ナガサワです。まあ、俺も学校長の言うように実力主義だと思います。それに俺は差別が嫌いです、皇家、貴族、商人、平民、奴隷どの階級の人でも平等に接します。文句があるなら決闘を申し込んで来てくれても構いません。俺は全力で相手します」
ここで見に来ていた貴族がついに堪えきれずに、ヤジを飛ばす。
「いい加減な事いいよって!貴族を愚弄する気か!このワシがお前を教育してやる!!」
もちろん、よく言ってくれたという気持ちもある。
だが、この状況はマズイ。完全に奴の場だ。上手く口車に乗せられている。
それにこれは流石に言い掛かりであるとしか見えない。正論を言う子供に感情論で反論している大人にしか見えない。端から見ればどちらが正しいか火を見るより明らかである。これは生徒側、特に商人や、農民出身の子からまたヤジが飛ぶ。
「貴族だからといって威張るな!」
そうだそうだという声がそこらかしこから聞こえてくる。
それに加えて更に過激な貴族派の生徒の反論が飛ぶ。
これでは最早入学式の体を成していない。
さながら、政治集会のよう。
実際、王権主義、貴族制度の問題は民主主義よりもある一面では多い。
貴族の中には自分たちが高貴なる貴族と言って、差別的な態度をとる人も少なくはない。
今回は今まで精一杯互いに主義主張を抑えていたそれが、学校長によって油が撒かれ、ナガサワの発言によって貴族側、商人、農民側双方の不満を爆発させた。
このような結果を招いてしまった。
そして、これを引き起こした当の本人の方を一瞥すると......全く懲りる様子もなく、議論を白熱させていた。教師陣も軒並み、自らの政治思想を語り合っているならまだマシな方で酷いと喧嘩一歩手前のレベルだ。
学校長も止めるのを諦めて、沈黙を貫いている。
アホンダラが好き放題言いよってからに。
あんだけ言うたならその責任とれや。
さて、この場を丸く納めるには皇女殿下に協力を仰ぐ他ない。
流石にこの状況では多少人が移動しようと気にすることはないだろう。
皇女殿下の肩を軽く叩く。
「マリア皇女殿下」
「はい、何でしょう」
「この場を納めて頂けないですか、このような場を納める事ができるのは皇女殿下のみです。どうか沈静化に助力していただきたい」
「うーん、そうですね。この状況下で前皇帝派筆頭の私が何を言っても無駄でしょう。そうですね、ここは中立派の中でも高い地位にいる貴方が止めてはどうでしょうか」
悪魔かこの皇女殿下は。
政治的に弱い立場の中立派は帝国の中でもごく少数で要職に就いている人間はカンベル伯爵ぐらいである。
だからといって、カンベル伯爵が立場が強いということでもない。
「............分かりました。ダメ元でやってみます」
期待していますよと言ってニコッと皇女殿下が微笑む。
全く、姉妹揃って無茶を言う。
さて、どうするか。
「《シグナル》」
それは打ち上げられて、音と光を発生させる魔法。信号弾の役割を果たす。
その瞬間、会場は静寂に包まれる。
「この場は入学式という場であって、断じて己の主義主張をぶつけ合う政治集会ではない!決闘をするならば、この式が完全に終了した後に、このネルラント・フォン・カンベルが立会人になろう!何か問題は?」
全員が沈黙している。つまり異論はないと言うことだ。
「では!引き続き入学式を執り行う!」
そうしてすかさず進行役に目配りする。
その後は本当に何事もなく進んだ。




